第27話 いつしか悲観的になっていた心

 清水と皐月の視点が移り変わるのでご注意を

 ……………………………………………………


「清水さん、ちょっといいですか?」


「ん、何?」


 水無月ちゃんが手を降り私を呼んだ。


 それにしても、あれよね。この妹ちゃん達が本当に伏見くんの妹だとか信じられないわよね。


「ちょっと、作戦と言うか、やってもらいたいことがあるんですよね。」


「やってもらいたいこと?……あんまり難しいのは無理だよ?」


「いやいや、そんな難しいことじゃないんだてすけど。ま、簡単に言うと身長の高い…名城先輩でしたっけ?あの人のマークについて欲しいですよね。」


「わ、私でいいの?バスケって身長の高い人の方が強いんじゃ?」


「そうかもしれないですけど、今は皐月も本気ですし、それにこう言う言い方は酷いかもしれないですけど、清水さんには囮になってもらおうかと。」


 囮?何か似てるな、伏見君と。私じゃ考えもしないことをやろうとしてるんだろうな。


「いいよ、私にできることなら何だってやる。だから、絶対に勝とうね!」


「はい!」


 ふふ、やっぱり伏見君とは少し違うな。伏見君ならきっとああだこうだ言うんだろうな。


「じゃ、再開しますか。でも、清水さん。」


「ん?」


「皐月が本気ですとは言いましたけど、私も本気なので心配しなくていいですよ。」


 水無月は笑顔でそう言うと右サイドに移動した。


「あ!清水さん、最初ボールお願いします!」


「うん!わかった。」


 皐月ちゃんからボールを受け取り中央のラインにたった。


「さて、そんじゃ!一本取ってこう!」


 水無月ちゃんがそう叫んだ瞬間に皐月ちゃんにパスを出した。


「清水さん!お話ししましょ?」


「へ?」


 あれ?何で水無月ちゃんが私の横に?


「私達どうせ何もすることないんで。」


「え、あ、うん。」


 すること無いんだ!


「それに、私達じゃ、邪魔になるだけですしね。」


 私は皐月ちゃんの方に目線を向けた。


 ……………………………………………………


「エースの人!勝負しましょうか!」


「……なめるなよ、伏見の妹!」


 私はそれを聞いて一気に木島さんの右側を通った。


「させないよ!」


 しかし、目の前にすかさず木島さんがブロックに入った。


「あは!そうこなくっちゃ!でも、それだけでしょ。」


 右手にあったボールを股にくぐらせ、左手にまわし逆サイドに抜けた。


「ッチ!でも、君の兄弟が攻撃に入らない分の手は空いてるんだ!」


 木島先輩を抜けた後に直ぐに名城先輩がブロックに入る。


「二人いても止められないですよ!」


「ああ、だから、止めたりしないさ、だけど、シュートを打てると思うなよ。」


 あ、そう言うことか、私よりも身長は大きいもんね。そりゃ、私じゃシュートを打っても叩き落とされるわ。


「でも、シュートを叩き落とせない状況だったらどうでしょうね?」


「それはどういう意味だ?」


 わからないくてもいいですよ。


「どうせ、ついて行けなくなるんだから。」


 私はレイアップの体制でジャンプした。


「だから、無駄だっていってんだろ!」


 私とほぼ同時にジャンプした名城先輩はやはり私よりも先に私の最高打点を越えた。


「でも、越えただけでしょ?」


 私は右手に持っているボールを一度戻し直ぐに左手でボールを放った。


「フックシュート!」


「これなら届かないでしょ?」


 ボールはそのままゴールに入った。


 ……………………………………………………


「フックシュート?」


「はい、レイアップの体制から反対の手に持ち替えてフックシュートをうつ。皐月の十八番の一つですよ」


「へ~!凄いんだね!」


 何が凄いか分からないけど!!


「清水さん、わかってないですよね?」


「え、そ、そんなことないよ。」


「でも、ま、わかんなくて当たり前ですよ。普通出来ませんから。」


 ですよね!分かんなくていいんだよね!


「はは、皐月ちゃんは凄いね。きっとすごい練習をしてきたんだろうね。」


「ええ、それはもう、私とは比べようのないくらいに。」


 水無月ちゃんの横顔がさっき、伏見君と話していたときのような顔になっていた。


「ねぇ、水無月ちゃん?一つだけ聞いてもいいかな?」


「何ですか?」


 私が水無月ちゃんに聞きたいこと……。


「水無月ちゃんは伏見君の妹なんだよね?」


「ん?どういうことですか?」


「いやさ、水無月ちゃんを見てると何かまるで、伏見君を見てるみたいなんだよね。」


 そう、まるで伏見君をそのまま女の子にしたみたいなかんじ。だから、疑問に思った。


「水無月ちゃんは水無月ちゃんだよ?」


「………。」


「確かに皐月ちゃんは凄い。それは誰の目から見てもわかること、だけどね。私はこう思うの、もし、一人が凄く目だって、そのチームを勝たせたとしてもそれはきっと見た人たちの勘違いなんだよ。」


「勘違い?」


「そう。例えば、そうだね、簡単に言うと夏の甲子園で一人の選手がものすごい、新聞やテレビなんかで取り上げられてたとするよ。だけど、それってさ、その選手が目立っただけで、別に特別って訳じゃないと思うんだよね。」


 ただ、目立っただけ、誰だって練習をするし、努力だってする。そんなの誰だってすることだ。


けど、その選手が目立った理由が必ずある。例えば凄い選手の息子だったり、甲子園を出る前にかなりの功績をあげたり、様々なことで人に見られてきたのだろう。


「私はさ、いつも思うんだ、その活躍した選手は、その選手が活躍するために影で支えてくれたチームメイトを忘れちゃいけないことを。」


「影で支えてくれたチーム。」


「ふふ、でも、水無月ちゃんの場合は多分それに当てはまらないだろうけどね。だから、水無月ちゃんに言いたいのは、水無月ちゃんは水無月ちゃん、皐月ちゃんは皐月ちゃんてこと。」


「私は、私。」


「そ!だから、伏見君みたいにあまり悲観的になるのはダメだよ!私は水無月ちゃんは凄いと思ってるかね!」


「私が凄いか……。ありがとうございます。」


ふふ、私もたまにはいいとこ見せなきゃね!


「……清水さん、水無月!いい加減試合に戻ろうか?」


あ、忘れてた。さっき皐月ちゃんがゴール決めてから二、三分たってしまった。


「さ、行こっか!次は守備だよ!」


「はい!清水さんにもっと私の凄いところを見せてあげますよ!」


「楽しみにしてよ!」


やっぱり、水無月は真剣な表情より笑ってる顔の方がいいな!

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