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それから一年後の、高校二年生の夏、私と寿一は親友ではなく恋人同士となりました。
といっても、あっという間に付き合って、あっという間に別れたので、下手したら寿一はそんな時期があったことすら忘れているかもしれませんが。
寿一に恋をして、この気持ちを打ち明けることがあるのなら、それはひとつのドラマのように壮絶なことだろう、と思っていました。 けれどその時は本当に突然現れ、
「ビビは好きな奴とかいないの。」
という月並みな質問をされて、返事を悩んでいると、
「その反応、さては俺だな。」
なんて、急に核心を突いてきて、
「付き合う?」
だなんんて言ってみせたのです。 この間私は一言も発せず、寿一の独り言のようなもので、私の恋はあっさりと叶ってしまいました。
「って言っても俺、交際なんてしたことないから、すぐに飽きるかも。」
自覚できるほど顔が火照る私と対照的に、表情一つ変えずに炭酸飲料を飲み干して大きなげっぷをする寿一とでは、最初から想いの大きさが明らかに違いました。
恋人とはまさに名ばかりで、その関係になったからといって特別なにか新たなことはなにもなく、二、三回「デートしなきゃ。」と言われ映画を観たくらいでした。 もちろん、セックスなんて互いに知識もなく、キスすらしないまま、わずか一ヶ月で終わりを迎えました。 別れを切り出したのは私からです。
「無理に付き合ってくれなくていいんだよ。 親友に戻ろう。」
寿一はなにも躊躇うことも言い返すことも、表情すら変えずに「わかった。」と言って、「腹減った、なんか食べに行こう。」と続けました。 そのあと食べに行った店で、いつも頼んでいたドーナッツが販売期間終了になったのを知ったときのほうが、よっぽど驚いて悲しそうでした。 私はその夜泣いて泣いて、泣きすぎて目を腫らし学校を休んだのに。 やはり、最初から私たちの気持ちには大きな差があったのです。
それから寿一は、同じクラスの遊び好きなグループに誘われるようになり、いろいろな女の子と知り合うようになりました。 寿一の高身長がなかなか好評らしく、合コンに連れていくと盛り上がるそうです。 私も誘われましたが、いったいなにを目的にしたらいいのかわからないので断りました。 なので少しずつ、私たちは一緒にいる時間が減っていきました。 それから数ヶ月し、寿一にちゃんとした女の子の恋人ができて、童貞を捨てると、今まで全く興味を示さなかった恋愛にどっぷりと浸かるようになっていったのです。 そして寿一はその誰とも、一ヶ月ほどで別れてしまうのでした。 その数が二桁になり、よくもまぁ懲りないものだと関心したときには、高校生活はあっという間に、終わりへと近づいていたのです。
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