第5話子供達

今日は天気も良いし、まだ街の人達と殆ど交流がないなぁと思っていたので、丁度良い機会だし街の人達とたくさんお話をしてみようと思った。


特務活動課は、街の人達のお願いを聞くのが仕事になる。そのためにはまず、街の人達に私たち特務活動課の存在を知って貰わないといけない。確か、同期や上司が揃った後に新聞記者の人達にインタビューをされるとか何とか聞いていたような気がする。そのタイミングで初めて、この街に私たちの存在が周知されるという訳だ。


でも、仲間が揃うまでの1ヶ月間を無駄にはしたくない。どうせだったら、この間に私だけでも街の人達と仲良くなって、良いスタートダッシュを切りたいものだ。


というわけで、今日は街の広場に来ているのだけど、来て早々に子供達に捕まってしまった。もちろん、街の子供達と仲良くなることも私たちには求められることだが、まずは手堅く近所の大人達から、なんて思っていたのでちょっと困惑。


集まってきた子供達にはなんとなく見覚えがあって、少し考えてこの前雨の日に外で遊んでいた子供達だと気付く。多分七歳とか八歳とか、そこらだと思う。


みんなワイワイしながら、見知らぬ存在である私に興味を示しているのだが、一人だけちょっと雰囲気が違った。雨の日に、一人静かに空を眺めていた子だ。


熱しやすく冷めやすい性格な他の子供達が散り散りになっていった後、その子がおもむろに私に近づいてくる。


「こんにちは」


「あ、こんにちは。私はアリスって言います。お名前聞いてもいい?」


「ミオです」


 雰囲気もさることながら、声色も大人びているなぁ――って、平々凡々な感想を抱いていたら、ミオちゃんは私の顔をじっと見つめて、少しだけ決意に満ちた表情になった。


「私、アリスさんみたいな女性になります」


「え、突然だね。どうして?」


「顔もどちらかと言えば綺麗ですし、スタイルも一見細身ですけど、実は着痩せして見えているだけで男の人が少し目線を引かれる程度には緩急があります。私の理想です」


なんかすごいこと言ってるこの子。異性から言われればものすごく腹の立つ言葉の数々だけど、なんかこの子に言われるとちょっと嬉しいから不思議。しかもちょっと合ってる。体には少しだけ自信がある。少しだけ。


「え、えっと……それはありがとう……でいいのかな?」


「分かりませんけど、私はアリスさんが理想の女性です。それだけです」


頑なに視線を外さないミオちゃん。すごい芯の通った子だ。こんな子に理想ですと言われるのならば、それはもう本望だ。


「じゃあさ、ミオちゃん。今からちょっとお茶しない?」


「お茶ですか?」


「そう、私ここに来たばっかりだから、いろいろ教えて欲しいなって。ミオちゃんだったら、この街のツウな楽しみ方とか、知ってそうだしね」


「じゃあ、私もアリスさんのこれまでのお話とか聞きたいです。あと、抱っこして欲しいです」


たとえ幼稚なことでも自分がして欲しいと思えば正直に言って伝えることができるミオちゃんに少し感動した。こういう子はたまいるけど、大体大人びすぎていて可愛げがなかったりする。その点ミオちゃんはすごいかわいい。なんでもしてあげたくなる。


「お話は喜んで。抱っこも、もちろん喜んで」


私はミオちゃんをひょいと抱き上げると、そのまましっかりと抱きかかえた。


「……これは、いいですね」


「それは良かった」


その後、近くの喫茶店で少しお話をして、おうちに帰るミオちゃんを見送った。喫茶店で話す気分はまるで学生時代の同級生と話している気分だった。


この調子で、ドンドン仲良くなっていこう。街の人と仲良くなることは、本当に重要なことだ。


という訳で、取り敢えず私のことをじっと影から見ている男の子に声をかけようかな。きっと、仲良くなりたいんだけど、ミオちゃんほど大人じゃないから素直に声をかけられないんだろう。


それにしても、随分子供に好かれるなぁ。元々そんなことは無かったんだけど、なんでだろ。


「こんにちは、お兄さん」


「あ、あのえっと」


しゃがんで男の子に声をかけると、面白いように赤面して困惑し、そのまま逃げて行ってしまった。


ううむ、ミオちゃんほど直ぐには仲良くなれないよね。


これは頑張らねば。

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