爆弾魔「来井句流詩也」

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 教室後方、廊下に近い天井に虫がいる。

 その下では何故か虫を捕まえようとしている一人の女子が、手を伸ばしてウンウン唸っている。

 だから間違いない。間違いなく虫はあの蛍光灯の上にいる――筈だった。


 来井句は、胸に抱えた爆弾入りの鞄の上にそれがポトリと落ちてきた時、我が目を疑った。理解したくはなかったが、即座に脳内は、それが何であるかを理解し、何故と疑問を浮かべる余地も無く、警鐘を鳴らした。

 緑色にツヤめく胴体、凶器を振り回すかのように動く脚、それは――。


「ウワアーッ――!」


 来井句は鞄を振り回した。爆弾が入っている事なんて意識から消し飛んでいた。振り回して、振り回して、そして放り投げた。ガタガタと椅子を鳴らし、机を揺らし、尻もちをつくような形で左に倒れ込んだ。

 床に手を付いた時なにか固い感触がした。虫だと錯覚して慌てて手で弾いたがどうやら違ったらしい。そこでやっと我に返った。


 我に返ったと同時、来井句は手元に鞄が無いことに気づき、悪寒で背筋を凍らせた。爆発の二文字が頭をよぎる。

 首を巡らして見ると、乱れた机と椅子の間に鞄は転がっていた。爆発はしていないし、虫も……ひとまず見当たらない。

 しかし安心したのも束の間、その傍では不良が中腰の体勢をして、凄まじい形相で来井句を睨んでいた。


「なめてんのか、テメエ」


 青白い顔のこめかみ辺りを手で抑えながら、のっそりと不良が立ち上がった。どうやら振り回した鞄が彼の顔に当たったらしい。


 ――ああ、これは殴られる、ハハハ――


 笑いしか出てこない。もうなんだか無茶苦茶だ。計画を実行する前にこれだけ予定が狂えば、成功する未来など見えよう筈もない。復讐は延期だ。好機を待つしかない。


 来井句は諦めの姿勢で不良を見ていたが、予想に反して、不良は飛びかかってこなかった。転んだ際に落としたのであろうを拾って、教室後方にある出口へと足を向ける。教師がオロオロと止めようとしたが、うるせえと突っぱねていた。


 来井句は拍子抜けしたが、ひとまずは己の無事を喜び、ホウと息を吐いた。

 その場で胡座の体勢になり、鞄を慎重に引き寄せる。


 ――虫は……ついていない。爆弾は……アレ?――


 周りの生徒に見えないように鞄を開ける。

 中にはどデカい弁当箱が入っていて、ツンと腐臭を放っていた。

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