第2話

「はああああああ!? ここどこ?! それより何だここは! 湿地じゃなかったか?!」

「邪王様落ち着きください! 貴方に取り乱されると配下の我々も不安になるじゃあないですかああああ!!」


 邪王アレンは窓の外を見た瞬間から、ずっと上記と同じような内容のことを叫びまくっていたが、部下の叫びを聞いてようやく我にかえる。確かに配下の言うとうり、ここの絶対的な支配者である自分が動転しているようではダメだ。この謎の緊急事態にも冷静に対処しなくては邪王の名が泣く。そう思ったアレンは大きく深呼吸をし、スイッチを切り替える。咳払いをし、再び部下に命令する。


「ゴホン。確かにそうだな、ルキフゲよ。 とりあえず、全階のリーダーを五階の会議室に招集させよ。そこで一度話合おう。わかったならゆけ!」

「了解致しました! すぐに集めさせていただきます!」


 先ほどまでの狼狽っぷりがどこにいったのかは謎だが、アレンは冷静に部下に命令を出した。ルキフゲもまた、すぐにリーダーえを集めるべく、全階に呼び掛けを始めた。


 一人になったアレンは五階にテレポートする前にもう一度窓の外を眺める。やはり見間違えた訳ではなかったようだ。外には高層ビルが立ち並んでいる。そして小さい人間が外からこの建物を指さし、何かを言っている。


「ねえお母さん、あれって新しいお化け屋敷? すごく怖い!」


 その小さな人型生命体は、大きな生命体の手を握りながら、おおかたそのようなことを言った。対してそのお化け屋敷の主は、初めて目撃した自分達以外の存在に恐れおののき、すぐに窓を閉め、カーテンバリアを展開した。


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「遅い! まだ集まらぬか我がシモベたちよ!」


 アレンは地下五階にある会議室の椅子に座り、配下達が集まるのを今か今かと待っていた。三十分前に招集をかけたはずなのだが、集まりが悪い。今この場にいるのは、アレンと五階リーダーのサタナキア、そして邪王副官のルシファーだけだ。まだあと九人くるはずなのだが。


「遅い! 一刻も早くこの現状について話し合わなければならないというのに!」


 アレンはいよいよ地団太を踏み出した。その場にいる他の二人は冷や汗をかき始める。何かに仕えるものにとって、主の怒りほど恐ろしいものはない。

 この緊迫した状況で、突然サタナキアが口を開いた。


「ルシファー様。ちょっと」


 そういうなりサタナキアはルシファーの腕を引っ張り、会議室の隅に連れて行った。


 プート・サタナキア。

 邪王アレン軍本部の地下五階を守る悪魔。数多くの下位悪魔を従える大悪魔。性別は、大きな胸を持っているのでおそらく女性だろう。翼と角が生えているのは悪魔なので言うまでもない。ただ、胸元の開いた大胆な服装を正装としているうえ、女性の中では美人に属するタイプである。そのため下位悪魔達から目のやり場に困るというクレームがよくアレンに届く。本人もその存在を知ってはいるが、それを自分の魅力が高いからだと前向きにとらえているポジティブな女だ。


「ルシファー様。どうしてほかのメンバーが集まらないのです? あと何があったのですか? 緊急会議だなんて……。この千年で初めてのことじゃないですか!」


 サタナキアはルシファーの顔を覗き込みながら問い詰める。なお、外が全く知らない場所になっていたという緊急事態について知っているものは一階を守っているルキフゲ、支配者アレン、副官ルシファーだけだ。配下達を混乱させぬよう、会議で明らかにしようというアレンの配慮だ。ここで混乱が起こると軍の分断を起こしかねない。それだけは絶対に避けなくてはならない。部下の中にはアレンのことをよく思わないものもいる。この機に反旗を翻されると厄介だ。

