第2話 研究者
「池川さん、でしたっけ? よくこのビルを警察の目から欺けましたね」
薙斗の問いは、レキナに肩を貸していたのと、ここまで全力疾走を続けていたために、まだ少し息が上がった状態でのものだったが、そんな問いができるだけの体力が残っている薙斗、に少し意外そうな顔をしながら答えた。
「私の魔力ってのはどうにも幻惑能力に特化しているみたいでね。隠れ家を作り上げるのは得意分野なものでね」
特に伏せるわけでも回りくどい言い方をするでもなく、璃子は答えてみせた。その言動に、嘘や冗談の類は感じられない。
「ああ、あと、池川さんってのは性に合わないからな……リコちゃんとでも呼んでくれ」
前言撤回。この女性は冗談をナチュラルに突撃させてくる人間だ。
「――年上、ですよね?」
「ははは、レディをババア扱いとは、なかなか君も肝が据わっているねぇ!!」
おそらく、このリズムが素の彼女であろう。こういうタイプの人間と関わったことのなかった薙斗にとっては、どういう対応で接するのが最適なのかは簡単に見いだせそうにはなかった。とりあえずの対応として、薙斗はため息をついてそれ以上の会話を無理やり中断させることにした。ため息に関しては、建前というよりは本音の成分の方が強かったのは言うまでもない。
「さ、着いたよ。二名様ご案内だ」
璃子が扉の前に設置されていたコンソールの上で、躍るように指を動かした。パスコードでも認識したのだろう。無機質な音と共に、扉が一人でに開く。璃子に続いて、薙斗もレキナと共に部屋へと足を踏み入れる。
部屋の中は、まさしく「研究室」とでも形容するに相応しい様相だった。壁面にはモニターとそれに付随したコンソールが並び、また別の壁面には何かの計測器が立ち並んでいる。部屋の中央には、周りの金属とはどこか不釣り合いな木製で足の低いテーブルと椅子が二脚。そして色あせたソファが目に入った。
「あ、璃子。お帰りなさい」
そして、一人の少女がほうきを持ったまま三人の方へと駆け寄ってきた。ゆったりとした水色基調の衣服に身を包んでいる。少しくせっ気のある銀髪が脇あたりまで伸ばされている。目は脱力感をにおわせる少し垂れ目気味だが、顔のバランスが崩れているということはない。だが、なんとなく璃子に似て厄介な性格をしているのかもしれない――。薙斗が少女に感じた第一印象は、そんなところだった。
「ああ、ただいま。リーシャ」
璃子が、リーシャと呼ばれた少女の頭をぽんぽんと優しく叩いた。そして、そのままこちらへと向き直る。リーシャはその動作に倣うように、璃子の視線追っていった先に、薙斗達がいることに気づいた。
「璃子、この人達が例のお客さん?」
首を傾げ、薙斗とレキナを交互に見ながら璃子へと質問するリーシャ。璃子がそれに対し、薙斗達の紹介を始める。
「
「どうも」
「こ、こんにちは!」
璃子の紹介に合わせて、薙斗とレキナはそれぞれの挨拶をみせる。薙斗はどこか警戒気味ではあったが、対してレキナは目を輝かせてけが人にしてはよく響く声で挨拶を返した。まぁ、先ほど逃げるときに散々叫びあっていたために、当時ほどのやかましさは潜められていたが。
「初めまして。璃子の研究室でお世話になっているリーシャといいます。以後よろしくです。あ、お茶、用意してきます。そちらのソファで待っていてください」
語調には抑揚があまり感じられなかったが頭を深々と下げる姿には誠意が感じられた。そして、パタパタと研究室の奥へと進んでいき、その姿を隠す。おそらく、奥の部屋には水道等が配備された給湯室かそれに近いものがあるのだろう。外見がどう見ても廃ビルなこの建物に、人が飲めるような水があるのか――というより、そもそも水道が引かれているのかということに――疑問を感じるところではあったが、薙斗は敢えてそのことを考えないようにすることにした。薙斗はレキナに肩を貸したまま、ゆっくりと二人でソファに腰を落とす。ビルに飛び込んできたときに数分休んでいたとはいえ、数階分の階段を自足で上ってきたため、鍛錬を積んでいるにしても足が悲鳴を上げていた。疲労している体で階段を上るという行為がこんなにも体力を奪うものだとは思いもしなかった。
