第6話外食

あまり外でご飯を食べたりはしないけれど、流石に何日も一人で自分しかいない4階建ての家で食べ続けるというのも、なかなか心に来るものがあった。


なので、今日はちょっとだけ遠出して中枢の大きな街まで来てみた。前は駅を通り過ぎただけだったが、今日はちゃんと駅で降りて街へと繰り出す。


外へ出てみると、より一層人の多さが目立った。あまりの多さに一瞬足が止まってしまったけど、せっかく来たのだからと、心の中で葛藤する。


そんなこんなで、なんとか自分との戦いに勝利した私は、かねてから名前だけは知っていたものの、なかなか行く機会がなかった庶民的レストランの「ビアンセ」を訪ねた。


ここは別段有名なレストランという訳ではないのだが、雑誌か何かで一度目にしたときからその外装や内装、お店の雰囲気に惹かれてしまった。地元との繋がりが強く、このレストランには多くの常連がおり、いつも店内は他愛もない世間話や、その時々の時事ニュースの話題で盛り上がっているのだという。


そんな雰囲気にワクワクしながら店の扉を開けると、カランカランと私の来訪がビアンセに伝わる。おや、見ない顔だね、と言った表情の店員さん。でも直ぐに笑顔になると、地元の人が集まっているカウンター席を避けて、店の奥の席を案内してくれた。テーブルの上には、新聞紙が何種類か置いてあり、私はその内の一つを手に取る。


一番の見出しは、国内最大級の魔法研究工房が近々オープンし、そのオープンセレモニーがこの街で開かれるというものだった。なんでも、その魔法研究工房には優秀な研究者や魔導師が集っており、そんな人達のトークショーや、魔法祭というのも行われるのだとか。


そういえば、そんなことをラジオで聞いたなとふと思う。ここ最近の中ではかなりの規模らしい。


「注文は決まった?」


新聞の記事に集中していると、同い年くらいのオレンジ色の髪をした少女が声をかけてきた。急に声をかけられたので、一瞬慌ててしまったが、注文する料理は前々から決めていたので、取り乱しながらも「新鮮お肉の贅沢卵とじ」を注文する。


「はーい。ちょっと待っててね」


愛想良く笑顔を見せて、少女は踵を返していく。新聞に夢中になっていて分からなかったが、初めて来た私でもアットホームな空間に溶け込めていた。今なら近くに座っているおじさんにハイタッチで挨拶出来そう。しないけど。


それから、料理が来るまでお店の雰囲気を存分に楽しんだ。


もちろん、出てきた料理も最高の一品だった。卵でとじるだけで、これほどまでに口溶けが変わるのかと、唸ってしまった。


帰路につく私の心は小気味よく弾んでいた。


決して表には出さないけどね。

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