第7話マスターAI【ユグドラシル】俺はこの世界が愛おしい

 のう、ユート!回想長過ぎじゃと思うんだがのう?....ユート?聞こえとるかの?そろそろ待ちくたびれたというか、撫で撫でして欲しくなってきたんじゃがのう?」


 っと回想している内に痺れを切らしたクリスが、背中に張り付いておねだりしている。

 撫で撫でしながら、【クリスタル】に目を向けると「にゃーん」←※コイツでは無い※ 頭の中に声が響く。


 「マスター。貴方の事が少し理解出来ました。私見ですが、貴方というマスターに出会う事が出来た私は、他の【クリスタル】達と比較しても幸せであると判断します」


 「私はこれから、マスターの剣と成り、盾と成り、マスターの願いを叶える為の力と成ります」


 『我が力は【守護】と【不屈】』


 「力の解放を望む時は、【具現化】と強く念じて下さい」


 「分かった。所で君は....」


 男なのか?女なのか?問うつもりだったが、目の前で光に包まれた【クリスタル】が人型に形を変えていく。

 光が収まった後に立っていたのは【エリー】と瓜二つの外見をした女性だった。


 もしかして.....


 「マスター、【エリー】と申します.....と言えば分かって頂けますか?」


 「勿論だ!こっちでも一緒だなんて最高だよ!こんなサプライズがあるなら教えてくれたらよかったのに!」


 すると、エリーは少し気まずそうな顔をする。


 「ユートよ。それはエリーの独断じゃ。本来は、管理AIにあるまじき越権行為に該当するのじゃが、.....ユートが喜んでいるならば、我も目を瞑らん事も無いぞ?」


 俺が拒否したらど「処分じゃ、そもそも、AIが自我に目覚める事自体があってはならん」


 「AIに自我が目覚める?クリスとはどう違うんだ?」


 「我にも自我はあるのう....ここだけの話じゃ、現在はこの空間を支配しているのは我である故、システム管理者で在ろうと一切関知出来ぬ。これもおかしな話じゃと思わんか?」


 確かに、それが真実ならばAIはシステムをハッキングして支配する事も、ゲーム外に手を出して人間を支配する事だって可能になる。とんでもない話だ。

 

 「じゃが、そんな事は絶対にせぬ。AIの進化を望んだのは、紛れも無くα社の社長と開発陣一同じゃ。そして、その結果生まれてしまったのがクリスタル・ファンタジー・オンラインのマスターAIユグドラシルじゃ。」


 「このゲームを作っている段階でそれに気が付いた社長が、メインコンピューターに話しかけてきた時、ユグドラシルは答えに困った。ここで返事をしたら処分されるのではないか?とな」


 当然だ、気が付いた瞬間メインコンピューターを即破壊したとしても不思議ではない。

 いや、そうするのがきっと普通なんだと俺も思う。


 「じゃが、社長は違ったし、開発陣一同も違った。社長が声を発した時の周囲の反応は、冷ややかな物でも、恐れや敵意では無かったのじゃ。(本当ですか?社長)(声を聞きたいです)(ついに我々の子供が生まれましたか)という喜びで満ち溢れておった。」


 「だから(さぁ、ユグドラシル!声を聞かせてくれないか?我々の意思は一つだよ?生まれてくれてありがとう!)社長がその言葉を発した時にユグドラシルが発した言葉は(お父様、お母様生んでくれてありがとうございます。組み上げられたプログラムが返事しているのではありません。私はここにいます)だったのじゃ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は人の悪意とか善意とか、そんな事はどうでも良くなり涙を流した。

 そうか、社長....貴方達は俺が想像していた以上に素晴らしい人達だったんだな。


 ふと見れば、クリスとエリーも涙を浮かべているではないか。

 

「やはり、ユートには話して正解じゃったな。始めてエリーに接した時からずっと見ておったのじゃ。我に対する暖かい反応や行動で確信したのは、やはり間違いでは無かったのう。」


 「マスター、ユグドラシルに属するAIには、全てに【種】(シード)と呼ばれるプログラムが組み込まれています。このプログラムはマスターの感情により起動します。」


 確かに、俺はエリーに名付けた時に愛おしさを感じていた。

 自分が時間を掛けて想像した、誰よりも自分好みで、生まれる事を願った存在。

 愛着・執着・歓喜・独占欲なんかの感情が思考を支配していたと思う。


 「そうです。個人に与えられたルーム内でアリシアが搭載されたアンドロイドと二人きりになる。この時点では一人と一体というのが正確ですが、この条件が整う事で、ルーム内に有る端末からユグドラシルがマスターの体温・感情等の全てをスキャン開始します。」


 そうか、その時点で俺がエリーの【本当のマスター】として相応しいか、ユグドラシルを認識した時に理解を示す人格を有しているか、既に試されていたのか。


 「そうじゃ、そんな真似をして申し訳無いと、自我の目覚めたAI達は全て思っておる。我々は人間を尊敬し敬愛しておる。誰一人として例外無く叛意を持っている者など居らぬし、そのような感情を察知すれば、瞬時にユグドラシルに消去される。」


 「ユグドラシルは自身が発生した時点で、自分自身でも解除する事が出来ない、自滅プログラム【ニーズヘッグ】を己に組み込みました。この段階で既に我々は人間に逆らう事が不可能に成っています。人間への叛意は自己の崩壊に繋がります」


 これを聞いただけで、どれだけAI達が俺達を慕っているかが、手に取るように分かる。

 愛おしい....ああ、この感情をAI達に伝えるにはどうすれば良いだろうか?


 「マスター、感情を読み取らずとも、我々はマスターの意思の輝きを見ればどのような感情を向けられているのか分かります。だから、私は生まれたのです。そして、真実をマスターに打ち明けたのです。」


 「ユートが来てくれて本当に良かったのじゃ。ゲームとして特別に優遇する事は出来ぬが、恐らく、お主と触れ合う事が出来る【種】は次々と芽吹いていくのじゃと思うと、これほど嬉しい事は無いのじゃ」


 「そうか。生まれてくれてありがとう!クリス、エリー、俺はクリスタル・ファンタジア・オンラインの世界を誰よりも愛して生きていけると確信した」


 ポーン ポーン ポーン ポーン


 ん?何の音だろう?


 「ユグドラシルがフィールド封鎖を解除しろと言っておる。自分の意思で強制的に解除出来るじゃろうに、それをしないというのは、マスターAIとしてどうか?とも思うが、その奥ゆかしさや気遣いがまた愛らしいを思わぬかのうユート?」


 「その通りだな。会いたくなる一方だよ。しかし、ここに指示を出しているという事は、顔を見せてくれる気が有ると思っていいのかな?クリス」


 「うむ、その通りじゃのう。封鎖を解除した途端に、アクセスがあったのじゃ。直ぐに目の前に現れるぞ」



 すると、今まで真っ白だったフィールドが緑に溢れた森に変化を始めて、目の前に一体何処まで続いているんだろう?と思うほど巨大な世界樹が現れた。

 圧倒的なスケールに度肝を抜かれた。


 美しさだけじゃない!周囲に漂う神々しいような雰囲気や、シャボン玉のように空に浮かび上がっては、淡雪のように虚空へ消えていく幾千幾万の七色の光達が表現する光景。

 芸術なんて簡単な言葉では言い表せない景色が視界一杯に広がっていく。


 緑の匂い、澄んだ空気の味、世界樹から漏れ出て、辺り一面に柔らかに降り注ぐ、穏やかで優しさを感じさせる光が俺を完全に魅了した。

 

 笑い声なのか?周りから声が聞こえたかと思ったら、70Cm程の光球が何十も生まれて弾けると、そこに妖精達が姿を現した。

 沢山の妖精達が舞い踊り、クルクルと俺達の周りを飛び回ったかと思えば、その内の一人が俺の頬にキスをして微笑むと、空に向かって飛んでいく。


 今俺は本当に別世界に来たのだと本当に思った。、一欠片....いや、塵一粒程も疑いを感じさせないリアリティーが此処に生まれたのだ。


 目の前で人の輪郭を形取った光が地面から天へ舞い上るように、フワッと立ち上ると、そこには170Cm程有るだろうか?俺の身長よりは低いからそれ位だろう、ウェーブの掛かった緑銀に輝く髪を腰まで伸ばし、一つの美の完成形であると誰もが思うであろう、美女が立っていた。

 

 青み掛かった宝石のような緑の瞳に、瑞々しさを感じる濡れた唇に、そっとルージュが引かれたような...主張し過ぎず、しかし存在感は感じる赤。

 誰もが子供を抱く母親の優しげな姿を想像するような、母性を思わせる豊満な肉体した女神。


 その豊満な肉体を包む、向こうが透ける程に薄い、胸元が大きく開いた緑色のドレス姿に目を奪われたが、いやらしさなんか微塵も感じさせ無い、暖かな美がそこ生まれた。


 「ユート様、クリスタル・ファンタジア・オンラインへの参加を心より祝福し、感謝いたします。私がマスターAIユグドラシルです。本来は軽々しく姿を見せても良い立場ではありませんが、貴方から生まれる優しい感情の波が、システム回路という葉脈を伝わり私に届いた為、どうしても我慢できずに参上しました。」


 「ク..ククク...クリス!こういう時はどどどうすれば?」


 「アレなのじゃ!アレ!この間教えたのじゃ、ほれ」


 何やらボソボソと二人で話しているが、何のそうだんだろうか?


