僕の家の坂を登りきった空き地に、一本だけポツンと枝ぶりの良い、とても大きな桜の木がある。その木は毎年花をつけ、今年も見事な満開となった 。住宅地だから花見客も少なく、僕の最高のお花見スポットだ。今年成人を迎えた僕は、初めての夜桜を眺めながら、お酒でも飲もうと思い、僕は、お酒を買って桜の木の下に向かった。


坂道を登りきり、月あかりに照らされた桜の木のを見た僕は、その幻想的な美しさに心を奪われ、しばらくその場に立ち尽くした。


ハッと我に返り、桜の木の下に向かって歩くと、木の下に人影が見えた。見た所かなり高齢の老人が杖を片手に桜の木をさすりながら、なにやらはなしかけていた。

『お前と、出逢ってからもう40年になるねぇ、あれから毎年、友達を連れてここへ来たが、わしもこの歳だ…もう今年が最後かも知れないな…』と


僕は、老人に声をかけた『すいません、今の話、聞こえちゃいました。この桜と古くからのお友達なんですね。素敵です、お友達がもう居なくなっちゃったなら僕で良ければ、お友達になります、だから弱気な今年言わないで、来年も一緒に来ましょうよ!』と…


すると、老人は涙ぐみ僕の手を取り、せきを切った様に僕に話し始めた『ありがとう…本当にありがとう……40年前わしは、人の奥さんに恋をし、その気持ちを彼女に伝えると、気味悪がられたので、思わず殺してしまい、この桜の木の根元に彼女を埋めたのです。しかし、私はその事をすぐに後悔しました。暗い地中に1人で埋まる彼女を気の毒に思い、私は彼女の愛する御主人と子供を一緒に埋めてあげました。それから、毎年、彼女の家族、親戚、友人を1人づつ埋めてあげました……しかし、もう体力も無く今年は誰も連れて来てやる事が出来ませんでしたので……本当にありがとうございます…』と嬉しそうに、涙をながしながら仕込杖の鞘を外し、慣れた手つきで僕の心臓をひと突きにした……

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