夜更

もう 誰のものでもない

書き出した第一行のあとを

考えあぐねて胡座を解き

既に遅しと阻止された第二行は

今では三行も過去のこと

詩の突端で

詩になれるか否か

詩心死す 詩心死す

詩心死してシテあらわれて

無音のなかを鼓が鳴る

などと

無闇に詩行だけ増やしても

詩はやっては来ない

ぽつねんとして

雑念として

慄然して

書かねば!

書かねば!

書かねば!

書かねば!

書か――!

と 独り勝手に焦燥に落ち

浅い川の音のする暗い夜道から

うすぼんやりとやって来る人影がある

足のありやなきや泣き止めや

白いずきんのありやなきや夜目遠目

近づきつつ来るまえに立ち消える

ぬらっと光って河鵜鳴く

あとは深々

とんでもない遠くに月が掛かってる

ナイフみたいな光素をふりまく

夜の皮膜

深海魚は私

猫の声

かわいた夜だ

風が火を連れてきそうだ

さっきの幽霊が耳元でつぶやく

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