第5話 魔族と人間に好かれた
それから一週間が経った。と言っても、こちらの世界での日付の区切りが分からないので、7日経ったと表現した方が正しいか
初日は色々魔王様と話し、次の日から二日かけて魔王城にいる魔人や魔物に僕の紹介が行われた。形としては異界より召喚された魔王様専属の策士、ということになっているため、未だ中二心を持つ僕にとってはテンションの上がる形だ。まぁ魔王様専属の策士と謳っているが実際は魔王様の相談役、ルダスちゃんのアドバイザーみたいな立場だ、部下を持ったりあれこれ過度に口出しをすることはない、ただし僕の行動や言葉は魔王様に直接影響をもたらすものであり、これを妨げるものは魔王様の行動を妨げるのと同じ、という本当に魔王城の中で僕が快適に過ごすためだけにある役職だ。これで僕はこの城でのある程度の権限を手に入れたのだ
ベルちゃんやディノウちゃんは、僕の紹介を不審に思っていたが、魔王様の決定ならばとなんとか納得してくれた。
そしてそれから今日までの間、僕が何をしていたのかと言うと、ひたすらお喋りをしていた。勿論ただのお喋りじゃない、普段僕がやっているような、ベルちゃんや魔王様やディノウちゃんにやった、徒に相手を煽って相手の心を揺さぶって、感情が動くのを眺めて楽しむ趣味のあれではなく、ひたすらコネクションづくりと情報収集、要するに仲良くなるために尽くした。仲良きことは美しきかなってね
「へぇ、ゴブリンってやっぱり集団戦で戦うんですね。…いえいえご謙遜を、一体じゃ弱くて人間に敵わなくても、強さの形はそれぞれですから。むしろ集団戦が得意なら、今後の戦闘に役に立つことになりますよ」
「ほぉほぉ、スライムの擬態能力ですか……おぉ、僕が二人になりました。こうしてみると僕って美男ですね。ナルシストじゃないですよ。へぇ、見たものなら形だけ再現できるんですね、絶対に便利ですよ、女性に化けて女湯潜り込み放題じゃないですか、あ、溶けるんですか」
「ドワーフですか。どちらかというと人間よりな種族に見えますが…なるほど、王国では人間が階層の最上位って訳ですか。それが嫌でここに。ものづくりのプロみたいな集団をそんな風に扱うなんてこの世界の人間はどこに価値を置いているのでしょうね」
「骸骨、スケルトンですか。失礼ですけどちょっと顔を触っていいですか?目とかどうなっているのか気になりますし……あ、ここが脳でしたか、すいませんべたべた触って。純粋な疑問なんですけど、生殖機能ってついているんですか…ちょっと、頬を染めないでくださいよ、というかあなたの場合どういう仕組みで赤面しているんですか」
「お、オーク先輩じゃないですか。これは失礼、僕のいた世界ではオークは男の憧れの種族なので、つい変なテンションになってしまいましたよ。それにしても本物のオーク先輩に会えるなんて…ここだけの話、やっぱりオークは女騎士の天敵なんですか…あ、そういう偏見の目で見ないでほしい、ですか。本当にすみません」
「ドラゴン…いえ、思ったよりも大きかったので少し驚いただけです。いやぁ、カッコいいですね、少年の憧れですよ。え?良いんですか?それなら是非背中に乗って、空を飛んでみたいですよ。欲を言えば火を吐いているところも見たいですね」
「あ、ありがとうございます妖精さん。僕のいた世界では、妖精の果実って稀少なアイテムなんですよ…フィクションの中だけですけど。なので、元の世界に戻ったら、友人に自慢してやりますよ。へぇ人間では育てられないのですか、ならここでも稀少アイテムですね」
「不躾なこと聞きますけど、二十本くらいある触手でどうやって歩いているんですか?へぇ、触手一本一本器用に使いますね。なるほど、まるでピアノを演奏するみたいな感じですか。もし日本にいらしたら、ピアノを覚えてもらいたいですね」
「あ、ディノウちゃんヤッホー。隣にいるのは同じ鬼族のお友達ですか?僕はディノウちゃんと蜜月の関係…ごめんごめん冗談だから、そう本気な眼をしないでよ、足元が竦んじゃったじゃん」
とまぁこんな感じにね。僕だってその気になれば大概の人と仲良くはなれる、昔から相手の感情だったり考えだったりを、発言や仕草から読み取るのは得意なのだ。ただそれを相手をおちょくるのに使うのが趣味なだけ、必要とあらばどんな人とだって関係を築けるさ、たとえ相手が体全体が緑のゴブリンでも、ごついおっさん顔をしているドワーフでも、骸骨やドラゴン、触手モンスターでもね
「随分と、たくさんの方とお話していますね」
ベルちゃんは、僕の前に用意してきた昼食を並べながら、僕の行動について話しかけてきた。どうも彼女は、魔術師としてこの城にいるのではなく、強力な魔術を使えるメイドとしてここにいるみたいで、この一週間僕の色々な世話をやってくれた。金髪巨乳のメイドとは、わかっているなぁ、どこまで僕の期待を裏切らないんだ、魔王城は。ただ欲を言わせてもらえば、ベルちゃんの格好はオールドタイプのメイド服よりも、もっと媚媚のヒラヒラミニスカートとかの方が好みだなぁ。あとで魔王様に掛け合ってみるか
「まぁね、ほら僕って人気者だから参っちゃうよ。これは天性のカリスマを持って生まれた男の性だからね、甘んじて受け入れるよ」
一週間も僕の世話をしてくれているベルちゃんだ、この程度の戯言は最早わずかな反応も見せない
「それとごめんね、あまり構ってあげられなくて。寂しかったよね」
「……」
一瞬、ものすごく冷たい視線で見られたが、そんなものを意にも介さず僕は言葉を続ける
「初日にベルちゃんが言った通りだよ、この城にいるのはみんな気の良い人たちだ」
沢山の魔族たちと交わした会話が、頭の中で蘇る。いくら魔王様公認だからとは言え、僕みたいなどこの馬の骨ともわからないやつに、ペラペラと色々話してくれたし、サービスと言わんばかりにその魔族特有の力を見せてくれた。ドラゴンの背に乗って空から見た景色は今でも瞼の裏に焼き付いている。僕の中で魔族のイメージが変わるくらいには、彼らは親しげにしてくれた
「ただ、どこか温いって感じはしたけどね」
「温い?」
「悪い意味ではないさ、まぁだからと言って良い意味でもないけど。要するに、平和ボケと言わないまでも人が好過ぎるって感じた。まるで外国人観光客にやたらサービスしたがる日本人みたいだ」
僕の例え話は通じるわけもなく、ベルちゃんは首を傾げた。通じなくても困らないため、僕は気にせず話を進める
「まっ、きっとそういうところが無ければベルちゃんもここで働いてはいないんだろうし、僕もまじめに策を練ろうとも思わなかったんだろうけどね。よく言えば好かれやすい、悪く言えばお人好しってことかな」
「マコトさんに魔人や魔物、魔族の皆様の魅力が伝わって良かったですよ」
ベルちゃんはどこか誇らしげに、まるで自分のことのように笑った。そういえば、ベルちゃんの笑顔ってもしかしたら初めて見たのかもしれない
「そうだ、魔王様はなんて言ってるの?」
「はい?」
「惚けないでよ、どうせ魔王様に言われて僕のことを監視しているんでしょ、そのためのお世話係でしょ、そしてベルちゃんが見聞きしていることは魔王様にも伝わっているんでしょ。何か言ってなかったの?」
「別に監視しているわけではありませんよ、マコトさんのこと。同じ人間同士の方が世話をしやすいと考えてのことです」
「別にされてもおかしくない人物である、ことくらいは自覚しているから好きに監視してくれていいよ。そしてそのまま、監視対象が恋愛対象に、みたいな王道展開になっても構わないよ」
「絶対になりませんので安心してください。疑っているところ悪いですけど、本当に監視はしていませんし、魔王様から特に命令は受けてません、私は他の魔人の皆様から、あなたの話を振られることが多くなったので、個人的な興味で探りを入れてみました。一応、魔王様には伝えてありますけど」
なら監視していることになるじゃん
「モテる男はつらいねぇ。それで、魔王様はなんて?」
「考えがあるのだろう、目に余る行動以外は好きにやらせておけ、と言われました。信頼されていますね」
