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着慣れない喪服がパリパリと肌に張り付いて、なんだか首の後ろが痒い。 一度気になったそれはじわじわと背中に下り、まるで虫が這っているように感じて鳥肌が立った。 ずっとしまってあったものだから、その可能性も無くは無い。 ふとそんな考えが過ぎった途端、やけに鮮明に想像が出来てしまって、もう、一秒でも早く脱ぎたくなって。

 無駄に頭を掻いたり、肩甲骨の辺りを動かしたりしていると、座り込んでいた膝に、ぼとりと冷たい缶コーヒーが落ちた。 いつの間にか私の体はすっぽり影に入っていて、日を遮る壁となっているのは、休日で賑わう街中に一時間いたら三回は見掛けそうな、そんな特徴の無い男だった。

「寿一(としかず)、あたしコーヒー飲めないって言ったじゃん。」

「こんなところでなにしてんの、ビビ。」

 一重の小さな目を余計に細めるから、重たい目蓋に潰されて目玉が消えてしまったのではないかと思う。 でも、私はそんな彼の、「ふにゃ」って音がしそうな、暖かい陽にじんわりと溶かされたような笑顔が好きだったりする。

「親戚がたくさんいるんだから、その呼び方はやめてよ。」

「呼び方?」

「ビビだよ、ビビ。 名前と関係ないから皆不審に思うでしょう。」

「そうかな」

「そうだよ」

 188cmの長身でありながら、全く運動をせずに二十四年の時を刻んだ彼の体は「大きい」や「高い」というより「長い」が的確で、更に言えば「ひょろ長い」ので、まるで無駄に栄養を取りすぎてびっくりするくらい成長したもやしのようだ。 その長身が唯一彼の外見で特徴といえる箇所だろう。 そんな、成長しすぎたもやしが、ひな鳥が居そうなもさもさの黒髪で、クタクタの喪服を着て立ち尽くす姿は、端から見るとなんともシュールだ。 まっ昼間の、更に葬式の最中に、美味そうに喉を鳴らしながら缶ビールを一気飲みしている。 このアル中に酒を渡した親戚の誰かを心で恨みながら、喪服に匂いが移らないよう、一人分距離を空けた。 親友の祖父の葬式、つまり赤の他人の葬式で酔ってしまえる彼を、いろんな意味で尊敬してしまう。 絶対に、なりたくはないけれど。 恐らく、酒の匂いを嗅ぎ付け、へらへら人懐っこいフリをして得て来たのだろう。

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