第13話僕の大切なひとへ

前回までのあらすじ︰ちーちゃんってそんなに暇だったのかな・・・


思い出すと、涙が止まらなかった。

ちーちゃんが亡くなったのは、彼女が中学2年生になったばかりの春。

だから、修学旅行、行けなかったんだね。楽しみにしていた修学旅行に。

ちーちゃんが僕を乗っ取る相手に選んだ理由はもうわかった。僕なら、小さい頃から見てるから、癖とかを把握できていたからなんだと思う。

修学旅行は、明日から。

ちーちゃんは、修学旅行から帰ってくれば、きっと「僕」を返してくれる。

僕には、高校の修学旅行も残っている。でも、ちーちゃんはこれっきりだ。だったら、僕はここにいればいい。

ちーちゃんが、笑えるのであれば。

もしもまだ、ちーちゃんが僕のことを考えて迷っているのだとしたら。

僕が、ちーちゃんの背中を押してあげなきゃいけないな。


昼休み、巧磨と朔真が教室に来たので三人で話していた。

今日は2年だけ4時間授業で、昼休みの後掃除をして下校だから、早く家に帰れる。

「(帰ったら絵、描こうかな・・・)」

しばらく描いてなかったなぁ。

掃除が終わり、放課後。

私は机の中のものをリュックに詰めていた。

すると、折りたたまれた紙が、ひらりと床に落ちた。

「(なんだろ・・・)」

拾い上げたとき、ちょうど巧磨たちが来た。

「おせーぞ、祐眞」

慌てて紙をポケットにつっこんだ。

「ごめんごめん、今行く」

昇降口で、朔真が先生に引き止められた。その間に、私はさっきの紙を見る。

「・・・っ!」

そこには、「私」の字で、こう書いてあった。



『ちーちゃんへ


修学旅行 楽しんできてね 』



これを書いた人なんてすぐわかる。なんで、いつもいつもそうやって・・・。

「ごめん巧、忘れ物した。取ってくる」

できる限り急いで階段を上がり、あの部室に向かう。

「ゆーくんっ・・・!」

新聞部の部室には誰もいない。でもきっと、・・・絶対いる。どうして、視えないの?


扉が開いたと思ったら、「僕」がいた。

もう、手紙読んじゃったのかな。

僕が、視えているのだろうか。

「ちーちゃん・・・」


どこかから、「私」の声が聞こえた。ゆーくんはここにいる。この部室の中に。

「ゆーくん・・・。私、わがままだよね。自分が行けなかったからって・・・あんなひどいことして・・・。私・・・、やっぱり・・・」


僕は途中でちーちゃんの言葉をさえぎった。

「そんなこと、ないよ。ちーちゃん。あの時は、一緒に遊んでくれて、ありがとう。僕・・・わすれちゃってて、ごめん。

ちーちゃんが絵を描くコツを教えてくれたおかげで、僕、結構うまいんだよ。絵描くの。

ちーちゃんが遊んでくれなかったら、僕は家で独りぼっちだった。でも、ちーちゃんが遊んでくれたから、寂しくなかったし、幸せだった。

ちーちゃんがいなかったら、今の僕はこんなに明るくない、と思うし・・・。

とにかく、僕のことは気にしないで。

楽しみにしてた修学旅行、やっと行けるんだから。

だから、楽しんできてよ、ちーちゃん。

いってらっしゃい。

・・・僕の、大切なひと」

ちーちゃんには僕が視えていないみたいでよかった。

なぜか涙が止まらない。

別に、悲しいわけじゃないんだ。


・・・いってらっしゃい、ちーちゃん。


それが言えたから、もう十分だ。


(つづく・・・)

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