第6話【クリスタル】マスターの力の起源
【クリスタル】マスターの力の起源
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「パンパカパーン!なのじゃ!チュートリアルを開始するのじゃ?」
ホレホレどうなの?どうなのぉ?と言わんばかりに、両腕を後ろに回して腰の辺りで組むと、前屈みになっておしりフリフリしている。カワイイ!
「いや、次頼むって言ったし!そんなに撫で撫でして欲しいなら仕方ないな~」
撫でられて満足したのか、離れていくクリスを見て俺も満足した。
「にゃふふ~♪それなら仕方がないのう。始めてやろうなのじゃ~」
テレテレしながら解説を始めるロリっ娘を眺めて、ニヤニヤしながら解説を聞く俺...幸せだ。
「β版では公開せずに秘密にしていた新システムがあるのじゃ。ババーン!【クリスタル】」
手に乗っている拳大の青い結晶が、新システム【クリスタル】らしい。
「これはじゃのう。主と定めた使い手と共に成長し続ける。最初にして最後の装備となるプレイヤーのパートナーなのじゃ」
ん?装備?パートナー?これは興味深いな。
「プレイヤーから読み取った情報と、これからの行動全てを糧として進化していくと言えばよいのかのう?形は特に決まっておらんのじゃ。武器なのか?防具なのか?アクセサリーなのかもしれん、生き物の様な形を取る場合もあり得ると聞いておるのう」
ムムム!と唸りながら腕を組み、顎に手を当てるクリスたんはカワイイなぁ。クリスたんマジ天使だわぁ。
「それでは、この【クリスタル】はユートの分身となるのじゃ。大切にするんじゃぞ?」
クリスの手からフワフワと浮かび上がったかと思えば、俺の方に向かって【クリスタル】が飛んできた。
手を伸ばして触れると、【クリスタル】が青い輝きを放ち始めた。
「不思議な光景だな。確かに青く光っているはずなのに、俺にはこの子が銀色に見えてくる」
「その銀色はユートの色じゃろう。心の中にある様々な感情や記憶が【クリスタル】に流れ込んで、ユートと共鳴しておるのじゃ。我にもユートが淡く銀色に光って見えるからのう」
[マスター.....マスター....聞こえますか?どうして、マスターは護りたいのですか?何を守る必要があるのですか?マスター....私はマスターの事が知りたい....もっと深く、もっと貴方に近づきたい....貴方を...感じたい]
頭の中に直接響いてくる声は、とても優しく俺を包むかのようだった。
不思議だ、こんな暖かい気持ちがまだ俺の中には残っていたんだな。
そう、俺は護りたかった。守りたかったんだ。
この感情の発露は両親の死だった。7歳の誕生日の晩だった。
パーティーをするから、楽しみに待っててくれと出かけていった両親は....帰って来なかった。
(プレゼントを買ってくるからね?ケーキだっていつも食べる小さなのじゃなくて、大きなの頼んだんだから!遠慮しないでいっぱい食べていいんだからね?)
両親が帰ってくるのをウキウキして待っていた俺は、ふと気がついた....時計が指しているのは既に午後9時を過ぎている事に、いつも帰宅は午後6時、遅くても連絡も無しに午後7時を過ぎる事なんて一度も無かった。
玄関の扉を開けて外に出ると、ポツポツと振り出した雨が俺を濡らした。
22時、23時....まだ帰ってこない。おかしい、どうしたんだろう?
