第23話 表と裏、それが人……。

「あ~まずい。まさかここまで点差がつくなんてな。」


点数を見ると18-9と点差がある。


「ちょっとさっきいったこともう一回言ってもらえる?」


清水が不機嫌そうに此方を見てそう言った。


「いや、さっきまでは想定内だったんだよ。」


後残り時間が30秒しかない。どうするか。後半になる前にどうにかして6点差までにしたい。


「なぁ?少しいいか?」


「何よ?秘策でもあんの?」


「いや、そんなものあるわけないだろ?」


清水は無言で口をポカーンと開けている。


「じゃあ、何よ?」


「ああ。秘策はないが、その場しのぎならある。」


「どういう意味?」


「簡単だよ。パスを出さない。」


二人とも無言になり、清水に到っては眉間に手をあて呆れ果てたような態度をとっていた。


「あんたね……いつもそう、何でとんでもないこと言い始めるのよ?バカなの?それともバカなの?」


「それ選択肢にバカしか入ってないよね?」


「ええ、だってバカでしょ?」


このアマ!何て事言いやがる。


「まぁ、良いから聞けって。まず、下手にパスをして木島達に取られたら負けだ。それにボールを1人で抱え持った方が取られないしな。」


「確かにそうだけど……。」


「それに正直言ってこのままでも負ける。」


「は?どういう事よ!負けるって何?」


「まぁ、落ち着け。」


俺は手を前に出し清水を落ち着かせた。


「 本当はな、6点差までなら、この後の後半でも巻き返せたかもしれない。だけど、正直言って9点差はいたい。」


「はぁ~。」


清水は大きなため息をついた。しかし、すぐに顔をあげてこういいはなった。


「なら、やるしかないでしょ。私達にできる最善を尽くして。」


俺は驚いていた。今までの清水だったらきっとすぐに諦めるか、または人に頼るかのどちらかだった。


だから、こいつが前を向いてるんだ、俺だってやらなきゃな。


「俺にパスをしてくれ。」


「わかったわよ。」


そう言うと清水は腕をあげて拳をこちらに向けてきた。


「俺、そういうスポ根系好きじゃないんだけどな。」


「うっさい。良いから早くしろ」


俺はため息混じりに清水の拳にそっと拳を当てた。


「後三点取ってこようか!」


そう発した清水はボールを受け取りパスを出した。


さてと、清水にあそこまで言われちゃやるしかないか。


「なぁ?木島、お前さ……この試合が始まるまで何を考えてた?」


俺は目の前に立っている木島に話しかけた。


「試合中にお喋りかい?随分と余裕があるじゃないか。それとも時間稼ぎかい?」


こいつ、気づいてやがる。


俺は少し苦笑いを浮かべ話を続けた。


「まぁ、聞けよ。お前は試合に勝つことから考えたりするんだろ?」


「当たり前だろ?少なくとも負ける気で試合に挑むやつなんていないんだから。」


「そうだな。確かにそうだ、だけど、俺は少し違うな。」


俺は少し腰を屈めてドリブルの態勢にはいった。


「俺はいつも負け続けた。お前らと違ってな。友達づくりや人前に立つこといつだって俺はお前らの影に隠れて過ごしてきた。」


ボールを床に打ち付けドリブルを始めた。


「だからこそ、俺が試合前に一番最初に考えることは負けたときの言い訳だよ!」


「何か、途中まで悲しいこといってたけど最後に到ってはもう悲しみを越えて哀れみすら覚えるわよ!」


清水が此方を見てそう叫んだ。大鳥に到っては此方を見ずに下を向いて顔を手でおおっていた。


「君のどうでも言い自虐ネタはもう終わりかい。だったらそのボールを貰おうかな。」


そう言うと同時に木島はボールに手を伸ばした。


「そう簡単に渡さねぇよ!」


少し後ろに下がり木島をかわした。しかし木島はさらに追撃をかけてきた。


「まだだよ!」


木島は少し前に進みもう一度手を伸ばしてきた。


「く!流石はバスケ部のエースさんだ!」


そう叫ぶと俺は身を捻り右手でボールを支えながら一回転して木島を抜かした。


「よし、避けた!伏見くん」


大鳥がそう発した瞬間俺は少し気を抜いたのかチラッと時間の方を見た。


「伏見くん 気を抜くんじゃないわよ!まだ、木島くんを抜かしてない!」


そう言いながら走ってくる清水に気づかされ俺は木島の方を見た。木島は俺の後ろから手を伸ばして、右手でドリブルをしていたボールをはじいた。


「くそ!」


ボールはそのまま転がり右側のサイドラインを越えようとしていた。


まずい、残り時間が後10秒しかない。しかも点差がこのままだと後半でも巻き返せない!


俺は足が止まり動けなかった。人は絶望や諦めたとき足が止まりやる気がなくなる。


しかし、清水は俺の横を走り抜けボールへと飛び付いた。


「伏見!後は任せたわよ!決めないと承知しないから!」


そういい放つと清水はボールを此方に転がした。俺は走り出して、ボールを掴んだ。


どうする!このまま、また木島と勝負しても勝ち目がないし、それに残り時間が後5秒しかない。


「もう、腹くくるしかないみたいだな。」


少しニヤついた。久しぶりだった。こんなにも自分が必死に何かをするのが。だから、ここは決めてなんぼだろ!


