3時間

「安楽死をお願いします。ですが、あと3時間待ってください。」


飼い主の夫婦は、涙を堪えながら、そう言った。


もう助からなければ、その苦痛から解放してあげたい。

そんな苦渋の決断をする飼い主はいる。


3時間。


それは、今は実家を離れて暮らす飼い主夫婦の息子さんが、病院に辿り着くまでの時間だった。


息子さんが子供の頃から可愛がっていた犬だそうだ。

今は遠方で暮らしているが、一目会いたい。

その気持ちは痛いほどわかった。


「もうすぐお兄ちゃんに会えるからね。もう少し頑張るのよ。」

そんな呼びかけに、僅かに尻尾を振って応える。


3時間後、大好きなお兄ちゃんの腕の中で、その犬は息を引き取った。

愛する者達に見守られての最期。


「この子、幸せだったんだよね。」


遺体を綺麗にしている時、動物看護士がポツリと呟いた。

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