玄関で待ち続けた俺に、扉の向こうから聞いた事がある声が名前を呼んできた。
「勇人!勇人!おらんか!ワシじゃ、爺ちゃんじゃ!」
扉を開けた向こうにいたのは、険しい表情をした祖父だった。
「すまん!勇人よ、ワシはお前にどうしても言わにゃならん事がある。よく聞くんじゃ、お前の父さんと母さんが交通事故で死んでしもうた。」
あの時はどうして?どうして?と祖父に問いかけて涙するしかできなかった。
すまん!すまん!と俺を抱きしめて謝る祖父の腕の中で、泣き疲れた俺は目を閉じた。
知らない間に大切な人を失った俺は、どうすれば良かったんだろう?自分には何か出来なかったのだろうか?と考え続けた。
祖父に引き取られた俺は、自問自答の果てに見当違いの答えを出した。
(自分が強ければ、大切な人を守れる力があれば、困難を打ち砕く強い意思があれば)
祖父の家は、古くからある道場だった。もう時の彼方、遥か昔の技術である、剣術・弓術・柔術や馬術等の戦国の世から在り続ける技術を、今に伝える武の家系だった。
幼い俺は、祖父に教えを請い.....自分の弱さから逃げる為に強さを求めた。
体を鍛え、木刀を振るい、型を覚えて研鑽を続ける日々は確かに俺を強くした。
子供相手に本気で指導する祖父は、きっと俺の間違いに気づいていたんだろう。
それでも、俺が納得するまで付き合ってくれたのは、祖父自身が感じた無力感や罪悪感が背景にあったのかもしれない。
そして、跡目を継がないで家を出た無才の父に比べて、息子が示した才能や可能性を練磨する事に新たな生きがいを得たのかもしれない。
12歳を迎える頃、俺は自分の弱さを受け入れ、過ちに気が付いた。
遅すぎだろって思うか?それでも、折り合いをつけるのに苦労したんだぜ?
俺はそれでも尚、力を求めた。
武を修める日々は勿論大切ではあるが、学業も必要であると一応は学校にも通った。
人とは弱いもので、己を律する何かがばければタガが簡単に緩む
[強きに巻かれ、侍り、付き従う者]と[己が欲を律し、弱きを助け、規範を正道とする者]そして、[大した意思も無く、芯も無く、志も無い傍観者達]
およそ、7.8割が目に見えて分かる悪と正義と無に分別出来る。
俺はその他2.3割に属する中でも異端だった。
どれもが気に入らなかった、だけど弱者として虐げられる人を捨て置けずにいた。
結局、両親の死を引きずったまま答えを出せなかった俺は、目に見える範囲で虐げられる誰かを守る事で、自分を守りたかった、守る事で自己満足したかったのだ。
個人も集団も関係無く強きを挫き、弱きを守った。
常識だの校則だのと煩い奴等も全員力ずくで黙らせた。
祖父も好きにやれ、間違っても良い、頭なら幾らでも下げてやるから、答えは自分で見つけろって言った。
その結果、最初は感謝して礼を述べていたはずの弱者達すらも、俺を恐れたり、嫌って遠ざかっていった。俺は.....一人だった。
俺は自分が歪み、間違っている事を自覚していた。けれども、答えを出す事もできず、やめる事もできないでいた。
今でも思う、その時既に相当な武の高みにあった俺を止められるような人間はいなかった。
同年代は勿論、成人男子で格闘技を飯の種にしているような人間が相手でも数分とかからず命を奪える力があった。
運が良いのか悪いのか、決定的な間違いを犯す事は無かった。
16歳の秋、目標も見つけられずに腐っていた俺にも転換期が訪れる。
俺を変えたのは、病に侵された一人の少女だった。
「お兄ちゃん、何で泣いてるの?どこか痛いの?」
公園のベンチに座り俯いていた俺に、車椅子から身を乗り出して声をかける少女がいた。
「俺は別に...」「ならどうしてそんなに悲しい顔してるの?やっぱり泣いてたんじゃ」
「俺に何の用だ!何が言いたいんだよ!」
「私ね?明後日手術するの」