「清水、大鳥見せてやるよ!俺の背面シュートを!」


俺は後ろ向きでゴールに思いっきりボールを放り投げた。


「そんなシュート入るわけない!」


木島がそう叫んだ。


「はは、なめんなよ。実力の勝負なら負けるけどな、こう言う運だけの勝負なら誰にも負けねぇよ!」


ボールはそのままゴールに入った。それと同時に前半の終わりを告げるブザーがなった。


「ふぅ、何とか6点差までになったな。」


「ホントよ!流石に心配になったわよ!」


清水が此方に歩み寄りながらよう告げた。


「ナイスシュートだよ!伏見くん」


大鳥は俺の手を握り大袈裟に喜んでいた。


「これから10分の休憩に入ります。ここで一度ルールの確認です。後半からは選手の交代が認められそして、一部訂正が入ります。」


「訂正ってどういう事?」


清水が俺に聞いてきた。


「まぁ、一空さんの話を聞けば分かるだろ。」


「訂正の部分ですが、後半からは選手が得点もしくは相手選手にボールを取られる、ボールがエンドライン、サイドラインを越えた場合のみ攻守が入れ替わります。」


そう言うと一空さんは一時体育館から出ていった。少し俺に手招きをしたような気がした。


「どういう意味?よく分かんなかったんだけど?」


「簡単に言うとゴールを決めるまでシュートをうっていいって事だよ。と、ちょっと行きたいとこあるから少し行ってくる。」


俺はそのまま体育館を出て一空さんを追った。


「やっぱり来てくれたね。」


屋上に来ていた一空は此方に笑顔を向けた。


「で、何のようだよ?」


「そんなに警戒しないでよ。何か仕様なんて思ってないから。」


そう言うと一空さんは手すりにもたれ掛かり、校庭の方を向いた。


「私はさ、。」


ん?んん?今この人は何て言った?


「ふふ、驚いてる、驚いてる。それは、そうだよね。大鳥くんをあんな扱いしといてどの口が言うんだって感じだよね。」


一空さんは少し寂しそうに笑顔を見せた。


「これって言い訳になっちゃうのかな?私ね、最初は冗談だったんだよ。でもね、それを勘違いした皆がどんどん大鳥くんを私から奪っていった。」


一空さんの言葉にはどこか怒りが混じっているような気がする。


「けど、やっぱりこれは傲慢だよね?今ごろになって大鳥くんを助けたいなんて、しかも全部他力本願だしね。」


「傲慢か、そうだな。でもな、人間は皆傲慢だろ?」


一空さんの言葉を俺は否定した。


「だって、その好きって感情も結局はその人を自分のものにしたいって言う傲慢そのものだろ?」


「そうかもね。でもさ、やっぱり私は自分を許せないし、多分大鳥くんも許してくれないと思う。」


一空さんは上を向いた。一瞬見えたその瞳は涙ぐんでいた。


「自分を許せないか……、ふ、ふはは、一空さんは大人ぶってるんだな。」


「どういう意味?」


声音が少し強くなった。


「だって、高校生の分際で自分が許せないだの、許してもらえないだのって考えすぎだよ。」


そう、考えすぎなんだ。一空さんは自分を許せないと言った。だけどそんなのは結局心の持ちようでしかない。


「だからさ、もっと簡単に考えろよ。傲慢だの、他力本願だのて、難しい言葉並べないで言っちまえばいいじゃねぇか……。」


俺はあえてここで言葉を止めた。一空さんが言うべき言葉だから。


「でも…それは私が言っていい言葉なの?」


「言っちゃいけない言葉何てあるのか?それにその言葉はあんたの本当の気持ちだろ?」


深呼吸をした一空の顔はどこか決意に満ちていてそして、たくましかった。


「お願いがある。大鳥くんを助けて上げてこんな私からのお願いだけど、どうか大鳥くんをお願い。」


「こんな俺でよければ。」


「ふふ、私なんだか、伏見くんに惚れちゃいそうだよ。」


この人は何回俺を驚かすんだ!?


「やめとけ、やめとけ。後で後悔するぞ。」


「はは、やっぱり君に頼んでよかった。……じゃ、先に戻ってるね。」


そう告げた、一空さんは屋上から出ていった。


「いや、そうでもないぞ。一空さん……俺はあんたと大鳥を利用しようとしているからな。」


そっと俺は上を向き、空を眺めた。空は一面青く日差しが照りつけている。その青空を見ているとどこか自分に寂しさを懐いてしまう。


「はぁ~、どうしてこんなにも自分が嫌いなんだろうな。」


そうだ、俺は自分が嫌いだ。この後に起きるであろう事を知っていて尚俺はその出来事を起こすのだから。


屋上のドアをしめ俺は体育館へと足を進めた。

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