この作品はあらすじがなく、タイトルからもどのような作品なのか想像もつかず、先入観薄めで読み始めました。
結論から、読んでよかったです。
自然は真空を嫌う、不安定は安定を求める、人との繫がり、心の交流が人を成長させるのか。
読後、そのような感想を持ちました。
主人公は男子高校生です。
怪我で部活をやめて以来、日常生活にどこか虚無感を覚えていて、自分が何者かはっきりしない。本来の自分ではない感覚を持っている。
そのせいもあって、物事を曖昧に見ていて、他人との付き合いも軽い接触で深いものにならない。
その彼が一人の少女と出会い、興味を持ちます。
彼女はいつも一人でいて、すぐ眠る。言い回しは個性的で内容も哲学めいている。
自分が何者かよく知っていて、よく知っているからこそ他人がよく見える。
実際、彼女は彼のほうをしっかりと見ていて(彼女は見ていないと否定していますが)、彼のものの見方を見抜いています。
そのような二人が言葉を交わし、交流していくのですが……。
その結果どうなるかは読んでもらうとして、僕がとくに印象に残ったのは終盤のシーンでした。
抜け落ちた栞、彼が初めて見たもの、彼女がその人の頭のなかと喩えた本棚からわざわざ選び出し、渡した本のタイトル、その本に向き合いページをめくる彼、この流れがとても繊細な表現で、僕の胸を打ちました。
とてもよい作品です。