第10話 夢
代々、僧院の頭である
またの名を
優れた指導者として教えを啓き、今日まで僧院を守り続けてきたが、下界では既に龍も教えも忘れ去られ、僊仁院にやって来る者はもういない。
一人
年甲斐もなく感傷に浸ってしまった。
別にいいよね。若い頃の自分がそう言っている。
嬰は一つ自問してみる。
こう思うのは思い上がりかもしれない。
あの時、
でも、こんなのはどうだろう。
あいつは、自分――嬰を失うことが怖かったのではないだろうか。
だから、あんなことを言って、逃げた。
少しの笑みと、ちょっとの涙が出た。
目が覚めると、もう力が入らなかった。
それでも何かに引っ張られるように本堂から這い出て、嬰は歩き始める。
足がおぼつかない。
何度も歩いたこの道を進む。
そして、道はそこで行き止まりだった。
役目を終えた者の墓。
昔、つま先が浮いた場所。
足が滑る。水もない滝壺へと転げ落ちた。
あの時、足が滑っていれば――。
そんなことを思う。
もう力も入らない。本来、昼に使命を終えていたはずだったのだろう。
不思議なものだ。自分と似た小娘に助けられるなんて。
ああ、最後に夢が見れた。
滝が湧いたと嬰は思った。
一粒の滴が顔に伝い、流れて消えた。
最後の道の先。
あの人がいる。
ああ、待ち人が来てくれた。
「今まで、ご苦労であった」
伯昌がいる。
自分は夢を見ているのだろう。そう思った。
「では、参ろう」
どちらへ?
「覚えておるか」
何を?
「皆、
ああ、片時とて忘れたことなどない。
無論。覚えておりますとも
「皆が待っている」
龍は生きながらにして死の世界とつながっている。
「
つまり、もう嬰も永くない。
それでもいいや。嬰はそう思った。
「わかりました」
永遠の半尺。
その再会は夢だったのだろう。
「今、参ります」
たった一歩。
それだけが二人を裂いて、でも繋げてもいて。
ようやく、その一歩を嬰は踏み出す。
そして、
言い忘れていた言葉が口から漏れた。
ありがとう――
最後に。
嬰のその笑顔を見たものは誰もいなかった。
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