第12話 人間たちを弄んでみた 1

「僕はさ、神に感謝とかあまりしないタイプなんだよね。良いことがあろうと悪いことがあろうと、それって結局その人の捉え方次第ってことじゃん。例えば嫌いな水泳の授業で雨が降ったら、それは幸せだと思うし、少し寄り道して帰ろうと思ったときに雨が降ると、不運だと思う。だけど実際には、雨が降った、という事象しか起きていないんだよね。それに対して感謝をするのも恨み言を言うのも、烏滸しさすら感じない?別にお前のために雨が降ったわけでもないし、お前に嫌がらせをするために雨が降ったわけでもないって思わない?」

「…何が言いたいのですか」

両手首についている縄の後をさすりながら、目を閉じて思い出に浸るように口を開いた

「ベルちゃんが寝ぼけて僕に抱き着いた、さながら抱き枕のように扱った、という事象に対して僕は個人的に幸福を感じたってこと。そしてそれだけしか胸中にないってこと」

朝食を済まして、部屋から出る準備を進めているベルちゃんは、面倒くさいものを見るような目で、ため息交じりに言葉を紡いだ

「今朝のことは構いませんよ。別に謝れと思っているわけではありませんし、そもそもそれは完全に私の失態です。どうぞ存分に幸福をかみしめてください」

「自分が抱き着くことが、異性にとって幸福に値するというのかい、なかなか…」

「自己評価が高いですよ、私は。その話は昨日も聞きました」

ぶっきらぼうな言葉が返ってきた

「昨日は少し見る目が変わりそうでしたのに…」

「何か言ったかい」

小声で何かを言った気がしたので聞き返したが、「何でもありません、お気になさらずに」とつれない返答をされた

「まっ、昨日のは僕の戯言みたいな感じだったし、お互い忘れようや」

「聞こえているじゃないですか」

「別に聞こえてないよ、予想がしやすかっただけ」

ニコニコと笑顔を向ける僕に対し、複雑そうな顔を向けるベルちゃん。いつまでたっても進展しないなぁ、僕たち。別にしなくてもいいけど

「話は変わりますが、今日はどこに行く予定ですか」

「今日も昨日と同じ、日本人に会ってお喋りして、もし靡きそうだったら魔王軍に勧誘」

場所はどこにしよう、今日はお城の近くで働いている近藤さんと同じタイプ、隷属させるタイプの召喚魔術で呼ばれた日本人に会いに行くか

「私の準備できましたので、マコトさんも準備が整ったら教えてください」

ベルちゃんのことが少し気になったが、まぁ鬘も被っているし、成長もしている、よほどのことがない限りバレないでしょ

「と、思っていた時期が私にもありました」

えてしてフラグというものは回収されるものである。押すなよと言われれば押す、絶対に見てはダメと言われたら是が非でも見る、大丈夫と高を括っているなら突き落とす、フィクションだけでなく現実でもそうなのだ

「お前やっぱりベルフェールだよな、生きてたんだ」

「……っ」

お城の近くで働いている日本人を探しに町を歩いていたら、一人の杖を持った青年に話しかけられた。綺麗な水晶がついている杖、綺麗な装飾が施されているローブ、映画とかでよく見るけど現実では一度も見たことないお洒落な片眼鏡、まるで漫画に出てくるエリート魔法使いみたいな男だ

そんな男が、ベルちゃんを忌々しいものを見るような目で睨みつけている。良かった生きてたんだね、みたいな感動の再会ではなさそうだ

「…ど、どなたかと勘違いされているのでは、私はベルセレン・エトワール。フェイカート公国から観光に来たものです」

「いやいや、この片眼鏡のこと忘れたのかよ。こいつは人の魔力を数値化できる代物だぜ、こんな馬鹿げた数値をたたき出せる女は数年前に一緒に軍で働いていた、ベルフェールくらいのものだぜ」

つまりこの男はベルちゃんが軍にいたころの同僚ってことか、いくつなんだろ、パッと見僕とそう変わらないように見えるけど

「知り合いかな、ベルちゃんはこの国に来たのは初めてなんだよね」

とりあえず助け舟を出してみるか

「はい、なので勘違いしているのかと。申し訳ありませんが、私たちは魔術についてはとんと知識はないので、そのメガネについても特に知りませんし、私にどれだけの魔力があるのかも知りません」

知らぬ存ざぬで通すつもりか、悪くはないけど、僕としてはその片眼鏡に少し興味があるから、この青年とお話したいな

それでは、と歩き出そうとしたベルちゃんの腕を青年は慌てて掴む

「きゃっ」

「おい待てよ、俺がお前から受けた屈辱忘れたとは言わせねーぞ」

「何の話ですか、離してください」

「お、今のは手を離すと覚えのない過去を話すっていう言葉をかけたギャグかな」

「黙ってください。それと彼女が見知らぬ男に襲われているのですよ、助けてくださいよ」

そうだったそうだった、素性を明かす必要のない人に対しては、僕はベルちゃんの彼氏ってことになるんだった

「女の子に乱暴する男はモテないよ、強引なのが良いって思う人がいるのを否定するつもりはないけど、そういう強引なナンパは人を見てやらないと。ほら、あの人なんか良いんじゃないかな、一見大人しそうに見えるけど僕の見立てでは多分強引に迫られれば、一緒に食事をしてそのまま一線超えられるかもしれないよ。少なくとも、ベルちゃんみたいな素で大人しい女の子には接触のあるナンパは、たとえそんなナンパ小道具を使ったところで逆効果だよ」

饒舌に身振り手振りを交えながら喋り、ベルちゃんの腕を掴んでいる男の手首を掴む

「な、何なんだよお前、気持ち悪いことつらつら喋ってよ」

「僕はベルちゃんの彼氏だよ、そしていい加減ベルちゃんから手を放いてくれないかな。この綺麗なベルちゃんの腕を掴んで良いのは僕だけだ」

掴んでいる手に力を込めて、無理やり腕から手を離させる

自由になったベルちゃんは、そそくさと僕の背中に隠れ、警戒するように青年を見ている。なんだか小動物みたいで可愛い、普段からこれくらい可愛げがあればいいのに

「別にナンパじゃねーから引っ込んでろ。俺はベルフェールに用があるんだ、この馬鹿げた魔力数値は間違いなくあいつなんだから」

「そんな言い分が通じると思うの、僕たちからしてみれば片眼鏡を使ってナンパしようとしている、ただのチャラ男にしか見えないよ。どうせあれでしょ、君の魔力すごいねよかったらこの後一緒に食事でもしながら魔術談議しない、とか何とか言いくるめて、夜の魔術開発まで洒落込む気でしょ、知ってんだからな」

「何の話だよ、いいからそこどけ、お前と話していると頭がおかしくなりそうだ」

「分かった、じゃあこうしよう、その片眼鏡を僕にも見せてくれないかな、そしたらそれが本物か小道具かわかるし。もし本物だったら、僕が用件だけ聞こう」

「お前がどくんじゃないのかよ」

「流石に自分の彼女の腕をいきなりつかむような男を、そう簡単に通すわけないでしょ。で、どうする、その片眼鏡を貸してくれるか、それとも諦めて別の子をナンパしに行くか。因みにこの二択以外を選ぼとした場合、悪いけど警察の方に駆け込ませていただくよ」