「リーシャはいい子だよ。マスターもいないのに私を慕って研究を手伝ってくれるからね」
召喚士やフェアリーの関係性に疎い人間にとっては特に目くじらを立てるような内容ではなかったが、薙斗にとってはその内容は無視できないものだった。
「――池川…………璃子さんがマスターじゃないんですか?」
苗字を口にしたときに少々粘性の強い視線を感じた薙斗は、名前さん付けの呼び方に舵を取り直した。だが、薙斗が疑問に思うのも当然のことだ。共に生活しているのならば、魔力の供給源となる召喚士が、フェアリーにとっては不可欠だ。だが、それを真っ向から否定するように、璃子は左手の甲を薙斗に見せてきた。その手にはサイファーがなかった。かつて埋め込まれていたような形跡も見られなかった。
「御覧の通り、ただの人間だよ。ちょっとばかしフェアリーへのあくなき探求心に取り付かれている、ね」
「璃子さんは――世間に未発表のフェアリーの研究成果とか、何か持っていたりしますか?」
続けざまの薙斗の質問は、召喚士としての質問ではなく、一人の研究者としての質問だった。
「残念ながら特には、ね。それにしても珍しいね。一般の人間がフェアリーの研究成果について探っているとは」
璃子の言う通り、一般の人間――召喚士を含めて――は、フェアリーの専門的な研究やその成果について興味関心が薄い。それは純粋な趣味趣向の問題もあるが、一番の原因は去年の召喚士によるテロによる、召喚士とフェアリーへの忌避感からくるものだ。
無暗にフェアリーや召喚士と関わるべきではない。彼らは必要になれば人々に危害を加える危険な存在である。どんなに温厚な性格や言動であっても、それは彼らが明確な力を所持しているからである。フェアリーに関する研究も、あるいはそうした犯罪的思考を持つ者たちを助長するものである。
これが、メディアがこぞって流し続けている召喚士とフェアリーに対する評価。得体の知れない、危険をはらんでいる存在。それに自ら関わる者は総じて人間社会から淘汰されていく。それが今の社会だった。
「……俺も、一応フェアリーの研究はしているので」
「ほほう、それは興味深いことだ。君のような未来ある青年がわざわざ避けられている研究に手を染めようとは――いや、召喚士という点ではもはやそんなことは慣れている、というところか?」
まくし立てる璃子の姿を見て、薙斗は、ああ、この人も研究者なのだな、とぼんやり思った。自分の思ったこと、感じたこと、考えていることをなんの躊躇もなく言葉にして周りに振りまく。彼女の性格に起因するところはあるだろうが、自分の思いや考えを形にしていく研究者にとって、それは必要不可欠なアビリティだ。
「は、はぁ」
それに対し、彼女と同じそんなアビリティを持つわけではない薙斗にとっては、ぼんやりとした返事を返すのが精いっぱいであった。
「お茶が入りました。璃子もどうぞ」
そこに、お盆に三つのカップを乗せた状態でリーシャが割り込んでくる。その足取りやお盆の持ち方は、普段から持ち歩き慣れていることを証明するに十分なものだった。
「ありがとう。リーシャ」
璃子はいうなり、ゲストの薙斗達よりも早くそのカップを受け取る。薙斗もまた、目の前に置かれたカップを手に取る。柔らかい香りに鼻腔をくすぐられながら、ゆっくりとカップを傾ける。喉から胃へと、滞りなくするすると流れていく感覚。ふぅ、と息を吐き、カップをテーブルへと置く。
「ま、マスター……」
薙斗の隣に座っていたレキナがくいっと上着の裾を引っ張った。それにつられて薙斗は意識をレキナへと移す。