 アレンが椅子に座り、サタナキアに問い詰められてきまずそうな顔をしているところへ、突然ルキフゲがやって来た。


「ルキフゲ! 遅いぞ! まだなのか他の奴は!」


 アレンは顔を真っ赤にしてルキフゲを怒鳴る。アレンは待つのが大嫌いだ。いや、嫌いになったといったほうがいいだろう。この千年間、ひたすら城破りを待つも、誰も来たことがない。そのため待つのが大嫌いになった。


 怒鳴られたほうのルキフゲのほうへ、一斉に視線が向けられる。だが、ルキフゲは汗を垂らし、鬼気迫った表情をしている。一体何があったのか。少し間をあけ、彼

 は沈黙を破った。


「大変です! 一階、五階、十階以外の全階に招集をかけに行ったのですが、誰もいないのです! みんな消えてしまいました!」

「「「な……」」」


 場が凍り付く。

 その口から告げられた驚愕の事実に、ほかの三人は愕然とするしかない。


「な、何だと?! マジか?!」


 沈黙を破って話し始めたのはアレン。


「本当です! まさにもぬけのからと化していました」


 どうやらルキフゲは嘘を言っていないと判断したアレンは、もう一度椅子に座り、ため息を一つ。そして指でほかの三人に椅子に座るよう、合図を出した。三人は合図を受けるなり、即座に着席した。


「ほかの部下は行方不明か……。なら仕方ない。とりあえず今ここにいる四人で緊急会議を開始する!」


 かくして、超人数不足のなか、緊急会議が開かれた。

 既に問題発生から一時間経過していた。


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 アレンはこの会議室が好きになれない。なぜかというと、部屋のあちこちに蜘蛛の巣があり、虫ぐらい小さな下級アンデッドも沸いている。長年使っていないのだから仕方ない話なのだが、あいにく邪王様は潔癖でいらっしゃる。ほこりすら嫌う性格だからだ。

 さて、アレンの話は置いておいて本題に入ろう。


 まず会議では、ルシファーが今この城に起きていることを説明した。この城がどこか別の場所にワープしてしまったこと。ワープ先の場所は、場所どころか前いた世界とも違う世界である可能性が高いこと。

 これらの事実を提示した。サタナキアは口をあんぐり開けて驚いている。


「ええ!? そんなことがあったのですか! それは緊急事態ですわ! でも城ごとテレポートしたのに、どうして誰も気ずかなかったのでしょう?」


 サタナキアは思わず疑問を口にする。確かにサタナキアの言うよう、なぜ誰も気づかなかったのか。

 その疑問にルシファーが答える。


「おそらく、地下にいたからでしょう。……あれ? 一階のルキフゲは異変に気付かなかったのか?」


 ルキフゲはその問いに気まずそうな表情で答える。


「すいません。異変が起きるまで寝ていまして……てへぺろ!!」

「「「てへぺろじゃねえ!!」」」


 これにはさすがに全員でツッコミをいれざるを得ない。どうやらこいつは朝の会が終わってからずっと寝ていたらしいが、異変の震動で目を覚ましたようだ。


「そういえばルシファー。数日前から何か謎の生命体が城に何か書いていると言っていたよな? そいつが関係してるんじゃないか?」


 アレンはふと思い出した。


「ああそうですそうです。自分が見つけました。壁を見に行ってみましょう!」


 ルキフゲは出来立てのたんこぶをさすりながら、そう言って飛び出していった。


「ちょ、待て!」


 他の三人も彼の後を追った。


 扉の前でようやくルキフゲに追いつき、アレンは話し始める。


「おい。外に出る前に外を見てみろお前たち! 外にはなにがいる?」


 三人は外を見て答える。


「「「あれはおそらく人間ですね」」」

「そうだろう? その人間たちの領域にこれから足を踏み入れる! この翼や角をはやした姿では奴らの恐怖を買いかねない! 姿を変えていくぞ」

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日本転生 魔手麻呂 @mashumarokun

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