その言葉はどこか恨めしそうに感じた。そりゃそうか、魔族側に与する人間、魔王様から目をかけられている人間、この二つは被っているうえ、僕には異世界人というプラスαがついている、目の上のたん瘤と言わないまでも、ベルちゃんにとって僕はあまり面白い存在じゃないだろうね
まぁそんなこと、僕には何の関係もないから気にせず話を続ける
「いやぁ照れますなぁ」
「私も、正直あなたのことはどちらかと言うと苦手ですが、魔王様がマコトさんのことを信用はしてなくとも信頼はしているようなので、信頼してみようかと思います。なので、あなたの策に必要なことでしたらなんでも言ってください」
美少女からなんでもって言葉を聞いてテンションが上がるのは、僕が漫画の読み過ぎか思春期が過ぎるからなのだろうか
「アハハ、ありがとう。でも可愛い女の子が軽々しくなんでもとか言っちゃ駄目だよ、僕が紳士じゃなかったら間違いなくセクハラしてたよ」
「マコトさんが時々口にする、私がマコトさんのことを好いている前提の言葉も、偶にセクハラじみている時がありますけどね」
「それは追々改善するよ。んじゃ、早速お願いしようかな、とりあえず座りなよ」
「いえ、お話があるのでしたら私はここで」
「さっきなんでもって言ったじゃん、僕の考えをしっかり聞いてもらう、これも大事な策の一部さ。あ、そうだ、折角だし一緒にご飯食べようよ、一人よりも二人で食べたほうがおいしいらしいよ」
因みに僕は微塵もそうだとは思わないけど。一人で食おうと二人で食おうと十人で食おうと、カップラーメンはカップラーメンだし、回らない寿司は回らない寿司だ
「ささ、早く自分の分を持ってきてよ、大丈夫多少冷めても僕は気にしないよ」
「ですが…」
「ベルちゃんが食事を持ってこないと僕も食べれないよ、僕はベルちゃんと一緒に食べる気になっちゃったんだから。メイドとして、主の客人に完全に冷めた料理を食べさせる気かい」
僕の屁理屈に大きなため息をつくと、すぐに戻ります、と告げて僕の部屋を後にした
数分後、自分の分の食事を持ってきたベルちゃんが、僕の正面に座った。あれだな、初日に僕が要求したことであり、一緒に食べようと提案したのも僕なのだけど、あからさまにグレートの違う食事を一緒の席で食べるって、なんだか心苦しくなるな。次からは気をつけよう
「さて、じゃあベルちゃんに二つ目のお願いをしようかな」
「まだ何かあるのですか」
「当たり前だよ。一緒に食事して、はいお終いってなるわけないでしょ。異性に一緒に食事しようと誘ったんだから、次はデートでしょ」
「…そうですか、ならどこにデートに行きますか」
デートという単語が文字通りの意味ではなく、どこかに一緒に行ってほしい、と言う意味で使っていることくらいは分かってくれている
「この間ドワーフのガランさんから聞いたんだけどね、今一番熱気のある人間の国ってところがここから近いみたいだね」
「いや、そんな観光名所みたいに言わなくても。要するに、人間との戦いで一番ぶつかっている国、と言うことですよね」
「一番戦争を一生懸命やっているって、一番熱気があると同義だと思うよ。確かライワード国だっけかな、僕って固有名詞を覚えるの苦手なんだよね。人ならまだしも、地名とかだと全然」
「…固有名詞はイメージと結びつけると覚えやすいですよ」
ありゃ珍しい。食事をしながらそんな風に返すベルちゃんを、思わずじっと見てしまった
世話をしてもらいながら観察していたが、ベルちゃんは僕の戯言に対してツッコミを入れたり文句を言ったりすることはあるが、アドバイスすることは今までなかった、こっちから意見を仰ぐときはもちろんアドバイスしてくれるが、こんな軽い冗談に対して何かを言うのはほとんどない
「な、なんですか、その、食べているところをじっと見られるのは、恥ずかしいのですが」
僕の
「あぁ、ごめんね、美人は食事をするときも様になるなぁって思ってね。もう少し盗み見する技術をあげないとな、やっぱり美人は自然体が一番だし、隠れながら見ることができればベストなんだけど」
