第3話急に
今日は午前中に業者の人達が来て、オフィス(と呼んで良いのか分からないけど)に端末を置きに来た。大体一メートルくらいの高さで、幅は六〇センチくらい。なかなかに大きいのでそれはオフィスの端に置いて貰った。それと一緒に、持ち運べるくらいの小型端末も置いていった。たぶん、特務活動課に支給されたもので、これから業務で使っていくことになるんだと思う。
でも、なんとなく直ぐに触る気にはならなかったので、今日は駆動器を新調しに行こうかな、と思って外に出る支度を始めた。
駆動器というのは、簡単に言えば魔法を使うための道具だ。この世界には三種類の人がいて、自由自在に魔法を使える人と、ちょっとだけ魔法を使える人と、全く魔法を使えない人だ。自由自在に魔法が使える人は、この駆動器を使わなくても魔法が使えてしまう。
つまり、駆動器というのは魔法が使えない人のために、補助をしてくれる道具のことなのだ。文明のリキってすごい。しかもそれほど高くなく、割と着せ替えとかお洒落なので、女の子にはバッグやアクセサリーと同じ系列のアイテムと化している。女の子ってすごい。
私の駆動器も、イマイチ魔法の出が悪くなっていて、買い換えなきゃイケないとこの前気付いた。ちなみに、気付いた理由は、氷の華を作ってみようと思って、駆動器を使ったときだった。何度やっても冷気は出ても氷になってくれないので、おかしいなと思ったらなんか術式とかそういうのを詰め込んでいる回路の部分が焦げていた。素人目に見てもよろしくない。
確かお洒落な駆動器が隣町に打っていたような、そんなことを昨夜のラジオで聞いたような、と淡い記憶を頼りに身支度をしていると、なにやら嫌な音が外から聞こえてくる。
まさか、と思って外を見てみると、案の定どんよりとした空からは大粒の雨。
どちらかと言えば雨は好きなので、小降り程度だったら行ってやろうと思ったけど、流石にこの雨だと行く気にはならない。
諦めて、オフィスの端末を弄ろうかとも思ったけど、なんとなく雨の降りしきる音をこの広い空間で聴くのは寂しかったので、小型の端末を持って自分の部屋に戻ることにした。
自分の部屋で聞く雨音は、さっきと違って心地の良いものだった。やっぱり自分だけの空間ってすてきだ。まぁオフィスも今は自分だけの空間なんだけど、自分一人に対しての面積がありすぎる。落ち着かない。
端末の電源を入れると、専用の魔法回線を使用していることを示唆するロゴとメッセージが出て、くるくるとした円が回り始める。多分準備中って事だ。
ふと外を見ると、この住宅街の中心の広間で、数人の子供達がカッパを着たり傘を差したりして遊んでいた。3人くらいが楽しそうに遊んでおり、一人の少女は降っている雨を、正確に言えばその空を、傘を差しながらじっと眺めていた。
ちょっと大人びた印象を受けるその少女に、私は「そういう落ち着きは、大人になれば自然と身につくから、子供のうちは何も考えずに遊んでおいた方が得だよ」と、そう心の中で伝えてみた。
たぶん、
ああいう子にとっては、大きなお世話なんだと思うけどね。
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