『車窓に映るひと』

終電の満員電車で、たまたま席が空いており、座席に腰を落として、正面の車窓に目をやると、左端の座席に座る美しい女性と車窓ごしに目が逢った…私は一瞬見とれてしまい、視線をそらせずにいると、女性は車窓越しに私に微笑みかけ、軽く会釈をしてから席を立ち、こちらに向かって歩いて来た。私は少し身を乗り出し女性が向かって来る方を見たが、その女性の姿はない…不思議に思い再度、車窓に視線を戻すと、女性は私の目の前に立っている様に映ってはいるが、実際に私の目の前には中年男性の背中しか無い…絶対におかしいっ!と思い、慌てて車窓から目をそらし、立ち上がろうとしたが、上から両肩を物凄い力で抑えつけられているようで、立ち上がる事が出来ない…私は恐る恐る、車窓に視線を戻すと、女性は私の両肩をしっかりと抑えつけ、私の耳元に顔を近づけていた……次の瞬間『モウ…オソイ…オマエヲ…コンヤツレテイク…』と、この世のモノとはとても思え無いガサついた不気味な声が私の耳にこだました……

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