「ん?」
「リーシャとお話し……しててもいい?」
その目はキラキラと輝いていた。足の痛みは多少は引いているにせよ、まだ響いているはずだ。それでもそれを押しのけてこんな顔を見せるということは、それほど彼女にとってリーシャの存在は新鮮なものなのだろう。
「俺は構わないよ」
その返答を聞いて、レキナの目がさらに輝いた。満面の笑みを湛えながら、「ありがとう!!」と返すレキナを見て、薙斗もまた、自然と笑みがこぼれた。
「じゃあ、薙斗くんは私と研究者として少し話でもしようか」
こちらは不敵な笑みを浮かべながら、薙斗を誘い出した。レキナに存分に話をさせてあげたいという思いもあり、薙斗はそれに乗り、ソファから腰を上げた。
薙斗は璃子と共にモニターの前に並んだ。ちら、とレキナの方を見やると、何やら楽しそうに、ソファでリーフと談笑しているのが見えた。レキナにとって、周りにはあんなふうにゆっくりと会話することのできるフェアリーはいなかった。たいていのフェアリーは先ほどのように、友好的なフェアリーではなかったり、敵対していなくても、街中で会うフェアリーがわざわざ人目のつくところで快く会話するはずがなかった。同族と話すことよりも、世間体を気にする召喚士の意向によるところがあるのは確かではある。薙斗もまた、そうした考えがあるせいで、レキナには満足にこの世界でいい話し相手を作らせることができなかった。
「さて、パートナーの心配もいいけど、こちらの話もいいかな?」
業を煮やした璃子が薙斗に話しかけてきた。そう思わせるほど、意識はレキナの方に向いてしまっていたらしい。レキナをチラ見しているつもりになっていたのは薙斗だけのようだった。
「あ、ああ。すみません」
「まるで恋人か娘のを心配するような顔をしていたぞ。リーシャは戦闘能力なんて大したことないんだから、怪我をしていたとしてもレキナくんがやられるようなことはないよ」
そう言われ、薙斗は仕方なく、『意識して』レキナを意識から外すことにした。気になっていることに関して微塵にも否定するつもりはなかったが、目の前で会話を求める相手をないがしろにするわけにはいかなかった。窮地を救ってもらったのなら、なおのことだ。
「さて――私はこうしてフェアリーの研究をしているわけだが……薙斗くん、君はなかなかアクティブな研究者なんだね?」
「アクティブ、と言われるとちょっと微妙ですが……実際に見て、感じて、それを調べた方が、俺にとっては有益だと判断しているだけです。レキナの魔力特性も、ありがたいことに、戦闘になったとしても立ち回りの利くものですから」
全身に回っている魔力を雷に転換し、それを利用する。言葉にするとシンプルだが、だからこそ応用が利く。両手から離れた対象に電撃を撃ち、相手の魔力攻撃を放電させることで防御に利用し、地面を蹴るときに雷を足先に集中させることで、脚力を向上させて高速で移動し、ゼロ距離で拳と共に雷を叩き付ける。彼女のシンプルな強さは、たいていの状況には対応させることができる。
「そこでだ、君にとってもいい話がある――」
そう言いながら、璃子はコンソールの上で指を躍らせる。モニターが次々に画面を表示させていき、一つの画像を映しだず。
「この画像は……」
画像データに描かれていたのは、岩肌の露出した山岳と、その中に一人佇んでいる少女だった。画像の中の少女は、赤い髪、赤い瞳をした、少し背の低い見た目をしていた。
「彼女は……フェアリーだ。マスターとなる召喚士のいない、ね」
召喚士のいないフェアリー。それは非常に珍しい部類だ。フェアリーというのは、召喚士が魔力と想像力をもって生み出す存在。いわば、人ありきの存在だ。召喚士からの供給魔力をもって存在することのできるフェアリーにとって、その供給源がなくなってしまえば、その先に待ち受けているのは魔力の枯渇による消滅。全身が魔力の塵となって消え去ってしまう。
