第10話 その時、この中の誰かが消えた
「言ってみろ。誰だ?そいつは」
「……静流だ」
僕が意を決して口にした瞬間、静流の顔から表情が消え失せた。もう後へは引けない。
「それだけはっきり言うってことは、確信するに足る十分な根拠があるんだろうな?」
翔馬が険しい表情で問いただした。
「それは……聞いたみんなの判断に任せる。とにかく僕の推理を話すよ」
ここまで来たら、言うしかない。僕は頭の中で話す順序を組みたてた。
「まず戦闘体形になる前、全員が三号機のコックピットにいた時、大造は無事だった、これはいいね?」
僕は一同を見回した、。全員が無言でうなずいた。
「その後、ヒュプノジアが現れてからは、シート移動をした形跡がない。これもいいか?」
「人間が移動したかどうかまではわからないぜ」
黎次郎が異論を唱えたが、僕は受け流した。
「その点をこれから、考えてみたいと思う。ファイブスが直立しているとき、シャフトと三号機は直線でつながっている。一号機からは約二十五メートル、二号機からは十八メートル、四号機からは八メートル、僕のいる五号機からは二十八メートルだ」
僕は入隊した時に受けたレクチャーをそらんじた。正確な数字よりも、犯行現場からの距離がイメージできれば良かった。
「戦闘中、ファイブスのオペレーションは翔馬一人に委ねられる。もちろん、自動操縦に切り替えることも可能だが、その場合、ファイブスは歩くことと走ること、ジャンプ、基本攻撃、このいずれかしかできない。ファイブスに搭載されているAIでは、敵からの多様な攻撃に対応することは不可能だ」
「身体が上下二つに分かれる、とかな」
翔馬が自嘲めいた口調で言った。僕は頷いた。まさにそういうことなのだ。
「一連の攻撃を見る限り、翔馬は自動操縦に切り替えてはいない。二十メートル以上もあるシャフトの中を三号機まで降りて行って大造に危害を加えることは難しいと思う」
「じゃあ、俺はどうだ。可能か?」
黎次郎が震える声で言った。こめかみが小刻みに引きつっていた。
「基本的には、不可能ではないと思う。ただ、激しく動くファイブスの内部を十八メートルも降りたり登ったりするのはやはり、難しいと思う。
シャフトは三号機の天井で終わっているから、シートを使わないで降りる場合は、穴の縁に一旦ぶら下がってから床に飛び降りる必要がある。
怪我はしないが、衝撃があるはずだ。背後とはいえ、座っている大造に気配を勘づかれる可能性は大きい」
「黒に近い白、というわけか。……じゃあ静流はどうなんだ?四号機のシャフトは俺たちとは逆で、四号機の天井から始まって三号機の床に通じている。四号機の天井に入りこめれば、大造に気づかれずに三号機に忍び込めるはずだ」
「そう、床から天井までの約二メートルちょっとを何とかできれば、四号機からの侵入が、もっともやりやすいと言える」
僕はちらと静流の表情を盗み見た。強張った横顔からは、いかなる表情も読み取れはしなかった。
「ここで条件を変えてみよう。すなわち、ファイブスが直立していない状況だ」
「ワイヤーで倒された時だな?」
「そう、あの時ファイブスは仰向けになっていた。つまり各シャフトは三号機に対して水平になる。これなら多少距離があっても、普通に這って進むことで難なく三号機にたどり着くことができる」
「倒されている間は、戦闘もままならないしな。自動操縦にしなくても俺は三号機まで行ってこれるってわけだ」
「簡単に言うとそうだけど、やはり問題がある。あの時、翔馬は黎次郎とヒートグリップの相談をしていたし、静流もバルカンで応戦していた。三号機に行って大造に危害を加え、戻ってくる余裕はなかったと思う。このことから、ファイブスが倒された時にはすでに犯行は終わっていたと考えられる」
静流が目を見開いた。僕は言葉を継いだ。
「さっき、ファイブスが直立した状態で静流が三号機に移動するには、二メートル近くジャンプする必要があると言ったけど、ジャンプせずに犯行に及ぶ方法が一つだけある」
「何だ?」
「大造に向こうから来てもらえばいい」
僕が言い放つと、静流を除く全員がどよめいた。
〈第十一話に続く〉
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