第4話 魔王と従者に嫌われた 4

「…怪しい人間がいたから連れてきたんですけど、どうやら取り越し苦労だったみたいですね。こいつの言う通り、ベルフェールと同じこちら側の人間らしいですね」

僕と魔王様のやり取りを、一歩下がったところから見ていたディノウちゃんは、少し不満げに口にした。どうやら僕を殺せなくて残念らしい、嫌われ者は辛いねぇ

「フンッ、まぁこいつは今日入ったばかりの怪しい人間だからな、我のもとに確認に来たくなる気持ちは分からなくもない」

「えー、勝手に呼び出しといてその言い草は酷いなぁ。僕みたいな不審人物を呼び出した側にも問題があると思うよ」

「自分で不審人物というか」

流石に自覚はあるからね

「ディノウ、こいつのことは近いうちに全員に報告するから、それまでの間すまぬがベルフェールと共に、こいつの身元の保証をしてくれぬか」

「あたしがですか」

「嫌そうな顔しないでよ、人を疑って脅し紛いなことをしたんだしそれくらい受け入れてくださいな」

「微塵も怖がってなかった奴が脅しを理由にするなよな」

「マコト、貴様の身元の話をしているんだ、貴様は少し黙っていろ」

「僕の身元の話だからこそ、僕がしゃしゃり出るべきだと思うよ。まぁ、しゃしゃり出ても有益なことは話せないから、100%雑音だけど」

「自覚あるなら黙ってろよ」

「貴様のそういう、ある種開き直っているところ、相当性質が悪いぞ」

二人から怒られてしまった。やれやれ、ベルちゃんと喋ったときも思ったけど、年頃の娘と言うのは難しい

「まぁそれでもさディノウちゃん。身元保証云々は置いといてさ、せめて一言くらい疑ってここまで連れてきたことに関して謝罪があっても罰は当たらないと思うよ」

実際のところ、連れてきてくれたおかげで僕に都合のいい展開になりそうだから、謝罪なんてなくても良いんだけどね。むしろ僕の方から感謝を述べたいくらいだ

僕のふてぶてしい顔を睨みつけ、そして小さなため息と舌打ちをしてから

「……疑ってここまで無理やり連れてきたことは悪かったよ、端かからあんたの言葉を信じなかったし、それも悪いと思っている。すまん」

あ、本当に謝罪するんだ。ある種の冗談みたいな要求だったため、実際にやられると反応に困るな

まぁ人に謝らせておいて、冗談のつもりで要求したのにまさか本当にするなんて思わなかったよメンゴメンゴ、と言うわけにもいかないから、僕は精一杯満足げな笑みを作って、うんうんと適当に頷いた

「別に気にしなくていいよ、疑いが晴れて良かったし。ディノウちゃんもディノウちゃんなりに考えて行動した結果なんだから、それに敵対している種族と同じ種族が本拠地に居たら誰だってそうするさ。ディノウちゃんは自分の仕事をしただけさ」

それにこういう、プラスのことをしようとしてマイナスの結果が生まれる感じ、傍から見る分には最高に気分が良い。これは、冗談のつもりの謝罪要求よりも言えない、僕のひん曲がった心の闇だな、我ながら腐ってるぜ

「…ディノウ、こんなやつだ、ウザくて鬱陶しくて憎らしいだろうが頼めるか?」

このやり取りを黙ってみていた魔王様が、再び僕の保証について依頼した

「チッ、分かりましたよ。乗り掛かった舟だ、ベルフェール一人にこいつに関することを任せるのも忍びない、少しの間くらいなら協力しますよ」

「助かる」

魔王様はぺコリとその小さい頭を下げた

「こいつのことをベルフェールと同じ魔族に与する人間、異世界から呼び出された人間ってことを他の奴らに何か聞かれたときに伝えればいいんですよね」

「僕としては、ベルちゃんの恋人とでも、魔王様の婿候補とでも、ディノウちゃんの愛人とでも好きに伝えてくれて構いませんけどね」

「「死ね」」

ハモった。何もハモらんでも

「あーディノウ、頼みごとをしておいてこう聞くのも変かもしれぬが、用件はこいつを連れてきただけか」

「はい、だけど徒労に終わりましたけどね」

「徒労なものか。確かに今回はこいつ、胡散臭い不審人物のくせに我らの仲間であったが、そうでない時も勿論ある、警戒するに越したことはない。これからも不審人物をしっかり取り締まってくれ、嘘を好まぬ貴様ら鬼族には期待している」