「俺には関係ないだ」「毎日見てたの、いつもここで同じ顔してた」
「自由に体が動くのに、立って歩ける....ううん、走り回れる位元気なのに全然楽しくなさそう」
「それがどうしたっていうんだ!それとお前が手術するのに何の関係がある!」
「覚えてないんだね。私がここで虐められてたのを助けたのはお兄ちゃん」
「え?」
「体が弱い私がみんなと遊ぶ事も出来ずにノロマだって、女の子だって味方がいなかったのよ?それでも一緒に遊びたくて、ついていこうとした私を男の子は突き飛ばしたの」
「そんな事、覚えてないな」
「でも、私は覚えてるの!その時、他の子達にも囲まれて、来るな、あっちいけよって言われて泣かされたのよ?」
「おい!お前等、男が女を虐めて恥ずかしくないのか!ってゲンコツしたの覚えてない?」
「その.....少し、思い出してきた」
「結局、男の子達は逃げちゃったし、私はお母さんが迎えに来たから連れ帰られちゃった。そして、帰ったら倒れちゃったの。」
「病院で検査したら、心臓に異常があってね?交換しないと死んじゃうんだって、交換しても体に合わなかったら死ぬし、手術の成功だって20%って言われたのよ?」
「だから、話をするなら今日か明日しか無いなって思ったら、声をかけちゃったの」
「そうか、その...忘れてて悪かったな」
「いいの、話せて良かった。最後になるかも知れないからお礼が言いたかっただけなの。でも、せっかく動く体があるんだから、お兄ちゃんは元気に生きて欲しいな」
「あのさ、俺が助けたって言ったけど、無駄じゃなかったか?」
「そんな事ないよ!入院してからね。クラスのみんながお見舞いに来てくれたの。その時に女の子だけじゃなくって、男の子達もみんな来てくれたの。虐めて悪かったって、お兄ちゃんに殴られたってお父さんに話したら、当たり前だ!って怒られたって」
無駄じゃ無かった。
ほんの小さな事だったけど、この時に俺の中に明かりが灯ったのだ。
「お兄ちゃんありがとう!私、絶対元気になるから、歩けるようになったら一緒に遊んで欲しいな!お話ももっとしたいの」
「ああ、約束だ。指切りしよう、絶対破らないって誓うよ」
「「指きりしましょ。嘘ついたら針千本の~ます。指切った!」」
結局、この約束は無事果たす事ができたのだが、ここからはまた機会があれば語る事もあるだろうと思う。
この少女の名前は、国咲(くにさき)結(ゆい)といった。
再会の後、俺と少女は一つの大切な約束を交わした。
【俺は自分の手が届く範囲で、全力で大切な人を護り続ける、力及ばず挫ける事があっても、何度でも立ち上がり、決して負けない】
これまでの人生全てが俺の起源であり、護りたい・守りたいという意思の根幹である。
それからの人生はガラッと変わった。
道場の後継者として、祖父からの指導を再開してもらい、更なる力を身につけた。
「腐ったかと思えば、殻を破って一端の武人に成ったのう。これで一安心じゃ」
叔父にそう言われた時は、何かむず痒い気分になったが、今まで見守ってくれた叔父だけではなく、祖父にそうまで同じ事を言われた俺は感謝で涙が止まらなかった。
両親の遺産が手付かずで残されていたが、それを使って俺は道場の規模を更に拡大した。
叔父の伝手で凄腕の弁護士に協力を仰ぎ、自治体や教育関連施設と提携して道場としてだけでは無く、新たな道を作り出した。
下宿の整備や補助金制度の構築、道徳関連の指導や護身術の普及を行い、実績を積んだ上で、警察組織や国防組織にも提携を申し出た。
技術の進歩や教育制度の改悪による、道徳的な面の指導不足や精神的弛緩が問題視されており、組織全体の質が落ち、それが年々顕著になっている等と世論でも話題として取り上げられていた。
俺は知らなかったが、祖父は武術家としてもその筋でかなり有名らしく、その申し出は政府としても渡りに船だったらしい。