青年は忌々しそうに片眼鏡をはずすと、大事そうに僕に手渡した。よっぽどベルちゃんとお話したいらしい

僕はそれでベルちゃんを覗いた

するとそこに巨大なオーラのようなものを纏ったベルちゃんと、そのオーラを計測したかのような数字と文字が映し出された。どうやら本物らしい

「ふむ、こういうレンズ越しに人を見るっていうのはあれだな、昔読んだスケスケ眼鏡みたいなエロ漫画を思い出すな」

ささっと胸を隠すベルちゃんに思わず笑みをこぼしながら、僕は片眼鏡を弄ぶ

「ねえこの眼鏡貰っていい?」

「はぁ、何ふざけたことほざいてるんだよ。本物だと分かったならさっさと返せ」

「残念、それで僕の可愛いベルちゃんに何の用なの」

質問を投げかけながら、さっきまで覗いていた片眼鏡を投げかける

青年は、僕がそんなぞんざいに扱われると思っていなかったらしく、慌ててキャッチし目にかける

「その、君が熱をあげているベルフェールさん?がなんなの、恋人とか?」

「そんなんじゃない、あいつさえいなければ俺が神童になれたのに。あいつさえいなければ、俺はこんな惨めな思いをしなくて済んだのに」

「…詳しく知らないけどさ、さっきベルちゃんに対して生きてたって言ってたけど、それはつまりそのベルフェールさんは、今君の前に…失礼、名前を聞いても良いかな」

「あぁ?俺はマギノアだ、俺の名前を知らないなんて、よっぽど社会を知らないんだな」

「お恥ずかしながらね。僕はトキワ、トッキーとでも呼んでくれ」

今更だけど、トキワが僕がこの国で名乗ってる偽名、ベルちゃん曰くギリこの国で目立たない名前らしい

「…ベルセレン・エトワールです」

ベルちゃんは頑張って声色を変えているが、それは逆効果だと思う

「それで話は戻すけどマギノア君、さっきの口ぶりから察するにベルフェールさんは君の前にいないってことだろ、よかったじゃんいなくなって」

ベルちゃんが僕の腕を掴む力が強くなる。いなくなってよかった、という言葉がお気に召さなかったらしい

「だけどあいつが残した爪痕はデカいんだよ」

「まぁそれがどれだけの大きさなのかは知らないしどうでもいいけどさ、それで仮にベルちゃんがベルフェールさんだったらどうするつもりだったの?話がずれちゃったけど、いい加減用件を教えてよ」

「ずらしているのはお前だろうが。もしそいつがベルフェールなら、軍の魔術開発局に送る必要がある」

その言葉を聞いて、ベルちゃんは震え出した。僕の背中に隠れているため、その震えは、ベルちゃんの心の悲鳴は、直に僕に伝わってくる

「だが、それじゃあ俺がまた惨めな思いをするだけだ。俺はあの本物の神童と比較されながらここまでの地位を確立したんだ、そう簡単に渡すかよ」

「地位?」

「そうだ、魔王城に奇襲を仕掛ける作戦、その魔術師として、英雄の候補として俺が選ばれたんだ、今お前が軍に戻ったら俺がその役を引きずり降ろされかねない。だからお前らは、関係者に見つからずにこの国を出て行け」

つまりマギノア君は、ベルちゃんがまだ軍にいたころ、ベルちゃんに次いで二番目の実力ではあったのだけど、ベルちゃんとの差が大きすぎて周りから見むきもされず、悔し涙を流していたと。そんでベルちゃんがいなくなった後は、神童のベルちゃんと比較されながら、成り行きで神童になったなんちゃって天才として頑張ってきて、その努力が実を結ぶ直前に、ベルちゃんらしき人間(本人)が現れたってことか

「…大まかに纏めるとこんな感じ?」

「……」

「あぁそうだ、あいつは奴隷孤児の分際で貴族である俺の上に行き、周りはどんな研究や実験をするにもベルフェール、ベルフェール、神童として期待されてきた俺はいいピエロだったよ」

「……何も知らないくせに」

「あぁ?」

「何も知らないくせに勝手なことを言わな…」

「はーい落ち着いてベルちゃん。ここで叫んだって、良いことはないよ」

今にも叫びそうなベルちゃんの口を、勢いよく片手で塞ぐ。バチンッ、と非常にいい音がなってしまった、塞いでいる手が非常に痛い、だがおそらくそれ以上にベルちゃんの方が痛いだろうな

昂った感情からなのか、それとも僕の手によるものなのか、ベルちゃんは涙目で僕を睨む。悪いとは思っているよ

「まぁこの反応を見ての通り、彼女はベルフェールちゃん本人なんだけど、どうやら僕たちは協力関係を結べるらしい。僕たちは、できれば大ごとにならずに観光を済ませたい、マギノア君はベルちゃんの存在を誰にも悟られずに出て行ってほしい」

「あ、あぁ。結構いい音が出たけど、大丈夫なのか、仮にも彼女なんだろ」

「これが僕たちの愛の形さ」

「そんなわけないでしょ、凄い痛かったんですから」

口元をふさいでいる手を力いっぱい握られ、無理やり外された。手のひらは少し湿っている、うむ

「アハハごめんごめん、でもベルちゃんが簡単に面白そうなことしだすからでしょ」

「誰でも彼でも、あなたみたいに感情を操作できるとは思わないでくださいね」

「……ベルフェール、なんだな」

「…どなたか存じませんが、あの時の関係者には会いたくありませんでした」

睨みながら確認するマギノア君から、ベルちゃんは顔を背ける。僕は苦笑いを浮かべながら、二人の間に立った

「落ち着いてよ二人とも、ここで騒ぎを起こしたらどちらにもメリットないよ。マギノア君、僕たちは明日にはこの国を出て行く、僕もベルちゃんもこの国で一旗揚げることに興味はないからね、だから、今日と明日を穏便に過ごすために色々と教えてほしいことがあるんだ。もしよかったら、どこかのお店に入らない」