「ありがとうございます。おいマコト、戻るぞ」

僕を連れて扉を開けようとしたところを、僕は手で制止をかける

「悪いんだけど、僕はもう少し魔王様とお話があるからさ、ディノウちゃんは先に戻っていてくれるかな。僕の部屋はベルちゃんに聞けばわかると思うから、寂しくなったらいつでも訪ねてくれてもいいよ」

「お前の部屋なんか一生訪ねんわ。それより魔王様、このアホンダラは一対一での会話をご所望ですよ、調子に乗りすぎじゃないですかね」

「我に話か…」

二人とも、その表情に警戒の色を濃くする。だけどよく見てみると、同じ警戒でも結構違うな。ディノウちゃんは僕のことを信用しきれていないようで険しい顔での警戒であり、魔王様は「マジかこいつ、我を指名かぁ、ヤダなぁ」的なうんざり感が醸し出されている

「お二人さん、そんな警戒しないでくださいな」

僕は大げさに肩を竦めて、ドラマや漫画のように両手を挙げた。

「僕の手元に武器になるようなものもないし、魔法や魔術の概念がない異世界人が、魔王様に害することができるわけないよ。だから安心してよディノウちゃん」

僕が無害であるとディノウちゃんにアピールし、次に魔王様に笑いかける

「それにある程度は優秀なベルちゃんや、ここに来るまでの間にディノウちゃんから聞いたからさ、本当に雑談程度だよ。それに二人の立場からじゃ聞けないような話もあるだろうから、お話というよりも僕が魔王様に色々教えてもらうって感じかな。この世界のルールは、早いうちにしっといた方が良いでしょ」

最後の一言で魔王様はうんざり顔から、断りたいけど断れないことを頼まれたような渋い顔へと変わった。文章だけ見ると何が変わったのかと思うが、割と変わっているもんだよ

「…う、うむ、わかった。ディノウ、貴様は下がるがいい。これからも頼りにしておるぞ」

「分かりました。魔王様もお気をつけて」

魔王様に敬礼をし、僕を一瞥するとディノウちゃんは部屋から出て行った。

足音が聞こえなくなるのを待ってから、僕は魔王様の部屋を見渡した。僕に割り当てられた部屋よりも幾分か豪華だが、幾分か程度である、魔王様なのだからもっと煌びやかなものを想定していたため、少し質素にすら感じる。…なるほど、以前会社などで役職が上になると嫌でも豪華なものを身につけなければならない、みたいな話を聞いたことがあるが、つまりはこういうことか

僕が謎の納得をしているなか、「それで」と、嫌々感を隠そうともしないで話を切り出した

「話とは何だ。どうやら貴様は相手の心中を察するのに長けているようだからもうわかっていると思うが、我は貴様に負い目を感じているが、貴様のことをそれ以上に嫌っている。つまらない話をするのであれば、力づくでも追い出すぞ」

「いやはや怖いことを言いますなぁ、魔王様の力づくで追い出すがどれほどなのかは少し気になるけど、お喋りが大好きな僕にとってそれを体験するのは好ましくないことだからね、魔王様が退屈しないように尽くさせてもらうよ」

まるで演劇のような、大袈裟な挙動と共に言葉を並べた。それにしても魔王様は、さっき僕がディノウちゃんと魔王様の顔色と発言でその心中、というよりどこに向けたどういう感情、と言う部分を読み取ったことに気がついたってことだよな。別にそれで僕が不利になることはないだろうけど、察しが良い相手とのお話っていうのは面白みに欠けるんだよね。特にノイズとかに誤魔化されないし

「いやぁ、それにしても良い部屋に住んでいますねぇ、ドッジボールできるくらい広いじゃん。それに凝った装飾もしているし、こんなバカでかい絵画なんて初めて生で見たよ。こういうのってどういうテンションで買うの?」

