第2話お買い物
今日は買い物に出かけた。
とにかく家にも仕事場にも何も無いので、取り敢えず掃除をしようと思ったのだけど、そもそも掃除道具すらない。こんな時に魔法が使えれば、あっというまに掃除ができるんだろうけどなぁ、なんて思いながら、じゃあもろもろ買い物にでも行きますか、と、そんな感じだ。
でもお目当てのものが買える場所すらよく分からないので、ぶらぶらと散歩ついでにお店を探してみる。
住宅街を縫うように歩いていると、いろいろな音が聞こえてくる。
青い屋根の家からは、
「ちょっと、いつも言ってるでしょ! どうしてトイレの最中に魔法の練習するの!!」
どんな魔法の練習をしているのか、気になる。
小さな民家からは、
「女の子はねー、基本的に氷の魔法で花を作ってあげれば誰だってキュンとするもんだよ」
そんなことは無いと思う。
「私は女の子の前でそんなことを抜かすお前を氷の華にして美しく散らせる方が気に入られると思うけどね」
その通りだと思う。
家の前で雑談している少年と少女からは、
「俺が花だとして、俺の花言葉って何だと思う?」
うざい。
よくもまぁ、別々の家から共通の「花」に関する会話ばかり聞こえてくるものだと、妙に感心してしまった自分がちょっと情けない。でも二組目の、何気ないああいうやりとり、あれができるってことは、二人は相当仲が良いんだろうな、と思う。
男が言っていることは勘違いも甚だしいし、気持ち悪いけどそれを何の容赦もなくああやって突っ込める女の子がいるって事は、幸せなことだ。
きっと二人は仲良し、そう考えると世の中不思議だなって思う。
しばらく会話が聞こえないと思ったら、今度は楽器の演奏が聞こえてきた。これまた、肝心なところの音程を外す居心地の悪いものだ。
でも、その居心地の悪さが今はちょっと気持ちが良い。
それが何でだかは、よく分からないけど。
結局、見つけた百貨店がすごい大きい百貨店で、欲しいもの全部揃ってしまった。
すごい量の荷物で、わたわたしながら家路につくと、途中でいかにもなジェントルマンが手を貸してくれた。家兼仕事場の前の通りまで荷物を半分持ってもらい、ここまでで大丈夫です、ありがとうございました、と伝えると、その紳士は微笑んで、右手の平に氷の魔法で花を作って魅せた。それを私の頭にちょこんと乗せると、そのまま去って行ってしまった。
呆気にとられた私は、残念ながらきゅんとすることもなく、気持ち悪いと思うこともなく、頭がひんやりして気持ちいいな、と思うだけだった。
氷の華……流行っているんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます