甲虫目コガネムシ科「コガネムシ(銀)」

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「チッ……後翅バックウィングに問題はないが、鞘翅プロテクトシェルに歪みが出て上手く飛べねえ」


 銀色に輝くコガネムシは右背中部から感じる違和感に、焦りを覚えた。捕獲箱から脱出できたのはいいが上手く飛翔できず同じ空を幾度も旋回してしまう。


「こちら緑の幽灯グリーンランタン銀の弾丸シルバーバレット隊長! 大丈夫っすか?」


 虫伝信で、同じく捕獲箱から脱出する事のできた部下から心配の声が上がる。


「こちらシルバー。問題ない、どうにか飛んでみせるさ。グリーン、そっちはどうだ?」

「ヘヘッ……右脚一本、抜け落ちロストしちまいました。こりゃ帰ったら彼女に怒られるや」

「ハッ。生きて帰れたら喜んでケツ持ち上げるに決まってるさ。踏ん張れよ、グリーン」

燃える赤銅フレイムコッパーが背中押して脱出口に捻り込んでくれたんだ。アイツの為にも必ず生きて戻るっすよ。俺は」


 五頭(五匹)いた仲間の内、脱出できたのは自分とグリーンだけ。その事実に、泥を浴びるような罪悪感が心を襲うが、シルバーは無理やり気持ちを切り替えて状況の確認を急いだ。落ち込んでいる場合ではないのだ。


 箱型の空間に人間がひしめいている。前方(人間が顔を向けている方向)では一人の人間が「シズカニシロ。ジュギョウチュウダゾ」と喚いていて、どうやらシルバー達が逃げ出した事とは別に、空間内で騒ぎが起きているようだった。均一に並んでいた人間の列が乱れ始めている。視線が集中している先を見ると、なにやら香ばしい匂いを下半身から放出している人間が、倒れた体を起こそうとしていて「チカヅクナ。ミルンジャネエ」と叫んだ。


 ふいに悪寒が走り触覚が震えた。斜め後ろ下を覗くとシルバーは戦慄する。自分たちを暗い箱に閉じ込めた張本人が手を振り回しながらピョンピョンと飛び跳ね、追跡してきていたのだ。


「グリーン! コイツは俺が引き受ける。お前は今すぐ太陽ヒカリの下に向かえ!」

「隊長! 飛翔時間は残り少ないっすよ! 一旦、上方にある蛍光灯ニセニカリに退却しましょう!」

「クッ……それもそうか。グリーンは手近な蛍光灯に取り憑け! 俺はもう少しだけコイツを引きつける」


 シルバーはブレてしまう体の制御をなんとか力でねじ伏せながら、空間を縦に割るように飛翔し、捕獲者から一度距離を離すと、挑発するようにその場で旋回した。

 近くにいた人間が「ムシダ!」と叫ぶ。

 人間たちがキャーキャーと嵐のように暴れだすと、シルバーは大きく旋回してから、近くにある蛍光灯へと飛びついた。飛翔時間の限界に近く、後翅がピクピクと痙攣した。

 しかし、そのかいもあってか、グリーンの方は注目されずに、上手く身を隠せたようだった。

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