第7話 劣勢
戦闘開始後すぐにジャバウォックは大きく風を揺らし翼を広げ、空気を激しく裂き勢い良く高度300mほどの空中へと回転しながら上昇した。
自らが得意とする闘い方で一気にけりをつける気だ。
こうなってしまってはジャバウォックの優位は簡単には揺らがない。
「戦闘開始後すぐに重力魔法で、地面を這わせてやろうと思ったんだけど詠唱間に合わなかったかー。けどまだまだ想定内!」
そう言うとアスラの服や髪がふわふわと重力に逆らいなびき、ゆっくりと宙に浮いた。
そして、戦闘機くらいの速さでジャバウォックの居る高度まで急上昇した。
「空中戦得意なんだっけ?俺も得意だからフェアだよな!!」
喋り切る直前でアスラはジャバウォックの懐に一瞬で潜り込み、持っている2本の剣で思いっきり切りかかった。
回避行動に移らなかったジャバウォックの腹部に鋭利な刃物が直撃するも、まるでトランポリンにジャンプ蹴りをしたかのように、アスラのエルシェンドは弾かれた。
懐で僅かな隙を作ったアスラをジャバウォックは見逃さなかった。
ジャバウォックは魔法で自らの腹部前方の狭い範囲にアスラがすっぽりと収まる時間の流れを遅くする空間を作り出し閉じ込め、ジャバウォックは10mほど上昇した。
アスラは脱出を試みるもまるで静止しているかのように体がいう事を聞かない。
ジャバウォックは口を開けると口前に赤い光が集まっていき、あっという間に直径5mくらいはあるだろう炎がめらめらと湧き出す球体を生成し、アスラに向けて発射した。
脱出の間に合わなかったアスラに炎の球体が直撃。それと同時に時間の魔法は掻き消え、アスラは炎の球体と一緒にもの凄い速さで闘技場の武舞台に落下した。
土煙が舞い武舞台の破片が一輪の打ち上げ花火のように辺りに舞散った。
すでに圧倒的であるがジャバウォックの攻撃は止まない。
先程と同じ炎の球体を何発も何発も撃ち込んだのだ。
その後ジャバウォックは、大きく口を開き体に光のエネルギーを取り込みだした。空は夜のように暗くなり、ジャバウォックは体から無数の電気を放電し始めた。
ジャバウォックの目が白光りすると一瞬周囲の色彩が無くなり、色が戻ると同時にジャバウォック最大の奥義である雷纏った40m程の炎の球体をジャバウォックの口前に生成した。
ドンっと凄い音が鳴り響くと同時にそれはアスラの落下した場所に向けて放たれた、空気を激しく切り裂きながらあっという間に直撃し武舞台は、木端微塵だった。
武舞台に直撃した時の爆風と衝撃波は闘技場をあっという間に破壊し吹き飛ばせる程の威力だったがさすがはゲームだ。
しっかりと観客席に張られたバリアが機能を果たしていた。
しかし、立ち見していた観客全員に悪い予感が立ち込める。
それもそのはず。アスラがこれ程の劣勢に立たされたは初めてなのだ。
闘技場にはジャバウォックの勝ちを確信した空気とアスラの敗北を漂わせる空気とで静まりかえっていた。
しばらくの静寂の後、土煙が徐々に止んできた。
土煙の奥に見えてきたのは、ボロボロになりながらも何とか立っているアスラだった。
しかし、状況は最悪だ。
何故ならジャバウォックはまだノーダメージでアスラは瀕死の状態、更にはジャバウォックの体力の尋常じゃない多さ、そして回復技一切使わないといううたい文句で有名なアスラがそれを曲げてまで勝利に走る事は考えづらく、また、仮に勝利に固執してもかなり長い詠唱時間を必要とする回復魔法はタイマン
で使うのは自殺行為な為、逆転はまず不可能だ。
それは闘技場内の全員の周知の事実。
「アスラの伝説はここまでか、、、」
しかし、立つのがやっとのはずのアスラの目は死んでいなかった。
アスラは右腕を突き上げ、空を指さした。
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