第10話おめでとうと言われる者は
前回までのあらすじ︰巧磨と朔真はいつもあんな感じです。
今日は廊下がいつもより騒がしい気がする。
そう思ったのは、朝練の時間が終わり、それぞれが教室に戻り始めた時だった。
何だろうなと思いつつ、頭の中ではもう結論が出ていた。
『白石祐眞が学校に来る』ということ。間違ってはいないだろう。なぜなら僕がいる新聞部の部室にまで、そういう類の言葉が聞こえてくるからだ。
せっかくだし、僕の姿は見えるかどうかは別として、見に行ってみるか。
廊下には、車いすに座って移動する僕がいた。すごい人だかりができている。僕ってこんなに人気者だったっけ。・・・いや、ただ車いすが珍しいだけか。
人をすり抜けて近くまでよると、
「おめでとう」
とだけ言って、また部室に戻る。
私は久しぶりに学校に来た。
さっきからずっと祝福されて、少し照れくさかった。
近くを、何かが通ったかのように風が舞った気がした。
反射的に、振り向く。
「どうした、祐眞」
巧磨が声をかけてくれる。
「いや・・・なんでもない」
教室に向かっている間、ずっと頭から離れなかった。
さっき、通っていったと感じた風の中に、もう感じることはないと思っていた、あの部室の独特な紙の匂いを感じた。
いるわけなんかないのに、少し期待してしまう自分がいた。
「(やっぱり、見えるわけないよな)」
安心するはずなのに、なぜか少し肩を落としていた。
何も考えずに、部室の隅っこにある棚の中を漁っていると、何かが手に当たった。
「(なんだろ、新聞部の備品かな)」
引っ張り出すと、それは分厚いファイルだった。
開いてみると、そこには過去の新聞記事がまとめられていた。主にこの町で起こったことだった。
「(確か、祐鶴ちゃんは・・・)」
学級日誌を遡って、あの4月15日のページを開く。
『私の時と似たシチュエーション』
要は、「私の事故と似た事故」だ。
『10・・・いや、9年』
つまり9年前の事故、ということ。あとは、この町のあの場所のはずだから、ここに9年前の記事があればわかるのか。あれば、だけど。
「・・・ははっ・・・」
何で震えているのだろう。
そんなに、彼女の過去を知るのが嫌なのか。
それとも、そんなに怖いのか。
そもそも、知って、どうするんだ。
僕の体を返してもらう? ―どうやって。
知った過去を本人に話す? ―それでどうなるんだ。そもそも見えていないのに。
いまさら、だけど。
・・・やっぱり、修学旅行は行きたかったかな。
今日は午前中で帰ることになっている。
「じゃあ、また」
教室を出て、階段に向かう。
階段では、巧磨と朔真が待っていた。
巧磨は私の体を支えてくれて、朔真は荷物を抱えてくれた。
うれしい。ただ、そう思った。誰かに支えてもらうことが懐かしくて、なぜだか少し寂しくなった。あの部室で孤独になるなんてことはないから、寂しくなるなんてないはずなのに。
こういう時にいつも、彼の、・・・ゆーくんの笑顔が浮かんできて、苦しくなる。
ここにいるのは本当はゆーくんのはずなのに、って。
(つづく・・・)
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