あぁ、そっか
ベルちゃんは僕のどれかの言葉に動揺したけど、それを隠すためにどうでもいいところにコメントをしたのか。なら多分、動揺したのはライワード国という国名
大方出身地とかそんなところでしょ。なら調度いいや
「それで話を戻すけど、今度一緒にライワード国にデートしに行かない?奢るぜ」
「…ライワード国はそれなりの広さを誇りますが、どこに行くつもりなのですか」
「特にここに行きたい、みたいなのはないけど、どうせ行くなら王都かな。ほら、日本だって東京には外国人がたくさんいるし、やっぱ首都はチェックしておかないとね」
ベルちゃんの表情が曇るのを僕は見逃さなかった
「えっと、何か都合が悪いのかな?魔王軍としてベルちゃんの顔が出回っているとか、王都に入るのには厳しい審査がいるとか」
「いえ、そういうわけではありません、私は所詮メイドですし、王都も特に入るのが厳しいというわけではありません。ただ…」
「前住んでいた場所だったとか」
「バレてましたか」
「流石にね。動揺を隠したのは分かったし、国名聞いて動揺したっていうのもわかった、国名聞いて動揺するってことは王都かそれに並ぶような大きな町に行きたくないってことも推理できる。ベルちゃん自身で言ったように国は広いんだから、ベルちゃんが行きたくないのは、僕が行こうとしている候補に上がるような町ってことでしょ。そこまで来ればあとは適当にカマ掛けるだけだよ」
「少し怖いですね…」
「別に嫌ならいいよ、他の誰かに頼むから。色々喋った魔族の方々に、変身能力を持つ人もいるから、その人に頼んで人間に化けてもらうよ。ただやっぱり本物の人間、それも魔術が使える人間がいてくれたほうが、何かと都合が良いってこと、バレるかどうかビクビクしなくていいしね。だからできれば、一緒に来てほしいな」
「ですが、先ほどマコトさんが危惧したように、王都は私の出身地、私のことを知っている人間に会う可能性は決して低くありません。そうなると色々面倒なのでは」
「確かにそれは面倒だけど…因みにベルちゃんのことってどうなってるの?死んだことになっていたりしているの?それならかなり面倒だな」
「…多分死んだことになっています」
そう答えるベルちゃんは、どこか悔しそうだった。何に対して悔しいのか分からないが、その瞳には親の仇でも見るような、そんなどこか悔しさと憎悪が織り交ざった眼をしていた
こういうのを見るのが大好きな僕にとっては、是が非でもベルちゃんのトラウマに踏み込みたいな
「多分ねぇ、いやそれでも、たとえ面倒でも僕はベルちゃんと一緒に行きたい。都合が良いっていうのもあるけど、純粋にベルちゃんとデートしたいって気持ちがあるのも本当だからね。仮に何かトラウマがあるなら、僕がそれ以上の雑音で上書きして見せるよ。こう見えて、僕の話題の引き出しは尋常じゃないからね」
「…マコトさんって、そういうこと誰にでも平気で言いそうですよね。かなり悪い意味で」
僕が女の子慣れしている、と言う意味ではないだろうな。誰に対しても、とりあえずなんか浮かんだから適当に言葉を並べそう、という意味なんだろうな。その通りなんだけどね
「はぁ、分かりました。ご一緒させていただきますよ、その代わり何かあったら、頼りにしていますからね」
「勿論、美少女を護るのは男の生きがいと言っても過言ではないからね」
「その発言、大分差別的だと思いますよ」
「元居た世界でも似たようなこと言われたんだよね、外見の美醜で差別しているって、だけど美しさっていうのは立派な差だと思うし、それを基準に物事を判断しても別にいいと思うけどね。僕の持論だけど、美しさっていうのは学歴やお金と同じだよ、序列をつけるための立派な要素だよ」
いつものことながら、どうでもいいことお話過ぎて話がずれてしまったな。何はともあれ、僕はベルちゃんとのデートに向けて、準備に取り掛かった
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