「貴様の雑談に付き合うほど我は暇では…」

「疲れないの、その喋り方?」

ないのだぞ、と続けようとしたところで僕が言葉をかぶせた。関係のない雑談をしていると思わせてからの、相手の心に切り込む質問。結構会話での有利を取れるんだよ

「…どういう意味だ」

「別に、特に深い意味はないけど。強いて言うなら、その喋り方がどこかぎこちなく感じられるから聞いてみただけ。まぁほとんど勘なんだけどね」

勿論、ここは僕の知識や経験が全く当てにならない、何もかもが全く違う世界、そういう喋り方だから、と言われればそれまでなのだが、まぁ聞く分には良いでしょ

「…フン、大した勘働きだ」

忌々しそうに鼻を鳴らすと、魔王様が座っていた椅子の近くの壁に飾られてあるいくつかの肖像画のような絵、その中の一枚の前に立ち、そしてその絵を愛しそうに撫でた

「その絵は?」

「我の父だ。つまりは先代の魔王」

絵だから実物がどうなのかはわからないけど、随分とダンディな男の人のようだ

「ほぉ、僕に負けず劣らずの男前ですね、機会があれば是非お会いしたい」

「無理だな。父上はもう亡くなっている」

ありゃ、それは失敬

「実は父上がなくなったのはつい最近でな…貴様にこんなことを言うのは筋違いかもしれぬが、父上は貴様と同じ異世界人と戦い、勝ちはしたものの力を使い果たしてしまったらしい、数日後に亡くなられた。つまり貴様と同じ異世界人に殺されたのだ」

思った以上に負けているようだ、魔王軍は。と言うか、軍の長が自ら戦いに赴いちゃ駄目でしょ

「それはさておきだ。我には兄弟もいなかったからな、父上が亡くなってそのまま我が即位。まぁ、最低限の準備をする時間はあり、跡目争いなんかもなかったから、仕事であったり部下であったりは何の滞りもなかった。だが威厳や貫禄だけはどうもな」

「一朝一夕で身につくものじゃないからね。つまり最近、魔王の娘から魔王様になったわけね」

僕の、魔王の娘、という言葉に魔王様は少し体を震わした

「まぁそんなところだ。貴様が我の言葉遣いを不自然に感じるなら、つい最近言葉遣いを変えたから、が答えだ。魔人や魔物、魔族たちの長として父上のように、少しでも堂々とできるように、威厳を持てるようにな」

「そうなんだ。それは立派な心掛けだね」

「立派な心掛け、まさしくそれだ。常に立派であろうと、魔族の模範であろうと自らを律し、多くの目を意識して、多くの魔族が背中にいることを行動し、どんなものからも頼られ、それを率いる存在、それが魔王だ。我は魔王とはそういうものだと、父上の背中から教わったのだ」

「ふーん、あっそ」

「…別に反応が欲しかったわけではないが、その反応はあんまりではないか」

「そう?じゃあ折角だし、もう一つ質問、と言うより確認させてもらうよ。つまりその喋り方は、魔王様の意志ってことだよね」

「は?」

「聞き方が悪かったね。魔王という役職に就くとそんな面倒な喋り方をしなくちゃならないの?それとも、魔王様が可愛らしくも威厳を出そうと背伸びしている、その結果がその喋り方ってことなの?」

「後者の表現は甚だ遺憾だが、その二つならば後者だな」

「ふーん。これは僕の意見だから、別にどうのこうのって訳じゃない、適当に聞き流してくれて構わないんだけどさ、魔王様は『魔王様』という肩書のために生きているの?」

「……何が言いたい」

「僕はこの魔界にどういう歴史やどういう事情があるか知らない、何も知らない、見たものを見たまま受け入れる純粋な少年だ」

「異世界とこの世界では純粋と言う言葉は違う意味を持つらしいな」

「茶化さないでよ、性格悪いなぁ。そんな純粋なマコト少年から見たら、確かに魔王の生きざまとしては、百点満点の花丸だけど、そこに君の個性はないよね。例えば僕が君に挨拶をしたところで、それは魔王という肩書に挨拶をしたのであって、君まで届いてない。僕の目には魔王様は『魔王』という役を必死に演じようとしている、可愛らしい演劇部の女の子に見える。ただの演劇ならいいのかもしれないけど、魔王様の場合はそれをずっとでしょ。先代魔王の娘という肩書に、現魔王の役に休日なんてないからね。アハハ、流石は魔王、ブラック企業だ」

