第5話 昔話「選ばれぬ者」

 えいの処分が検討された。

 

 女人禁止。建立こんりゅう時からの教えは不変である。

 だからこそ、当時の僊仁せんにんは悩んでいた。

 なぜ、女人は足を踏み入れてはならないのか。

 戒律によれば、女人は変成男子へんじょうなんし。つまり女性は、修行をしても天に仕えることは出来ない。

 なら、初めから院内に入れなければいい。理にかなっているようにも思える。

 ――教えは是か否か。

 なぜ、天は二人も優秀な者を遣わしたのか。僊仁は先祖も天も恨むわけにもいかない。

 では、恨むべきは……。

 しかし、だが。

 嬰の顔が浮かぶ。それを必死に僊仁は消し去る。それは一番考えてはならぬこと。

 視点を変えてみよう。嬰という女人がなぜ必要であったのか。これだ。

 僊仁はそう頭を切り替えた。やはり大僧天だいそうてんたる者も実に優秀。

 教えに従えば、嬰は最低でも追放。

 しかし、30年ぶりにもなる即身天の資格者が現れたのに、優れた者の存在をなかったことにするのも示しが付かない。

 これまで理由は聞かずにいた。わざわざ辺境の僧院に来る者は、皆何かしらの罪を追っている。

 これは事実であったらしい。伯昌はくしょうも、嬰も、下界の律令りつりょうに触れる行いがあったと後に明らかになっている。 



 嬰は既に荷物をまとめ、処分が下されるのを待った。

 一人の男。

 何やら会話を交わし、喧嘩をしたという目撃情報が伝わっている。

 何しろこの二人だ。近寄って会話を聞こうとする物好きはいない。皆すぐに退散したらしい。

 嬰が泣いていたのを見た者はいなかった。 


 

 その夜、僊仁のもとに伯昌が現れている。

 僊仁は悩み続けていた。処分と教え、二つの問題は依然として未解決である。

 しかし、すぐに決断が下された。

 伯昌によって。

 伯昌がその時に放った言葉が伝わっている。


 ――人は一人で生きるにあらず、火は一つで立たず、水は一粒にてならず、木は幹のみてならず

 全ては、切磋し、育ち、支え合うことが必要

 教えに修行に配心のめいがあるように、そして嬰こそ極めし者であったのは周知のとおり

 私が一番知っている

 不肖ふしょう伯昌一人だけで、即身天の資格は得られず

 皆、生けるものは「なか半尺はんじゃく

 半尺のみにて生きてはゆけぬ。半尺が重なり、集い、競い、「一尺」となる

 半尺足らずが何だというか

 嬰が遣わされてきたのは、天からの改めよという命である

 女人が何だ

 ならぬなら、私が天となりて、全てを変えよう

 

 この言葉に当時の僊仁は大いにその首を縦に振った。

 改め直すべきだ、と結論付けたのである。

 それ以来、僊仁院は女人を受け入れた。

 嬰も院に残って指導に当たった、と伝わっている。

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