だが――この場には、召喚士のいないフェアリーがいる。
「リーシャにはマスターは……?」
「彼女のマスターは……亡くなったよ。一年前にね」
一年前――それは、薙斗にとって、レキナにとって、フェアリーにとって、召喚士にとって、歴史的に全てが変わることになった召喚士とフェアリーによる最悪の事件であることは間違いなかった。
「召喚士・フェアリーによる爆破テロ事件……大きな目的があるわけでもなく、ただ破壊と殺戮が暴力的に行われた、あの事件だ。巷では『フェアリー・インパクト』なんて大層な名前で呼ばれているけどね。リーシャはマスターと共に現場での人命救助に当たっていたが、その時に逃走するテロリストの召喚士にやられた。リーシャを守るためにね」
「それは……なんというか……」
うまく言葉が出てこなかった。あの事件に関わった人間に対して、どういう応対をするのが正しいのか、薙斗には分からなかった。
「現場から逃げてきた魔力もギリギリの彼女を、私は引き取った。私の魔力を分け与えることでね」
「けど、サイファーなしでどうやって?」
「そこは彼女の魔力特性によるところが大きい。彼女は特性上、他者から魔力を吸い取ることができる。ま、相手が同意して魔力路を開いていなければ、それもできないんだけどね――と、話が逸れてしまったな」
話を先に逸らしたのは薙斗の方だったが、璃子はそれを気にすることなく話を続けた。あるいは、この会話が聞こえているかもしれないリーシャに配慮して話題を無理にでも変えようとしたのだろうか。
「とにかく、君には彼女に接触して、その実態を調査してきて欲しいのさ。君にとっても、フェアリーに直接会って調査ができるのなら、まさしくwin-winの関係だろう?」
確かに、それは薙斗にとってもありがたいことだったし、召喚士を必要とせず生きているフェアリーというのには、薙斗個人としても興味があった。
「興味はあるし、可能ならば調べたいが――レキナの治療が終わるまでは無理だ」
レキナ抜きでフェアリーと接触するのは、相手がどんな魔力特性を持っているか分からない以上、リスクが高すぎる。例えばその逆だったとしても、距離が離れすぎては魔力の供給が出来ず、レキナを必要のない危険に晒すことになる。召喚士とフェアリーというのは、そういう切ることのできない細い魔力という糸で結ばれているものだ。
「それに関しては心配いらない」
璃子がそう言いながらやはり不適な笑みを浮かべるのと同時に、彼女を呼ぶ少女の声が聞こえた。璃子と薙斗は、同時にその声の方向へと向き直る。
「璃子ぉー」
声の主はリーシャだ。レキナの頭をなぜか撫でくり回しながら、脱力気味な目を光らせている。
「レキナたんまじかわいい。すごいいい子」
「うへへぇ、そうかなあ、私いい子かぁ」
褒めたたえるリーシャに対して、レキナの方も満更ではない緩んだ笑顔だった。
(こいつ、調子乗ってる。間違いない、絶対調子乗ってる)
二度自分の中で思う程に、レキナはなかなかに緩んでいた。
「そうか、それはよかったな」
リーシャの感想に対して、璃子は短く返した。彼女らにとっては、こうしたやり取りは普通なのだろうか。薙斗には少し理解するのに時間を要することになる。第一印象のリーシャは、何事にもあまり強い興味を示さないように見えたからだ。だが、先ほどの話を聞いて、なんとなく薙斗は思った。リーシャがあのフェアリー・インパクト以来、他のフェアリーと関わらないようにしていたとすれば。レキナと同じように、会話ができる他のフェアリーの存在が新鮮なものだとしたなら。きっと、こんな姿も間違いなく彼女の一面なのだろう。
「うん、ほんと、かわい過ぎて魔力吸い取りたくなる」