「…おい、口を慎めよマコト」

「おやおや、素が出てるね。慣れてないのを無理にやるとストレスが溜まるよ、そんなんじゃ身長伸びないかもよ。おっと、身長はまだまだこれから伸びるんだっけかな」

「…黙れって言っているのが分からないのか」

「怒るってことは多少は図星をつけたのかな。まぁ的外れだろうと図星だろうと、最初に言った通り、所詮は僕のどうでもいい雑音に近いゴミ意見、気にした負けだと思うよ。それが分からない魔王様じゃないでしょ」

「確かに貴様がどう思おうと我に、我々には全く何の関係もない。だが、それを理屈で割り切れるほど、誇りある『魔王』の看板を汚されて黙っていられるほど、我は大人ではないし、魔族は大人しくない。ここで貴様を殺して黙らせてもいいのだぞ」

「ご冗談を。人間のように身勝手に呼び出した全く関係のない異世界人を、対人間用のとっておきの切り札である異世界人を、一時の感情に任せて殺しちゃったほうがよっぽど魔王の看板を汚す行為だと思うぜ。まぁ、ベルちゃんやディノウちゃんが魔王様に失望してもいいなら好きにすれば。えっと、何だっけ、守るべき者たちを戦場に立たせて、守るべき民や仲間たちの信用を失って、己の信念を曲げてまで得た勝利なんて敗北と同義、だっけかな」

「その言葉は」

「ベルちゃんが誇らしげに語ってたよ、魔王様のこと」

キッと睨んでくるが微塵も怖くない、外見は女子中学生くらいだし、何よりその瞳は動揺の色を濃く映し出している、むしろ可愛いくらいだ。なるほど、目は口程に物を言うというが、こういうことだったのか

「まっ、そんな話どうでもいいんだけどね、路傍の石っころ程どうでもいい。僕は魔王様のぎこちない喋り方について色々聞けて満足だよ、まぁそれもこれからのことに微塵も関係してないからどうでもいいんだけどね」

僕は今まで浮かべていた挑発的な笑みをパッと消し、何も考えてなさそうなにこやかな笑みを浮かべた。中学時代は、この笑顔の方が胡散臭くて挑発的、とか言われていたけど僕としてはこっちの方が、屈託のない笑顔なのだ

「どうでもいいだと…それだけ好き勝手喋って、我の心を掻き乱しておいて、どうでもいいだと、ふざけるな」

魔王様に胸ぐらを掴まれた。なるほど、女子中学生並みの細腕だと思っていたが、敵意を持たれると、なかなかどうして攻撃的な腕じゃないか、外見通りのか弱い女の子ではなさそうだ。そもそも、それなりに離れていたのに、数メートルの距離を一瞬で詰めてきたよ。やれやれ、モテる男は大変だぜ、この調子で心の距離も詰めてみるかな

「別にふざけてないけどなぁ。だって本当にどうでもいいことじゃん。魔王様が自分を殺して一生懸命みんなの理想の魔王を演じようと、その結果自分を見失うことになろうと、魔王という肩書と責任以外君に何もなくなろうと、僕に何の関係があるの?」

「じゃあ…私の心をかき乱さないでよ」

あ、言葉遣いが変わった。多分素はこっちなんだろうな

「そうだよ、生まれた時から気付いていたよ、たくさんの人が私を慕ってくれているけど、それは魔王という肩書だったり、魔王の娘という記号にだったり、誰も私個人を見てくれない。だけど今更どうしようもないの、魔王の名を背負ったからには私には威厳を保ち常に魔族全体のことを考え、民を第一に行動しなければならない、魔界の安定を作り、維持してきた父上やおじいさまのような『魔王』にならなくちゃいけない。マコトみたいに、無責任な感情で動けないの。それなのに思い出したくないこと思いださせて、何がしたいの」

