第9話懐かしき友

やってきた友人、その顔は本当に懐かしくて、見ただけで涙が出そうになった。出なかったけど。


彼女の名前はスピカ。学生時代に一番仲の良かった子なのだけど、卒業後は殆ど顔を合わせることがなかった。お互いがどんなことをしているかって事くらいはやり取りしていたし、元気にやっていると言うことを認識し合っていたので、特別会うこともなかったのだ。


それでもだんだん会いたくなるというもの。でもそんな時に限って仕事が忙しくなり、そんなことを繰り返している内に疎遠になっていってしまったのだ。


スピカを一言で言うなら、好き嫌いの激しい女の子だ。容姿端麗なその見た目から、男女問わずお近づきになりたいと言って近寄ってくる人は多いのだが、決まってスピカは選り好みをする。


その選定基準は分からないけど、多くの人が彼女の蛇にらみで門前払いされていく。そんな中で、何故か私はスピカの方から声をかけられた。


私自身、スピカはとてもかわいいと思っていたが、だからこそ通じ合わないのだろうなと思って遠ざけていたところもあった。


だが、それを察したのか、それを面白がってか、スピカは楽しそうに私に話しかけてきたのだ。


「私スピカっていうんだけど、あなたの名前は?」







「なーんだ、ひとりぼっちでやってるって聞いたから泣き顔の一つでも見に来たっていうのに、案外平気そうじゃない」


「そ、そうよ! 別にスピカなんてこれっぽっちも待ってなかったから!」


「へー、じゃあ私ちょっと寄っただけだから帰るねー」


「待ってぇ、スピカさまー! いかないでー!」


「アリスのそういうところ、かわいくて好きだよ」


すがりつく私の頭を撫でながら、スピカはにへらと笑って魅せた。


スタイルに関しては私も負けてなかったと思ったんだけど、抱きついたスピカの抱き心地の良さに、相対的に私の心が傷つく。


「ねぇ、スピカってこんなエロい体してたっけ」


「殴るよ?」


それからはラジオとちょっとした軽食と紅茶を挟んで、何でもない会話を繰り広げていた。


「今スピカって何してるんだっけ」


「駅の受付窓口で接客する毎日だよ。なんか異動させられるみたいな話も出てきてるけど、今のところはこのまんまなのかな」


「なんかやらかしたの?」


「逆逆、ちょっと愛想良くしてたらどっかのお偉いさんに気に入られちゃって、今度建つ内うちの会社に来てよって言われちゃって」


「はえーすごいね」


「何がすごいもんですか。私はある程度のお金と平和な毎日があればそれでいいの。余剰なお金と引き替えにストレスのたまる毎日なんてまっぴら」


「それはまた、最近の若者らしい感性なこと」


「アリスはどうなのよ。新しく始まる仕事ってのは、前より良いの?」


「すごい良いよ。私の場合、特に高尚な考えもなく街の人の声に応えていたいってだけだから、そういう意味では前のところより、より生な声に応えていけるなって」


「その考えが高尚だよ。街の人の声に応えるって、聖人の域だと私は思うけどね」


「うーん、確かにそれだけ聞くとボランティア精神に溢れる聖人かもしれないけど、私の場合はちょっと目的が違うというか」


「目的?」


「そう、街の人の声に応えるのは、より幸せな街が見たいからなの」


「ドンドンよく分からなくなってきた」


「街に住む人達が幸せになれば、街全体が幸せになっていくでしょ? そうするとね、街そのものが幸せになっていくような気がするんだ。そんな街に住むことが、私の一番の幸せ」


「…………お風呂入ろっか」


「え、なんでそうなるの?」


「いやぁ、なんか言葉だけじゃあお互い伝わらないことがいっぱいだから、体のつきあいで理解し合おうかなと」


「いやいや、その方が意味分かんないんだけど」


「いいじゃん、私の成長した胸触らせてあげるからアリスのも触らせてよ」


「さっきからおっさんみたいなこと言いすぎじゃない?」


「私中身おっさんだからね」


「こんな顔なのに中身おっさん……。世界って不条理」


「良いから行くよ!!」


結局裸のつきあいをするも、お互いのことはよく分からなかった。でも、その代わりに自分について向き直ることができた。友人って偉大だ。


スピカはそのまま帰ってしまったけど、たくさん元気を貰った。


仕事が始まるまで一週間強、しっかりと心構えしないとね。

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