――その言葉に、薙斗とレキナは固まった。魔力を失うということがどういうことなのか、それはこの場にいる誰もが理解していることだからだ。
「ひ、あ、ま、マスタぁー!!」
わたわたと両手を伸ばしながらレキナが薙斗に助けを求めるが、薙斗が駆け出すよりも先に、璃子が口を開いた。
「こらリーシャ、君は本当に会話というか、言葉の選び方の判断能力が欠如しているな」
その言葉を聞いて、レキナと薙斗は動きを止め、璃子へとその視線を集中させた。
「リーシャは魔力を持つ対象を治療する魔力特性を持っている。リーシャが対象の魔力を吸いとり、それを彼女の中で良性な魔力に変換して、対象へと吐き戻すことによって、怪我を治癒することができる。彼女が存在できてるのは、私から魔力を吸い取っているから、というわけだ」
それを聞いて、薙斗は口元に手を当てながら俯いた。他者の魔力を吸い取ることのできる魔力特性。確かに、その力があれば、永続的に力を貸してくれる相手さえいれば生きていくことはできる。レキナの魔力を吸わせる、というのは少し怖いところはあるが――。
「マスター」
声が、聞こえた。薙斗はその声に顔を上げる。レキナは笑っていた。「大丈夫だよ」とでも諭すかのように、優しく笑っていた。何かあれば、彼女は彼女で何かしら抵抗することもできるだろう。薙斗はレキナの言葉に自分を信じさせた。
「リーシャ、頼む」
「任せて」
薙斗の言葉を聞いて、リーシャがゆっくりと立ち上がり、ソファに腰かけたままのレキナの額に両手を重ねる。
「十秒くらいはちょっと苦しくなるけど……我慢しててね」
「うん」
レキナの返答を待って、リーシャは魔力を両手に込める。リーシャの両手が光りだし、レキナの魔力を吸い取っていく。その光景は、治療というにはあまりに美しく、やわらかいものだった。だが、薙斗はそれでも不安に駆られていた。左手にはレキナへ魔力をいつでも送れるように、右手は剣を形成できるように、魔力を集中させていた。魔力の剣は、薙斗にとっては盾を形成するための補助に過ぎない。直接的な攻撃力などほとんどない。だが、素手で押すよりはいくらか引きはがすことはできるはずだ。
「うっ……くぅ……」
小さなうめき声。薙斗は黙ってその様子を見ていたが、彼の様子はどこからどう見ても今から襲いかからんとする獣か殺人鬼のそれだった。こんなにも十秒という時間が長く感じるとは思わなかった。
やがて、リーシャの両手の光が弱まっていく。それと同時に、荒くなっていたレキナの呼吸も少しずつ落ち着いていく。それ以外に、レキナには変わった部分は見受けられなかった。薙斗はそれを見て、自身も大きく息を吐きだした。誰かに身を委ねるということ、委ねさせるということが、これほど力のいる作業だとは微塵にも思わなかった。
「はい、終了」
「う……ん……」
まだ意識がぼんやりとしているようだが、レキナの治療は無事終わったようだ。
「お疲れ様、リーシャ――それにしても、薙斗くん、君はほんと、レキナくんが余程心配なんだねぇ」
璃子が不敵を通り越して呆れ顔で薙斗に声をかけた。
「眉間、しわっしわだぞ。出産にでも立ち会っているかのようだったぞ」
出産に立ち会った経験はなかったが、なんとなく想像はついた。それほど険しい顔をしてしまっていたことに、薙斗は少し決まりが悪くなった。信じるよう努めておきながら、実際のところはほとんど信じ切れていなかったのだから、当然といえば当然のことではあるのだが。
「ま、とにかくだ。これで問題はないな?」
それは、薙斗への確認。危険があるかもしれない状況に、自ら飛び込むつもりがあるかどうかの、その、確認。
「わかりました。彼女の調査――引き受けます」
薙斗はゆっくりと一つ一つの単語を噛みしめるように、了承の返事を返した。
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