言いたいことを勢いに任せてぶちまけたのか、「はぁはぁ」と肩で息をしている。随分と溜まっているなぁ、鬱憤というかストレスというか。まぁ、そういうものを吐き出す相手はいなかったのだろうなぁ。可愛そうとは思わないけど、大変そうだ

「……すまぬ、貴様のせいとはいえ勢いで言いすぎた。忘れてくれ」

「生憎とかわいい女の子からの質問は、絶対に誠意をもって答えるのが僕の信条でね」

そして誠意もなにも籠っていない答えを口にした

「何がしたいって聞かれてもねぇ、強いて言うなら、好きな子には意地悪したくなっちゃうっていうアレ?」

「…は?」

おぉ今の、は?(威圧)は中々ゾクッと来るものがあるね

「なんて言えばいいのかな、僕って人の感情、特に可愛い子の感情を見るのが好きなんだよ。嬉しいや楽しいみたいな明るい感情はもちろん、怒りや苦悩みたいなマイナスの感情もね。魔王様ともなると大分溜まってそうだったから、ついついちょっかいかけちゃったんだ。そして読み通り、面白いくらいの感情を見ることができたよ」

「…チッ、下衆が」

「魔王様にそう言ってもらえると自信がつくなぁ。でもまぁ、恩着せがましいことを言うつもりはないけど、多少は溜まっていたものをぶつけられてスッキリしたんじゃないの?どうせ、誰に愚痴ることも弱音を見せることもできなかったんでしょ」

無理に威厳のある喋り方をするような、みんなの理想の魔王になろうとしている一生懸命な女の子が、自分の部下に当たる者たちに弱みを見せるとは思えない

「そんな戯言で篭絡されるとでも」

「されたらトップとしての資格はないから、即刻別の誰かに魔王の看板を譲ることをお勧めするよ」

「…貴様と喋っていると頭がおかしくなりそうだ」

どうやら、篭絡されたわけでもなさそうだが、僕がおちょくったことに関してはもう矛を収めたようだ。僕の推測通り、思いっ切り感情をぶつけてスッキリしたみたいだ

「アハハ、誉め言葉として受け取っておくよ。さて、質問コーナーはこれくらいにして、これからの話をしたいんだけどいいかな」

「まだ何かあるのか…我は今、どこかの誰かのせいで機嫌が悪いからな、無駄話などせず端的に述ろ」

「あ、話し方そっちに戻すんだ。僕の前くらいさっきみたいな、可愛らしい女の子、のような喋り方でも良いんじゃない?どうせ僕魔族じゃないし、魔王様の配下に加わっているわけでもないからね」

「言葉が分からなかったのか、無駄話…」

「人間との戦いについてなんだけどさ」

また言葉を被せて本題に切り込んだ。二回目だけあって、実に悔しそうにしている。呆気にとられる表情もいいけど、こういう今にも地団太踏みそうな感じも素敵じゃないか

「負けてるらしいね、魔王軍とやらは」

「チッ、嫌なことをした後に嫌なことを言うな、貴様は。我が言うのもなんだが、友達いないだろ」

「そうでもないさ、類は友を呼ぶっていうじゃん。嫌われ者は嫌われ者同士、仲良くつるんでいるよ」

だから、僕を呼んだベルちゃんは、少なからず僕と似ている要素があるのだと思うよ

「それで、我が軍が負けているからなんだ?勝利に貢献するために貴様も前線に加わるか」

「それも中々素敵だけど前線は遠慮しておくよ。僕ってそういう花形のタイプではないし」

「前線は?なら他の面で戦争に関わるとでも言いたいのか。しかも、戦争の中枢にかかわるような面で」

「ピンポーン、その通り。後半の部分まで読まれるとは思わなかったけど、話が速くて助かるよ」

「我にわざわざ明言するのだ、少なくとも物資の調達程度の裏方ではあるまいと思っただけだ…それで、何が目的だ」

魔王様の目に、さっきまでとはまた別の警戒の色が灯る。さぁ、ここからが本題だ

「そう警戒しないでよ、僕の目的は最初に言った通り元の世界に戻ることだよ、異世界人を召喚する魔術を盛んに行っているのは、人間側なんでしょ、なら戻す魔術の研究も行っていると思うんだよね。仮に行っていなくても戦争に勝てば行わせることができる。だからできる限り魔王様たちに加担して、一日でも早く元の世界に戻る方法を見つけたいんだ」