道場としてだけでなく、訓練施設としても活動し始めると、祖父の伝手で時の流れに消えようとしていた武術家達が集い、ここで訓練を終えた仕官達は肉体的にも精神的にも大幅に成長してくると評判になった。
叔父達武術家も、歴史の中に埋もれて消え行く技術だと諦めていたが、考えを改めたらしい。
俺も師範として協力するつもりだったのだが、祖父が「武の道を登り始めたばかりの18にしかならん若造が何を言っておる。武にばかり携わって自分の生き方も、世の動きも分からんのだろう?それに、遊ぶ事も知らん者が人に厳しさなど教えられるものかよ」と俺の意見を一蹴したので、そこで問題が発生した。
確かに、俺は武を捨てた時.....何をどうするか、自分の生き方に皆目見当がつかなかったのだ。
それから二年間、ネットでゲームをしてみたり、祖父に連れられて世界を旅したり、一般常識や法律を学ぶ事に時間を費やした。
まだまだ、人生経験が足りなさ過ぎると祖父に言われたが、そもそも「勇人よ、ワシはちょーっとばかりおかしな事を言うが、真剣に考えてみよ。お前さんの志というか、生きる原動力というか、ワシに聞かせてくれた約束の内容はのう.....生まれる時代か世界を間違えとりゃせんかい?」
子供同士の約束だから、その時には確かに真剣で何物にも変えがたい願いだったのだ。
だが、成人した今に成って考えてみると「中二全開」でもあった。
だが、そこで俺の人生が変わったのも確かなので、やはり俺にとっては大切な約束である事に違いはなかった。
「じゃからのう、ホレこれを見てみよ。このVR技術について政府が何やら動いているらしいのじゃが、かなり大掛かりなプロジェクトなのは世間でも話題になっておろう」
それは、クリスタル・ファンタジア・オンラインβテスター募集のお知らせだった。
「知ってるよ。俺も募集に応募してみたけど落ちたんだ。」
「ほう、ならばこれをやろう。1次募集の定員内定者が記入する書類じゃ」
「は?何でそんな物持ってるの?」
「そりゃ、その年になっても彼女もおらんし、接してる女といえば、あの約束の娘っ子と道場に通う数名の若い子位で、まともにでぇともしとらんじゃろ?ワシが若い頃はすっげーモテモテでのう。まぁ、黙ってても女が放って置いてくれんかった。」
いや、モテ自慢なんか聞いてねぇって爺ちゃん。
「んでのう、婆さんと知り合ったのは、その時でのう。もう熱烈なあっぴーるを受けたワシ、もうたじたじじゃった。たくさんの女子がもう選り取り緑深緑どころか黄緑&ビリジアンじゃったわいのうホッホッホ」
ウゼー爆発しろよジジイ!ってかどんだけ話盛ってるんだよ!ってか最後らへん意味わかんねぇっての。
「じゃから、生涯の伴侶ぐらい見繕ってくる機会を強引に作ってやったんじゃよ」
いきなり真剣な顔になった爺さんが告げた。
「何年でもかまわん、全力で何かに打ち込む事。生涯大切に出来る女を連れて来い。それが跡継ぎとしての条件じゃ。それと、これをお前に授ける。既に実力は免許皆伝に至っておるお前に教える事など心構えくらいのもんじゃ。その書に書かれているのは奥伝として語り継がれていたが、ここ数十代の間、誰も会得した事の無い、我が流派の秘奥じゃ。ワシも使えん」
「VR空間というのは、どういう物かわからんが、恐らくは現実では出来ぬような事も可能になる世界であろう?なればお主なら会得出来るやもしれん。」
こうして、俺がクリスタル・ファンタジア・オンラインの世界にダイブする事は、決定事項となった。
だけどこれだけは言っておくが、この瞬間確かに俺は爺さんに感謝していたし、この判断は間違いなかったと、今でも思っている。 爺さん、本当に感謝している。ありがとう!
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