ベルちゃんから視線で、またこのパターンですか、と言われている気がするが、僕は気にせずにナンパを続ける。相手は男だけど

「なんで俺が、お前らが今すぐこの国から出て行けばいいだけの話だろ」

「あまりこういうことは言いたくないけど、僕とベルちゃんの力関係はどちらかというと僕の方が大きいんだ、だからいくらベルちゃんが嫌がろうと僕の気が変わって、この国で面白いことをやりたくなったら、ベルちゃんは断れないんだよね。そうなった場合、君の立場はどうなるんだろうね」

「何が言いたいんだよ」

「察しが悪いなぁ、つまりね。君の努力を踏みにじられたくなければ言うことを聞け、てこと、わかった?」

「……チッ」

マギノア君は舌打ちをすると、不機嫌そうな態度を隠すことなく歩き始めた

「早く来い、こういう話をするときにピッタリな店を知ってるんだよ」

こちらに背を向けて、怒鳴るように呼び掛けた

「…ふむ、これが男のツンデレってやつか」

「いえ、普通に脅されて屈した人なだけですよ」

僕が顎に手を当ててマギノア君を見ていると、さっきまで僕の背中に隠れていたはずのベルちゃんが、ジトっとした目で一瞥した後、僕を置いて歩き出した

「…なんか怒ってそうに見えるけど、ベルちゃんどうしたの」

「そう見えるのは、きっとあなたが後ろめたいことがあるからではないのですか」

いつだか僕が言った言葉をそのまま返された

「別に気になさらないでください、流石にあなたが本気で私をこの国に引き渡す、なんてことはしないと信じていますので。ただ、冗談でも脅しの口実でも、私のトラウマを抉るようなことを言ってほしくはなかったですね」

「あぁ、そのことか、ごめんごめん、ベルちゃんの存在自体が脅しには効果的だからね」

「そうですか」

まだ怒ってそうだけど、まぁ気にしなくていいって言ってたし、気にせずマギノア君の後を追いかけた

「ついたぞ、さっさと入れ」

十数分ほど歩いて着いたのは、昨日訪れた近藤さんのお店と同じくらいの、この世界水準で高級店だ。そしてマギノア君は、顔パスのような軽い対応で店の個室に僕たちを案内した、金持ちなのかな

「…へぇ、完全に個室で部屋自体が結構広い、つまり声の大きさによっては内緒話にはもってこいのお店だね」

とりあえず初めて高級店にきて感動している体を装った。まぁ特に意味はないのだけど、変に手慣れている雰囲気を出すよりかは、これくらいの可愛げはあった方が良いだろう

「はしゃぐなよ、みっともない」

「はーい、マギノア君、ご馳走になりますね」

「奢ってもらうつもりかよ」

「君が勝手にこんな高そうな店に連れてきたんだから、それくらいはしてよ。もしくは、お金を払うためにこの国で働くことになるから、滞在期間が延びちゃうなぁ」

「最初から奢るつもりだから、一々脅さなくてもいい」

僕はその言葉を聞き満面の笑みを浮かべて、マギノア君の正面に座り、ベルちゃんはその隣に座った

「さてと、どこから教えてもらおうかな。そうだ、まずマギノア君がこの国で得たって言う役について教えてくれないかな」

「…魔王討伐隊についてか。お前らも知っての通り、来週にこの国の屈指の実力者でパーティを組んで、魔王城に直接奇襲を仕掛ける話がある。魔王を倒せれば、軍の方は烏合の衆となる。そうなったら、魔王を倒した勇者たちとして俺たちは金も地位も名誉も手に入る、仮に倒せなくても魔王に挑んだ実力者として、英雄の一人として歴史に刻まれる。異世界人が軍の軸となりつつあるこの国で、今回手にしたこのチャンスは、絶対手放すわけにはいかない」

