遍在
遍在しようとこころざし
畦道に立つ
青田のそよぎの向こうに
アスファルトを滑走する車
青田のそよぎを彼らは聞かない
彼らの聞かない青田のそよぎを私は聞いている
昼のラジオを空想しながら
遍在にむけて畦道に立ち私は鉄塔を
横切るカラスの聴覚を
盗んで風の音を聞く
電線の揺らぎの上に立つ私の上の
遠い旅客機のモーターの唸りを空想しながら
アイマスクをつけたサラリーマンの
スケジュール帳を盗み読む
遍在しているから
青の深い空の下から雨降る広島の
路面電車の停車場の
広島弁の沈黙に耳を澄ます
めまいして
私は返る私のひとつの身体へ
遮るもののない青田の畦道だから
急いで日陰まで走る
土を踏む靴音をあまりに近く感じながら
日向を走る
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