03:*過去の手記からの抜粋
日付不明、おそらく今年6月の第三週あたりの手記と思われる。スマートフォンの手書きメモ帳より、帰りの電車等で書き記した散文を以下抜粋してまとめる。
***
難儀な性格だ。
まったくもって難儀な性格だ。僕らは他者に甘えて頼るのがどうも苦手な性分で、なんでも一人で解決しようとしてきた。それで、案外うまくいってしまうのだから、なんとも質が悪い。結果的に自己解決に導いてしまうのだが、そこへたどり着くまで、一人で答えを見い出すまでの過程は大変困難なもので、惨めで恐ろしい孤独に耐えず苛まれなければならない。彼女は極限まで擦り切れる。
女らしく、弱音を吐いてしおらしくしてしまえばいいものの。スイッチが入って、僕と切り替わる。僕は男だから、痛みに鈍いとでも思っているのだろうか。
痛みを感じる時だけ、僕に切り替わる。最近、そんな風な仕組みなんじゃないかって思えてきた。
彼女にとって、男や少年というパーソナリティは”自由の象徴”の意味を含んでいる。そんなことはないのにと、僕は哀れな物語に浸る彼女を何度か冷ややかに蔑んだこともある。
たしかに、僕らは抑圧ばかりの人生を送っている。いまもなお、ね。しかし、それはほとんどが自業自得みたいなもので、世のニュースに取り上げられる悲劇のソレらとは毛色が違いすぎる。
僕らは……いいや彼女は? いや、この生ある一個体の人間は、周囲に合わせて生きる能力に特別長けている。素晴らしいくらいに、相手の気持ちを察し、その場に相応しい行動を頭の中で念入りにシュミレートしてから実行に移してくれるのだ。その才を求めている人にとっては、もう、嫉妬させてしまうくらいに。
真っ当な人間としての表向きの僕らは、コピーキャットにすぎない。退屈で、面白みのない人物であるのは承知している。友達を作るのは苦手だ、人をとどめておけるようなものを持っていない。だから、みな、知り合えども最終的には彼女の前からいなくなる。
それでも、それなりに人付き合いがあることもあったのだがね。彼女だって友人を大切にはしていたさ、誰にだって親切で優しい性格だってことは僕はもちろん周りの人々だってわかってくれていたはず。ただ二つ、人との絆をとどめておくだけの勇気と、何かが欠けているだけ。
彼女は優しい。だから、大成はしない。
自分自身になる、という欲・願望を叶えるためには僕が存在しなくてはなるまい。彼女と僕、そして僕らが目指すのはーー。
***
人にはけして打ち明けられない、僕らの内在の世界。
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