来週魔王城に奇襲ねぇ、僕たちがその魔王城の一員という考えには至らなかったのかな。まぁ普通至らないか

「そりゃ確かに、こんなタイミングでベルちゃんが現れてほしくないわな。でもそれって、未だにベルちゃんより自分が劣っているって認めていることになるけど良いの?」

「この片眼鏡についてさっき話しただろ。これがあれば魔術師の実力を数値化できるんだ」

つまり今回見た数値が、今の自分を超えていたのか

「僕もベルちゃんも、今は別の国の片田舎でのんびり暮らしているから、この町の事情について知らないんだけど、そのパーティってどんな人がいるの」

「そんなの聞いてどうするんだよ」

「別に、ただの興味本位だよ、だから答えてくれなくてもいい」

「メンバーに関してはそこまで秘匿にしていることでもないから、教える分には構わないが。まず、割と最近異世界から呼ばれた聖剣の勇者のコトネ」

へぇ、あの人もそうなんだ。そういえば軍の方から依頼があればそれをやるって言ってたな

「次に、強力な魔力耐性と強固な盾を持つ異世界人のツバサ」

昨日久坂さんから聞いた日本人にあった名前だ、この人ともできればお話がしたいんだけどな

「回復魔法や多彩な支援魔法を得意とする、俺と同じ軍の魔術開発局出身のメロリーム」

知らん名前だが、ベルちゃんの反応が少し変わったため、何かしらのイベントはありそうだな

「そして俺は、攻撃魔法に特化した魔術師、この四人で魔王討伐が行われる」

「ふーん、少数精鋭だけど、四人は些か少ない気がするね。本当に最低限って感じだし」

「メロリームの使う隠密の魔法が今回の奇襲の鍵だからな、自分を含めて四人までしか対象にできないんだよ、その魔法は」

ベルちゃんに視線を向けると、小さく頷いた。嘘はないようだ

「まぁ実際に会ったことある人はいないけど、きっと四人で何とかなってしまうすごい人たちなんだろうね。因みに、その片眼鏡で覗いたベルちゃんの力って、その四人に匹敵するものなの」

「…悔しいが、俺とメロリームの役がベルフェール一人で賄えてしまうくらいには」

「あはは、それは一緒にいる僕にとっては心強い話だ」

「俺たち魔術師にとっては笑えねーよ。こいつは存在そのものが、全魔術師に対する冒涜だ」

言いたい放題言っているマギノア君に、流石にカチンときたのか、ベルちゃんは鋭い視線を向けた

「私は別に、好きでこうなったわけじゃありません。そんなに私が嫌いなら、さっさと私を追い越せばいいじゃないですか」

「チッ…」

「まぁまぁ落ち着いてよ二人とも、いくらここが密会に適している場所でも、どこで誰が聞いているかわからないよ。二人の思い描く最悪な事態は同じなんだから、仲良くしろとは言わないけど、せめてお互い配慮しようよ」

二人は納得していないが、ばつが悪そうにお互い視線を逸らした

やれやれ、面倒なやつだが、思いの外有益な情報を得られた。後で少し弄ってみるか

「じゃあ次は少し実用的な話だ。その片眼鏡、今はどれくらい普及しているの」

昨日を無事に過ごせている以上、そこまで普及している代物とは思えない、そしてベルちゃんの警戒の外にあった、割と最近できたもので普及率も高くないと推測できる

「これは最近魔術開発局が作ったもので、限られた金持ちや俺みたいな英雄候補は持っている、後はそれを作った開発局の人間かな」

じゃあ久坂さんも持っているのかな、だけど昨日そんなことを言ってなかったし、言う必要がないと感じたのか意図的に隠したのか

「じゃあ僕たちはその辺の人たちに近づかなければいいのかな。やれやれ、狭い観光になったものだ。じゃあ最後に、これは質問というよりお願いなんだけどさ、異世界人のコトネさん?だっけ、聖剣の勇者さんは、その人に会いたいんだけど、取り次いでもらえないかな」

「…はぁ?意味が、というよりも真意が分からないのだが」

どうやら想定外の内容だったらしく、素っ頓狂な声が上がった

「別に真意も意味も特にないよ、僕が異世界人だから会ってみたいって思っただけ。最初に名前が出たから先に聖剣の方に会いたいだけだよ」

「…つまり、お前はベルフェールに召喚されたのか」

「まぁそんなところ、この黒い髪で気づいてほしかったけどね」

「その感じからすると、上位の方の召喚で呼ばれたみたいだな。…チッ」

上位というのは、才能を持つ人を呼び出す方の召喚魔術ということだろうな

「因みにマギノア君は異世界人召喚の魔術は使えないの?」

「そんな気軽な魔術じゃねーんだよ、うちの方では俺クラスの魔術師がいても、最低あと五人の魔術師が必要な魔術だ」

それをほとんど一人で成功させたベルちゃんは、いったいどれだけ化け物なんだろう

「ともかく、同じ異世界人の手がかりがやっとつかめたんだ、是非紹介してほしい。一人ずつゆっくり話したいんだ」

「…なるほど、同じ世界の人間を探しにこの王都まで来たのか」

マギノア君は、納得したように頷き、少し待ってろと言い残して席を立った

僕はスマホを取り出し、日本語で文字を打ち始める

「ベルちゃん、今から面白い茶番劇が始まるから、頑張ってついてきてね」

「…今度は何をするつもりなのですか」

楽しいことさ

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