第16話 最後の都市 ソノマ
「セン様、大丈夫ですか?」
ゾラマダを出発していくつかの村を越えたころ、すっかり気温が低くなったのでカラルが心配そうにセンに声をかける。
「大丈夫だよ!」
元気よく答えたセンだが、その笑顔は少し固い。思っていたより寒さがキツイようだ。
「今日にはソノマへつきますので、そこで防寒着を買いましょう」
「うん」
そんな会話の途中、先頭を歩くザガンが右手をあげてみんなを制止させた。
「またかよ」
クートが毒づくと同時に、周囲の草むらから一つ目の大型犬のようなモンスターが複数現れた。
ここ数日、やたらとモンスターが襲ってくる事が多い。王の試練の影響とはいえ、みんな辟易していた。
「そう文句を言うなよ」
ザガンは大剣を抜いて構える。モンスターは牙に毒がある以外は普通の野良犬と大差ない。王の試練の影響で攻撃的になっているとはいえ、ザガンやクートにとっては容易い相手だ。
「最近でてくるのはこの程度ばかりだから、楽っちゃ楽だけどな」
クートは軽々と攻撃を避けながら、次々と首をはねていく。10数匹いたモンスター犬はあっという間に片付いた。
「襲ってくるのはこの辺のモンスターばかりですね。スクケットのような大型は珍しいのでしょうか……」
カラルは独り言のようにつぶやく。
「北の試練ってのは、成功者のほとんどいない難しいもんなんだろ?」
大剣の血を拭いながらザガンが訊いた。
「そうですね。なにか意味があるのか、嵐の前の静けさなのか……」
「考えたって仕方ないよっ! 先を急ごう!」
センは明るく言った。
強くはないとはいえ襲撃が多く、その都度足止めされることなる。近道のつもりがずいぶんと時間がかかってしまい、試練の期限を気にしなくてはいけなくなっていた。
一行は先を急いだが、その後もモンスターの襲撃は続いて、結局ソノマに到着したのは翌日の夕方になった。
「やれやれ、さすがに街中まではモンスターもこないだろ」
レストランでホットワインを飲みながら、クートは息を漏らした。料理は寒冷地らしく、味付けの濃いものが多い。
「警備兵が多いのでモンスターは大丈夫かもしれませんが、刺客にも気をつけてくださいよ」
「わかってるって」
カラルの指摘にクートは苦笑いで返した。
「とはいえ、そんなにノンビリとはいかないんだろ?」
「そう……ですね。明日には準備を整えて、明後日には出発したいです」
センを横目に見ながらザガンの問いに答えた。センの疲労を考えると短く感じるが、それだけ時間に余裕がなくなってきているのだろう。
「カラル、ボクは大丈夫だから、そんなに気にしないでよ」
そんなカラルの気持ちをセンはくみ取っていた。
食事を終えて、近くの宿屋にいった。
「ツインルームを二つとりました」
「お、今日こそカラルちゃんと一緒の部屋で寝られるのかな?」
クートはいつものように軽口を言うと、カラルもこれまたいつものようにキッと睨む。
「ははは、冗談だって。さすがの俺も未来の王妃には手をださねーよ」
「え! わ、私はセン様の従者です。な、何を言っているのですか!」
カラルは顔を真っ赤にして叫んだ。
「なにって、確か始王ジオ様の伝説では旅の仲間の一人と結婚したんじゃなかったか?」
「ああああ、あれは伝説であって、セン様とジオ様は違います……」
「へぇ~そういう事ね~」
狼狽するカラルをザガンも可笑しそうに見ている。だが、肝心のセンは眠そうに目を擦っているだけなので、カラルは安心しつつも少しガッカリしていた。
翌日。やはり疲労が溜まっていたのか、センが起き出してきたのは昼に近かった。
「この先も小さな村はありますが、大きな街はこのソノマが最後です。ここで防寒着が食料をそろえましょう」
「防寒着は自分で用意しているからいい。食料も俺が持つから多めに買っていいぞ」
「ザガン様ありがとうございます」
「力には自信があるからまかせろって」
ザガンはニヤリと笑った。
こうしてザガン以外の三人は厚めの防寒着をそろえ、食料も多いくらいに購入した。まだ明るかったが中途半端に出発してすぐに野宿するより、当初の予定通り翌朝出発することにした。
夕方には早めの食事を始める。真面目に食事をしているセン達に比べて、クートは不良騎士らしくワイン片手に周りの客に話しかけていた。
しばらくすると、クートは酔った大男に絡まれていた。
「なあ、いいだろぉ……あんた、すげぇ好みなんだよ」
「おいおい勘弁してくれよ」
しばらく押し問答をして、クートはセン達のテーブルに戻って来た。
「クート、どうしたの?」
センは穢れの無い瞳を向けて訊いた。
「あのオッサンにベッドに誘われたんだよ」
「え? ベッドに?」
センは意味がわからないようで、キョトンとしている。カラルはその横で顔を赤らめていた。
「クートって髭を剃ったら美人になりそうだな」
一方ザガンは可笑しそうに言う。
「まあな、男色家に言い寄られるから髭を生やすようになったんだ」
「その無精髭にそんな意味があったのか」
二人のやりとりを興味深そうに聞いているセン。
「セン様は聞いてはダメです」
カラルは赤い顔のままセンの耳を塞いだ。
こうして恐らくノンビリと出来る最後の夜を過ごし、翌日の朝、まだ陽が昇る前に一行はソノマを後にした。
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