『指をさす男』

生暖かい風が吹く朝のホーム、通勤電車を待ちながら向かいのホームに何気なく目やると、ぽつんとホームに1人立つ、妙に生気が無いが、身なりの良い白髪の老紳士が私の視界に飛び込んできた………

その老紳士はゆっくりと、右手をあげてゆき、丁度私の隣で電車を待つ、男性を指さした。

私は、何だろう?と不思議に思い隣の男性を見たが、男性は携帯で忙しそうに仕事の打ち合わせか何かの話しをしており、特段変わった所は無かった。

やがて、通勤電車がホームに差し掛かった時、急に隣の男は笑みを浮かべたかと思うと、狂った様に笑いだしホームに飛び込んだ……

飛び込んだ男性を巻き込みながら列車は急停止した。その列車越しに見えた光景は、向かいのホームの老紳士が口元に満足げな笑みを浮かべ、くるりと背を向けてホームから立ち去る姿だった…


あれから一週間が経ち、ようやくあの悪夢の様な出来事を忘れかけた朝に、また向かいのホームに、あの白髪の老紳士がゆっくりとあらわれて、あの日の様に今度は私を指さしている………


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