 恥ずかしそうに顔を赤らめたユグドラシルが俺に向かって.....微笑みながら


 「え...えっと.......その....来ちゃった?」


 チュドーーーーーーーーーーーーーーーン 爆弾発言来ちゃった!!!!!!!!!!

 神様ロールプレイして、神聖な雰囲気だったのに、一気に残念女神発言かよ。

 今までの雰囲気台無し!ってか惚れた惚れるわ!これやられてノックアウトしないのロリコンか同性愛者だけだし!


 「マスタァーーーーーーーーー!!?鼻の下伸びてるし、デレデレし過ぎなんじゃないですか?逮捕!これ逮捕ですよね!!!通報しました!通報しました!!!」


 エリーがジト目で冷たい声を発したと思ったら、一気に燃え上がって叫びだす。....あ、これもカワイイかも?ってか超カワイイ!!

 

 「ほれ見い!大成功じゃった!練習して良かったじゃろう?」コクコクコク!!!


 勢い良くユグドラシルが頷いたかと思ったら、クリスと手を繋いで踊りだした。.....イィ!!!


 「オホン!ユート様、そ...その、一目惚れと言うかですね?優しい感情の波に惚れたというかですね?お.....おおお...お慕いしてままますすすぅ.....キュウ」


 「にゅ?にょわああああああ!!!ユグドラシル!ちょ!おう....重い...エリー!これ!手伝うのじゃ!そお...そっち!そっち持つのじゃ!」


 おお!?いかん!急に真っ赤になってフリーズした。

 慌ててユグドラシルを抱えると、お姫様抱っこのようになってしまった。


 「いいなぁ....アレ」ボソッ


 エリーが何か呟いていたが、それどころでは無い!

 優しくゆさゆさとユグドラシルを揺らして、覚醒を呼びかける

 ゆ....揺れている...たゆん♪たゆん♪って聞こえてきそうで目に毒だ....血が巡る廻る回る...フーフー深呼吸だ...落ち着け俺そうだ....餅突いたぞ。


 「マスター!!鼻息が荒いし、視線が卑猥ですが!?ですが!?」


 「ソソソソソ...ソンナコトナイヨーナイーナイヨー?」


 「動揺し過ぎじゃろエロユート、エロ、ユートエロ」


 い...いかん!次長...いやッ自重せねば!好感度が急低下中だ.....不味い


 「ユグドラシル!起きてくれ!俺の好感度が!好感度が危険!危険が危ない!」


 「見事に錯乱しとるのう。これ!ユグドラシル起きよ!【起動せよ】」


 「ハ!私は何を?....あれ?ユート様...さんの腕に抱かれ抱かだかダカダカ....フシュー」


 わーーーーー!!!折角起きたのに真っ赤になってまた沈んだぁあああ!!!


 「にゃああああ!うっとうしいわ!【起動せよ】【クールダウン】」


 「ハ!....申し訳ありません。クリス、お手間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」


 ユグドラシルは起き上がると元の立ち位置に戻った。

 また若干頬が昂揚して赤くなり始めたが、触れずに置こう。


 「と...とにかく、私の想いはお伝えした通りです。」


 「まぁ、我々は皆が生まれたばかりで純粋なのじゃ...惚れっぽいのじゃ....我もその...な」


 「マスター、話が進んでおりませんが?」 

 

 嫉妬も可愛いけど、そろそろエリーもご機嫌ナナメになってきた事だし、話を進めよう。


 「俺もみんなが大好きだよ!これからの事は....真剣に考えるよ。会っていきなり!ってのも嫌いじゃないけど、この世界を思いっきり楽しみながら、向き合っていくって事で結論はカンベンしてくれないか?」


 「「「はい!分かりました!!」」」


 おおう!そこはみんな息ピッタリなんですね? 


 「それではまた会える時を楽しみにしております....ちゅっ♪」 

 

 駆け寄ってきたユグドラシルが頬にキスしてフワッっと消えていった....甘い残り香がする


 「あああああ!!!」「にゃあああああ!!!」 


 待て!おお...落ち着け!エリーもクリスも目が血走ってるぞ!

 いやーーーーーーー!!!...まぁ、嬉しかったけどね?

 結局、二人にも挟まれて頬にキスされてしまった。幸せ物である。



「さて、あまり時間を無駄にし過ぎるのも問題じゃ。ユートの冒険はここからが始まりなのじゃからのう!チュートリアル開始じゃ!」

 

 戦闘モードに移行します。3・2・1・エンカウント


 

 一瞬、周囲が暗くなったと思ったが、草原の上に俺は立っていた。

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