三章_ニ
「っ、あなたは……!」
「瑠璃…ッ」
建物の
瑠璃は紫苑たちの方へ身体をむけた。
「なるほど、
「瑠璃! 待っ……」
いつもの
こちらも常ならぬ表情に、二人の男は
「
一度言葉を切って、瑠璃はひたと視線を紫苑へ
「残念ながら、そのようなもの見たこともありません」
そんなもの、あるわけがない……あれば、だれより先に自分が手にいれていた。
「瑠璃……」
「そのような子ども
物言いたげな紫苑も、
「待って、瑠璃!」
すかさず追いかけてきた制止を
「えっ、
「足止めしておいて!」
足も止めずにそれだけを
どこでもいい。一人になりたかった。
正殿へ駆けこめばさすがの彼も追ってこられないだろうが、すぐに騒動を聞きつけた父か翡翠がやってくるはずだ。彼らに今の話をするべきなのは頭ではわかっている。
けれど、今だけはだれとも会いたくない。
常にとり乱すことのない瑠璃が
足が自然と
「──りッ」
地面を
「──して…っ」
どうして、自分は『裏切られた』と思っているのだろう?
どうして、あの笑顔も甘い言葉も
──わかってたことじゃない……!
警戒していたはずだ、会って間もないのに「好きだ」などと告げる彼を。
きっと
なのに、心はこんなにも傷ついている。
だからこそ、気づいてしまった。
──……わたしは、信じたかったんだ。
だからこそ、見慣れぬ集団がいると耳にした時、真っ先に『彼を
もちろんそこには翡翠への疑いを晴らしたい気持ちもあった。一方で、無意識のうちに『紫苑の仲間』だという可能性を
「……翡翠兄さま、兄さまの言うとおりだった」
苦しい息の下、瑠璃はそっと
今までも、これからも──。
瑠璃は
やがて、低い木の
瑠璃はちらりと背後に目をやった。
男女の差か二人の身体能力の差か、紫苑はもうそこまで
「瑠璃! 話を聞いてほしいッ」
「…………」
神域と人の住む場を、
その境界をいとも簡単にとおり抜け、瑠璃は山へと踏みこんだ。
それは木々の呼吸であり、山に住む生き物の
がくがくと悲鳴をあげはじめた
どれくらいそうしていたのか、ふと前方が明るくなった気がした時だった。意識が前へとそれた
「──ぁ…っ」
「……る、りッ」
転ぶ、と思った直後、強く
ドンッ、とかなりの勢いで背中からぶつかったが、
はあはあはあ──……。
しばらくして、はーっと
「──っと追いついた」
放すまいとするように、腰へ回された腕に力がこもる。
どこか
「瑠璃?」
「……ここまでは、追ってこないと思っていたのに」
「『ここが神の
でなければ、神の住まう山だと説明した神域に踏みいってくるわけがない。
そう
「っ、な、にを…っ」
むかいあう形で
「好きな女が傷ついてる時に、神だのなんだの関係あるか!」
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