第12話僕と君とあの頃

前回までのあらすじ︰あ、僕をはねた車は逃亡してなかったらしい


これは、10年くらい前の話。

僕が4才とか5才だった時の話。

祐鶴ちゃんが、まだ生きてた頃の話。


僕には、姉のような存在の人がいた。

いつも一緒に遊んでくれて、僕を笑顔にしてくれた。

さすがに、それより昔のことは思い出さなかったけど、きっと、僕が生まれた時からずっと仲良くしてくれてたんだと思う。

初めてその人の名前を覚えたとき、発音が難しくてうまく呼べなかった。そしたら、「ちーちゃん」でいいよって言ってくれたんだっけ。

もうわかったと思うけど、その人が、「白石祐鶴」。

ちーちゃんは、僕のいとこ。でも当時の僕は「いとこ」がよくわからなくて、名字が同じだってことに喜んでたっけ。

ちーちゃんは、少なくとも3日に1回は僕の家に来てくれていた。

毎日楽しかった。

ちーちゃんは絵が上手だった。何度かコツを教えてもらった。だから僕は、それなりに絵が上手なんだと思う。

ちーちゃんは僕のことを、ずっと「ゆーくん」って呼んでいた。やっぱり、祐鶴ちゃんは「ちーちゃん」だ。学級日誌の中では僕のこと、「ゆーくん」って書いてたし。

僕が5才のときの、4月15日にちーちゃんが家に来て以来、彼女はか僕の前に現れることはなかった。

ちーちゃんは、事故で死んじゃったから。

その後、僕はお母さんに、

「ちーちゃんきょうはこないの?」

と聞いたりした。お母さんは、

「・・・ちーちゃんのお父さんがね、お仕事で遠くに行かなくちゃいけなくて、お引越ししちゃったの」

と言った。お母さんも辛そうな顔をしていた。

「・・・そっか。おひっこし、しちゃったんだ、ちーちゃん・・・」

ついこの間、幼稚園の友達も同じような理由で引越ししてたから、僕はわかったんだと思う。ちーちゃんは遠いところに住んでるから、会えないってこと。

ああ、この時からだったかな。

僕の、「ちーちゃんに会いたい」っていう願いが叶わないってわかった時、悲しみが大きすぎて二日も幼稚園休んじゃったっけ。

それと、僕があまり自分の気持ちを表に出さないようになったのもこの時。

ちーちゃんは僕の大切な人だった。


(つづく・・・)

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