「ふむ…」

僕の目的を聞いた魔王様は、顎に手を当てて、僕の方をじっと見ている

「…それだけでは貴様が積極的に関わろうとする理由にはならんな。今の貴様は我らの陣営に召喚されたが、そこでの生活を強制させるものは何もない。極論を言ってしまえば、我らの情報を持って人間の国に行けば、それを手札に交渉すれば貴様のことだ、あっさり目的は達成できるのではないか。無論そんなことは是が非でも止めるが、貴様ならそれくらい思いつきそうなものだが」

地味に評価してくれてちょっと嬉しいな

「裏切るのが得意な人みたいに言わないでよ。確かにここでの情報を持って人間側につく、という案が浮かびはしたけど、魔王様たちの話を聞いているとこの世界の人間はあまり信用できないところみたいだしね。それに負けている魔王様の情報を持って行ったとしても、あまり僕のことを重宝してくれるとは思えないし」

「悪かったな、情報に価値がなくて」

そう拗ねないでよ。魔王様が滅茶苦茶かわいい女の子ってだけで十分価値があると思うよ、僕は

「だからこそ、魔王様に僕を売り込みたいんだよ。僕を買ってほしい、ここだけの話僕の頭の中には戦争を終わらせる案があるんだ」

「案だと…」

「……あれ」

おかしいな、普通この場面なら「その案を話してみろ」くらいのことは言うと思うんだけどな。魔王様は再び顎に手を当て、何かを考えている

あぁ、そっか、そっちか

「僕の腹を探っているのね。確かにそうだもんね、人間側につかない理由は正直不十分だし、いきなり戦争を終わらせる案と言われても何かあるのを、何もないのを疑うよね」

「まぁそんなところだ。貴様の目的がいまいち読めなくてな」

案があることをまず疑っている、いや多分、案があると嘘をつく意味を探っているところか

「僕の目的はさっきも言った通りだけど。あまり靡かないようだったら、僕は本当に魔王様の敵にまわるよ。どうする?起死回生になるかもしれない策をここで放棄して、切り札として呼び出した僕を殺すか、僕にここでの権力を渡すか」

「権力…そうか、貴様の目的はそこか。貴様絶対友達いないだろ」

「察しが良いね。それなりに友達はいるけど」

僕が欲しかったのは、魔王城での自由、それを行使するための大義名分。勿論、魔王様が色々保証はしてくれるかもしれないが、それでも人間が魔人の城で働かずにぶらぶらして、良い食事や良いものを買ってたりすれば、風当たりは強くなるだろうし、他の人たちはよくは思わない。そのためお金と時間を使う大義名分が欲しかったのだ。魔王様公認の策士の行動、この肩書さえあれば、僕がどこをウロウロしようと何しようと咎められることはない

「だがいいのか、そうなるということはいずれは何らかの功を挙げなければならぬのだぞ」

「その辺は考えてあるよ、ベルちゃんの話を聞いて、いくつか思いついた案はあるのは事実だし。まぁ頼りないだろうけど任せておいてよ、仮にも異世界に呼ばれた日本人だし、ラノベみたいな活躍をしてみせるよ」

飄々と嘯く僕に、魔王様は大きなため息を一つついて、真剣な表情を作った。勿論僕はそれに、胡散臭いと評判の笑顔で返す

「ルダスだ。ルダス・アクトリア、この名のもとに貴様を我の部下、策士として認める。存分に尽くしてくれ」

「ご丁寧にどうも。ではこちらも改めて、僕は常盤真、気軽にマコリーヌとでも呼んでくれ」

これが僕の魔王への第一歩になったことは、まだ誰も知らない。いや、案外ルダスちゃんあたりはもしかしたらこの時点で、僕が色々やらかすことを予想していたのかもしれない

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