第9話復帰
前回までのあらすじ︰新しい日常ってなんぞや
私がゆーくんの体で目が覚めてからもう二週間が過ぎた。
一週間ほど前からリハビリを始め、自力で立つくらいまではできるようになっていた。一日中体を起こしていても辛くなくなったし、食事もそれなりに取れるようになった。
主治医の先生は、もう少し様子を見たり検査したりしてから少しずつ学校に行くようにする予定だと言っていた。1ヶ月近くも眠っていたのだから慎重になるのも無理ないかなぁ。
このまま順調にいけばちゃんと修学旅行には行けるみたいだし、私としてはかなり都合がいい。リハビリはちょっと辛いけど。
「(そろそろリハビリの時間かな)」
体を起こしてベッドから立ち上がる。少しよろめいたが、転ばずに車いすに座ることができた。
あと3日くらいたったら学校行きたいなぁ。
学級日誌には、自分の感情を書かないようにしている。
もしかしたら、他の誰かが読めるかもしれない。
自分の本音は、隠すって決めたから。いつかは忘れてしまったけれど、自分の想いは、ほとんど叶わないことが分かってしまった時から。
強く願ったことが、もう駄目なんだと気づいてしまった時の辛さを味わうことのないよう、強く願うことをやめた。要するにそういうことだ。僕はただ苦しみから逃げてるだけ。
そういうのが癖になって、ちょっとした本音も言わなくなった。と、自分でも思う。幼なじみの二人でさえも、僕が本音を偽っているだなんて思ってないはずだ。
祐鶴ちゃんが僕の体で学校に復帰したら、僕の姿(祐鶴ちゃんの幽体)は見えるのだろうか。祐鶴ちゃんからしたら、自分の姿だもんな。見えるのは当たり前といったら当たり前か。
もしそうだとしたら、僕は彼女の視界に入らないようにしなきゃ。「乗っ取り」の失敗でこうなってた場合、何をされるかわからない。さすがに消えてしまうのは嫌だ。このままずっと幽体の中にいるのだといても。
みんなの想いが叶えばそれでいい。
だから今日も僕はいつもどおり生きていく。
ついに退院する時がきた。
辛いリハビリを乗り越え、ゆっくりだが歩けるようにはなった。一応、移動の時は車いすを使うように言われた。
荷物はゆーくんのお母さんが持って行ってしまったから、私は何も持たなくていい。
ゆっくり立ち上がって、車いすに座る。
今日は金曜日だから、学校に行くのは月曜日になりそう。少し残念だな。
ナースステーションまで行くと、ゆーくんのお母さんが看護師さんと話していた。
「お母さん」
そう声をかけて、隣に止まる。
そしてゆっくり立ち上がり、
「ありがとうございました」
と小さくお辞儀をした。
病院から出るとき、看護師さんに、
「退院おめでとう。修学旅行楽しんできてね」
と言ってもらえた。うれしかった。
夕方には、巧磨と朔真が家に来てくれた。
どうやら学校からそれぞれの家まで全力で帰り、この家まで全力で来たようだ。少し息を切らしていた。
ゆーくんの部屋は、もともとは二階にあったらしいんだけど、両親が気をつかって、一階にあった二人の寝室と入れ替えたくれたらしい。
ベッドに腰かけてうとうとしていた時に、巧磨と朔真が部屋に入ってきていて、今もかなり眠い。
「・・・祐眞。聞いてたか?」
その声にはっとして、慌てて
「ご、ごめん。何の話だっけ」
というと、巧磨がため息をついて、
「お前ほんとに大丈夫か?・・・修学旅行の話だよ」
修学旅行の話なんてしてたっけ?
「特別な班と部屋割りを組んでもらえたんだ。ていうか、一つだけだといろいろもめちゃうから、って今年は異例の全クラス混合編成なんだよ。それで、俺たちは同じ班で同じ部屋。部屋は特別に先生部屋の隣」
朔真が要点をさらっと言う。なるほど。そういう感じなのね。
「あと何日、だっけ」
私が聞くと、巧磨は腕を組んでうなりだした。そんな巧磨を無視して、朔真は淡々と言う。
「8日後。学校でやらなきゃいけない準備とかは俺たちがやってるから大丈夫だよ。むしろ明日学校に行った時に確認しなきゃいけないことが大量にあるはずだから、祐はそれが忙しいと思う」
「そっか」
もうあと8日か。
やっと・・・やっと、私の願いが叶うんだ。
(つづく・・・)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます