第23話 最強の騎士団
エンジェの騎士達はザガンの姿を見て少し驚いた顔をしたが、すぐに臨戦態勢をとった。
何故ここに? ザガンの疑問はすぐに解けた。
「へー、本当に現れた」
「ダム教の情報網は侮れんな」
騎士達の会話。アブド司祭、あの男の差し金だ。相手は四人。クート一人でも手強かった。それが四人だ。かといって逃げるわけにはいかないし、逃げ切れる相手でもなかった。
ザガンとてザザ王国最強の魔導兵器と恐れられた存在だ。ザザ王国最後の姫はもうすぐ近くにいる。ここまで来て倒れるわけにはいかない。
黒翼騎士。騎士とは名ばかりの獣が飛びかかるように構えをとると、騎士達から目を離さずに周りを確認する。右は切り立った崖。左は木々と山が続く。場所はそれほど広くない。それはパワーとスピードで勝るザガンに有利に働くだろう。
エンジェの騎士達は剣を構えて、いかにも騎士然としている。
先に動いたのはザガン。扇状に並ぶ右端、一番背の低い騎士に向かった。クート相手には抑えていた人外のスピードで手刀を伸ばすが、騎士は寸前で避けつつ下から剣を切り上げた。
嫌な予感がしてザガンは飛び下がる。わずかに当たった切っ先は黒革の鎧もろともザガンの鋼鉄の胸に傷をつけた。
魔法か!? ザガンは内心毒づく。黒翼騎士というものを研究されており、剣に斬撃効果の魔法がかけられていたのだ。
飛び下がりながら狙いを付け、真ん中の二人が並んだ場所に向けて口から魔法の光線を放つ。谷底でセンを守る為に使った魔導砲だ。あの時より威力は1/10程度に落としているが、それでも人間を焼き尽くすのは容易い。しかし、一番体格の良い騎士が準備していた防御魔法に掻き消された。
入れ替わりにリーダーらしき髭の男とクートに似た優男顔が剣を構え一気に間合いを詰めてくる。連携のとれた剣戟がザガンを襲う。並の剣士ならかすりもしないザガンの身体能力も、エンジェの騎士の剣戟を避けきることは出来ない。
髭の剣士の切っ先が当たると火花が弾ける。優男顔の剣は小さい騎士と同じく斬撃強化の魔法がかかっていた。
腕や腹を傷つけられながらもザガンは転がりながら避けて小石を拾い上げた。そして、左手を淡く魔法で光らせて剣に斬撃魔法を掛けなおしている小さい騎士に投げつける。腕力だけで投げた小石だが、黒翼騎士の腕力だ、その威力は凄まじい。腕をクロスして頭を守った騎士だが、小石は腹部にめり込む。
「うげっ」
騎士は唸り声をあげて崩れ落ちた。一人減らしたと思ったのはつかの間、体格の良い騎士がすぐに駆け寄り回復魔法をかける。
と、優男顔の騎士が一閃、ザガンの首を狙ってきた。ギリギリで避けて飛び下がったが、リーダーの髭の騎士が伸ばした右手から魔法の火球を飛ばしていた。人の頭ほどの大きさの火球は避けきれないタイミングでザガンを襲う。
「ウオオオッ!!」
思わず唸り声を上げ、左手で火球を受け止めた。火球はボンッと大きな音をあげて爆発する。ザガンの左手は小指だけを残して吹き飛んだ。
ザガンの鋼鉄の肉体を吹き飛ばすほどの威力だが、ゴーレムの体に痛みはない。魔法使いの協力があればこの程度の傷は治せる。素早く自己分析をして再び独特の姿勢で構えた。
背の小さい騎士と優男顔の騎士がアタッカー。リーダーの髭の騎士がサブアタッカー兼攻撃魔法。体格の良い騎士がサポート。そのような役割のようだが相手は一騎当千のエンジェの騎士だ。どの役割でもすぐに入れ替われるくらいの実力は持っているだろう。
考える時間はわずかだった。優男顔と小さい騎士が左右に分かれてザガンを挟む。正面には髭の騎士がブツブツと何かの魔法を準備している。その奥にサポート役の体格の良い騎士。エンジェの騎士はザガンを仕留める体勢に入った。
打開するには最大火力で魔導砲を撃つしかないだろう。この距離で放つ全力の魔導砲は、カラル並の魔法能力がなくては防げないだろうが、全力で放てば数日は魔導砲を使うことは出来なくなる。出来れば全員、少なくとも二人は仕留めたい。
ザガンは小さい騎士に向かった。
「毎度俺を狙いやがって!」
毒づく小さい騎士は、サイドステップを踏みながらザガンの胸部を狙って横一閃に剣を振るう。ザガンは足を止めわざと左の手首を切らせた。
続けて背後から迫ってきた優男顔の騎士の剣戟は左腕の肘で受けようとしたが、斬撃魔法の掛けられた剣に肘の上から切り取られた。
腕を一本失ったが狙い通り二人の斬撃魔法を剥ぎ取った。強力な魔法も一度使えば再び魔法をかけなおす必要がある。事実、小さい騎士の追撃は革鎧を切り裂きザガンの腹部を縦に切ったが、その切れ味は鈍く深くは傷つけられなかった。
「チッ」
舌打ちをする小さな騎士の胸に蹴りを食らわせる。バックステップを合わせたが避けきれず、小さい騎士は弾き飛ばされる。優男顔の騎士が下がりながら斬撃魔法を剣にかけようとしている。その少し後ろに髭の騎士。さらに後ろに体格の良い騎士。
ここだ。三人が一直線に並んだこのタイミング。
「おおおおおおっ!!」
叫び声を共に右手で地面を掻き上げ土煙をあげる。一瞬の目くらまし。ザガンの口内に魔法の光が灯る。
ドスッ。鈍い音。
ザガンにはなにが起こったのかわからなかった。髭の騎士がザガンの口内に剣を刺している。
攻撃魔法を唱えていたのではない。幻影魔法か高速魔法を使い、このタイミングを狙っていたのだ。髭の騎士はザガンの口内に剣を突き刺したまま呪文を唱えた。
ボファッ!! 激しい爆発音。
ザガンの下顎が吹き飛び、魔導砲の魔力も霧散する。髭の騎士は飛び退き、入れ替わりで体格の良い騎士がその体に似合った大きな剣をザガンの腹部に叩き込んだ。
ドンッ! 打撃音に近い斬撃はザガンの腰の部分を境に上半身と下半身に切り裂き、勢い上半身は弾き飛ばされ、そのまま崖下に落ちていった。
「あっちゃー、落ちちゃいましたね」
背の小さいエンジェの騎士が崖下を覗き込む。崖は深く下は流れの速い川になっている。体格の良い騎士はバツが悪そうに頭を掻いている。
「いくら黒翼騎士でも、あの状態では生きられないだろう」
リーダーの髭の騎士はフォローするように言うとザガンの下半身を指さした。
すでに石化しており、全体にヒビが入っている。
「そうっすね」
優男顔の騎士もうなずくと、石化したザガンの左腕を踏み砕いた。髭の騎士も魔法の火球を飛ばしてザガンの下半身を粉々にする。
「んじゃあ飯食って帰るか」
リーダーの髭の騎士はそう言うと刃先が壊れた剣を鞘にしまった。
ガリ……。右手を伸ばして土を掴み、上半身だけの体を引きずる。
ガリ……。そうして少しずつ川辺を進む。腰から下を切り離され、左腕を失い、口内を破壊されてもまだザガンは生きていた。
ゴーレムの体に人間の魂を取り込んだ最強の兵器だったザガンは、今はただ最後の王族、最後の姫の元へと向かっている。
意識が途切れる。いくらゴーレムの体といっても人間の魂を持つザガンは、本来、体をここまで破壊されては活動を続ける事は出来ない。しかし意志の力だけでザガンは生き、そして進んだ。
愛しい姫を守る為に。
何度も意識を失い、そして目覚めては進む。ようやくアサラが住むあばら屋が見えて来たが、そこで再び目が霞む。
……意識が薄れていく。
「だれ?」
どこか懐かしい声に目を開けると、そこには……会いたくて会いたくて願った相手、滅びたザザ王国、その王族の血をひいた最後の一人、アサラが立っていた。
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