第6話 俺は意識を溶かした、恐れにより。

ソレバケモノは俺を見た後、視線をずらして何か考え始めた。




その間に逃げろよ!と血気盛んな今なら言うんだろうが、

当時は5、6年生なのだから仕方がない。




暫くの間、沈黙がその場を支配していた。

俺からしたら、30分ぐらい黙っていたと思う。




するとソレバケモノは枝から一気に降りてきた。

バサッバサッと威嚇染みた音を派手に立てて。




俺は反射的に駆け出した。

この山を急いで下りようと、精一杯。




すると、ソレバケモノは射線というのだろうか、

そういうのを変更して追いかけてくる。




恐ろしさで震えていたのと、

律儀に後ろを確認していたせいも有り、

ベタに俺はこけた。足元に檜の根でも出ていたのかもしれない。




ソレバケモノは地面に降り立ち、ゆっくりとこちらに歩を進めてくる。

俺はそれを受けてできる限り後退する。




その繰り返しが何回かあった後、ついに逃げ場がなくなった。

前にはバケモノ、後ろには檜の群れ。




終わった。

絶体絶命という、まだあった希望が(それこそ米粒くらいだが)

絶望という名の、黒い液体に侵され、満たされていく。




それは同時に、意識すら溶かしていった。

ドロドロと思考と感覚が溶けていく。

意識すら溶かし尽くし、朦朧とする。




もう、駄目だ。しぬんだ、俺は。

瞼が落ちていき、そう思った時————————、




ソレバケモノが、何か言葉を零したような、

そんな気がした。

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