かくしごと。
8月も半ばに入った。世間はこれからお盆休みに入る。しかし我が家のお盆休みは平常運転で、美穂姉はバイトで莉奈ちゃんも仕事で忙しい。そして僕は夏休みの課題に追われる日々だった。
そんなある日の朝、僕は父さんの一言で目が覚めた。
「大和、すまないが今日は明日あるコミケの準備を手伝ってほしい」
僕の父さんは漫画家である。それも今年でデビュー30周年というベテラン漫画家だ。過去には何作かアニメにもなった。しかし、父さんは自分の本当の職業を真莉子さんや莉奈ちゃんに伝えていない。一応デザイン関係の仕事だとは言ったが、2人ともこれ以上は干渉しなかった。数日前、僕は父さんになんで2人に本当の職業を言わないかを尋ねた。すると、「50歳を過ぎて未だに美少女ばかり描いているなんてとても言えない」と言っていた。
ちなみに、僕は真莉子さんの仕事についてまだ知らない。どうやら父さんも美穂姉も真莉子さんの仕事について詳しくは知らないらしい。真莉子さんは都内に飲食店を出しているとは言ったが、その店の名前や具体的な場所については言わなかった。
朝食を食べ終えると、父さんは僕を連れて車を出した。しばらくして、仕事場に到着。仕事場は数ヶ月ぶりに訪れるが、相変わらず汚い。
アシスタントさんは10時に来るらしく、父さんも早速物置に行ってしまったので、それまで父さんが描いた原稿を見る。とはいえ父さんは数年前からパソコンとタブレット端末で描いているのでモニター越しだが。しかし、とても50歳を過ぎたおっさんが描いた漫画とは思えない。この漫画の作者は20代だと言っても信じてもらえるだろう。特に美少女を描くセンスは業界トップクラスではないだろうか。
そして父さんが過去に描いた漫画の単行本を読む。父さんが描いている漫画は昔からラブコメもの(自分のオタク趣味は半分父さんのせいだと思っている)だが、絵柄も作品や時代に合わせてかなり変化している。30年前と今の漫画では大分絵が変わっており、とても同一人物が描いているとは思えない。
そしてこうしているうちに、父さんがやってきた。
「さっきまで物置で何やってたんだよ」
と僕は言う。すると父さんは、
「あ?コミケの準備をしてたんだよ。同人誌出すからな」
と言った。どうやら父さんは同人誌も出しているらしい。と思ったが、
「一応言っておくけど、俺の描いた同人誌じゃねぇぞ。アシスタント連中がやたら同人誌出してるんだ」
と言った。試しに物置に行くと、これから売りに出る同人誌の束が数個置いてあった。そして束の上にはアシスタントさんの名前が書かれたメモ用紙が貼ってあった。どうやら5人が同人誌を出すらしい。
そして10時になり、アシスタントさんが続々と仕事場に表れる。父さん曰く、アシスタントさんは現在、ヘルプ含め8人いるとのことだ。そして8人全員やって来た。
「先生、同人誌をまとめてくれてありがとうございます!」
アシスタントさんは父さんにこう言ってきた。あとは現場に出すだけらしい。そして僕は父さんにこう言う。
「何のために呼んだんだよ!結局僕の出番なかったじゃんか」
すると父さんは、
「いやぁすまない。俺ももう歳だから無理したらダメだと思ったけど、案外楽だったからな」
と言ってきた。
そしてしばらくして宅配屋さんがやって来た。これからこの同人誌を現場まで運ぶという。そして宅配屋さんが出ていくと、父さんとアシスタントさんは明日のコミケの打ち合わせが始まった。どうやら父さんも明日コミケに行くらしい。結局僕の出番はなさそうだ。
そして昼になる前、僕が仕事場から出ようとした時、父さんからこう言われた。
「大和、俺も明日のコミケで大切な発表があるから来てほしい。あと言うと明日、莉奈ちゃんもコミケに出るらしいぞ。よかったら美穂と真綾ちゃんも連れてこい」
父さんがそう言うと、僕に1枚のビラを渡した。ビラの内容は、父さんが今描いている漫画のイベントだった。そのビラには作者である父さんもサイン会とトークショーを行うと書かれていた。そしてサプライズゲストも数名出るらしい。
僕は父さんからビラを渡されると、仕事場を後にした。ここから家までは電車を使うから30分くらいかかるな。
そんなこんなで僕は帰宅し、夏休みの課題に取りかかる。そして夕方には美穂姉がバイトを終え帰宅し、夕食前には莉奈ちゃんも仕事を終えて帰宅した。
夕食(スーパーで買ってきた弁当)時、僕は莉奈ちゃんに明日コミケに出るのか聞いた。どうやら出るとのことだった。そして場所を尋ねる。すると莉奈ちゃんは机に置いてあった明日父さんが出るというビラを見つけ、僕と美穂姉に見せた。
・・・どうやらサプライズゲストの1人は莉奈ちゃんらしい。
それには僕も美穂姉も驚愕した。そして僕は莉奈ちゃんに、「父さんが漫画家なの知っていたの?」と訊ねた。すると莉奈ちゃんは、
「ん?私、前から知ってたよ。
と言ってきた。だったらなんで隠し通す必要があるんだよ。本名で描いていたら仕事を隠す意味ないじゃん。
そして夜遅く、夕食後には真莉子さんが帰宅し、父さんは仕事場に泊まり込むらしい。真莉子さんが帰宅すると、父さんは仕事場から真莉子さんと莉奈ちゃんにそれぞれ電話をかけ、自分の仕事のことを伝えたという。そして、その電話を聞いた2人はなぜか笑っていた。
明日は美穂姉もバイトはないらしく、真綾も暇だと言っていた。そして僕は2人に「せっかくだしコミケに行く?」と訊ねたら2人ともその誘いに乗ってくれた。
とりあえず、明日が楽しみだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます