第7話 武器屋に無視された!

 中央広場は中央に定番の噴水があって、噴水を取り囲むように花壇とベンチがあり、広場の外周には広葉樹が整然と立ち並んでいる。広葉樹の外側を取り囲むように店舗が立ち並び、アルカエアの言った通りここに施設が集中しているようだな。

 噴水の周りにはプレイヤーの姿も多く見られ、ゴザを広げて素材や回復アイテム、武器などを売っているようだな。

 

 店にはそれぞれ看板がかかっており、扉の中に入らずともどんな店か判断がつくようになっていた。

 俺は街に入ってからテンションが上がりっぱなしで、良くできた街の風景に魅了されていた。ウキウキしながら全ての店舗の看板を眺めた後、広葉樹の下に設置してある二人掛けのベンチに腰を降ろす。

 

「すごいはしゃぎっぷりだね」


 アルカエアが少し呆れたように肩を竦め、俺の隣にちょこんと腰かける。

 

「いや、これだけ細部まで作り込まれていたらテンションがあがるって」


「ボクも初めて街に来たときは少し驚いたけど……君ほどじゃなかったよ」


「あ、アル。武器屋に行ってもいい?」


「え? う、うん」


 アルカエアの返事は何故か歯切れが悪かったけど、俺はウキウキと鼻歌を歌いながら武器屋へと向かう。

 武器屋は座っていたベンチのすぐ目の前にあって、剣が交差した絵柄の入った看板が掲げられている。

 

 一応扉をノックして武器屋に入ると、中は様々な武器が立てかけられたり、壁にひっかけられていたりして店内に所せましと並んでいた。

 

「いらっしゃい」


 カウンターの向こうに居た髭もじゃの筋肉質な中年の店主が、俺達に目を向けようともせずぶっきらぼうに発言した。

 うん、典型的な武器屋のNPCって感じの人だよな。武器屋の店主って職人気質な感じかガハハと豪快に笑うような人かどっちかのイメージがある。

 

「イソギニア用の武器って何かないのかな?」


 俺が店主に問うと、店主は何も答えない。

 俺の言葉を認識しなかったのかと思い、俺は再度同じことを問いかける。

 

「イソギニアの武器って何かないのかな?」


「……」


 あれ? 店主が無言なんだけど……

 俺が首を傾げていると、アルカエアが俺の肩を叩く。

 

「イソギニアの武器が無いんじゃないかな?」


「え?」


「君も言ってなかったかい?」


「え、あ、ああ、そうだけど、こう触手をコーティングするとかあってもいいじゃないか?」


「……気持ち悪い……」


 アルカエアは無いと言うけど、そんなことはないと思うんだよ。だっていつまでも初期装備で高レベルのボスに挑めって言うわけないじゃないか!

 きっと武器屋に準備している標準武器のリストにはないだけだ。となると……素材を集めて鍛冶屋か縫製屋に行けば分かるかもしれないな。

 

「鍛冶屋か縫製屋に行ってみないか?」


「あ、うん……」


 俺は気乗りしない態度をありありと見せて来るアルカエアを引きずり、鍛冶屋へと向かう。

 


◇◇◇◇◇


「いらっしゃませー」

 

 鍛冶屋に入ると、カウンターに座っていた十歳くらいに見えるドワーフの少女が元気よく俺達に挨拶をしてくる。ドワーフの女性は成人しても人間で言うところの十歳から十二歳くらいの少女に見えるから、彼女は恐らく子供ではないんだろう。

 

 鍛冶屋は髭もじゃで背が低く筋肉質なドワーフの男と、ドワーフの女の子の二人が経営するお店だった。

 炉などの設備は店の奥にあるらしく、カウンターで店番をするドワーフの少女に素材を渡し、奥にいるドワーフの男の店主が加工する仕組みになっているみたいだな。

 

「イソギニアの武器は作れるのかな?」


「はあい。ではウインドウを開きますね」


 少女の言葉と共に、俺の目の前に透明なウィンドウが開き、穴あきのリストが表示される。

 どうやら表示されるのは、完成品に必要な素材を一つでも持っていたら表示されるみたいだな。今のところ表示されているのは一つ。

 

・レア度三 緑の被膜

 必要素材:跳小竜の鱗 四、紅亀の鱗 一、泡蛇の被膜 一


 ふむ。紅亀と泡蛇ってのを倒さないといけないのか。

 俺は隣で怪訝そうな顔をしているアルカエアの方へ向き直る。

 

「アル、緑の被膜って武器があるみたいだぞ」


「あ、う、うん……素材は足りてるのかな?」


「いや、紅亀と泡蛇ってのを倒さないといけないみたいだよ」


「泡蛇はともかく……紅亀も必要なの? 武器のレア度は?」


「三って書いてるな」


「イソギニアってなかなか大変なんだね。紅亀はボス難易度四だよ」


「ボスなのかよ! 紅亀ってやつは」


「うん。泡蛇は難易度二のボスだね。難易度二くらいなら初期装備でも大丈夫かな……」


「アルの装備は初期装備なのか?」


「初期装備みたいなものだよ。ボクの武器はレア度一だからね。一度、難易度二のボスに挑戦してみたけど何とかなりそうだったよ」


 うーん、イソギニアの武器は割に過酷だなあ。メタモルフォーゼオンラインのイノーンや跳小竜のような雑魚モンスターは初期装備でも武器を振るう練習相手レベルで、プレイヤーはボスと呼ばれるモンスターを狩るのが基本になっている。

 ボスには難易度が設定されていて、アルカエアが言うには初期装備でも難易度二くらいまでなら大丈夫とのことだ。難易度一はチュートリアルみたいなものだろう……たぶん。


「あ、武器のレア度とボスの難易度が同じくらいで行くのが適正なのかな?」


「難易度五か六くらいからは、それくらいのバランスって聞いてるよ。まあ、ボスの攻撃を全てかわせば倒せるんだろうけど……」


「あー、武器が弱すぎると、全てかわせても、時間がかかり過ぎるか」


「そうだね」


「よおし、さっそく泡蛇って奴を倒しに行くか」


「防具はそのままでいいのかな?」


「ああ。きつそうなら防具を見に行けばいいかな。とりあえず一度戦ってみたい」


 メタモルフォーゼオンラインはプレイヤースキルが多くを占めるゲームだし、武器防具の強さはボスを倒す為のしんどさが変わるだけで、極端に言えば難易度十のボスでも初期装備で倒せなくはない。

 もちろん、一発でも攻撃がかすればアウトだし、何時間も攻撃を当て続けなければならないけど……

 武器防具の質より自身のプレイヤースキルを高めることこそ重要だから、少し難易度の高めのボスで慣れた方がいいだろ。

 

 この時の俺は当たらなければ問題ないと考えていたけど、後に考えを改めさせられることになる……


 俺が鍛冶屋から出ると、アルカエアも俺の後をついてきてまたしても俺の肩を後ろからムンズと掴む。俺は首だけを後ろに向けてアルカエアをちらりと覗き込むと、彼女はまた何か言いたげに眉をしかめているじゃないか。

 

「ん?」


「リュウ、倒しに行くのはいいけど、一つ忘れてないかな?」


「はて? なんだろう?」


「君は泡蛇がどこにいるのか知ってるのかな?」


「あ、いや……」


 ん、ああ、アルカエアの言う通りだ。泡蛇と戦うつもりだったけど、どこに行けば戦えるのかって考えてなかったよ!

 調べないといけないな……

 

 アルカエアは両手を腰にやり盛大なため息をつく。

 

「全く……」


「こ、これから調べるさ」


「いいよ、調べなくて。場所は知ってるから、行こうか」


「あ、ありがとう」


「やれやれ……」


 アルカエアは俺の前へ回り込み、俺の前を歩いて行く。

 ちょっと抜けていただけじゃないかあ。そこまでげんなりしなくてもいいと思うんだよなあ。

 って考え事をしていたらアルカエアがどんどん前へ進んで行ってる。俺は慌てて彼女の後を追いかけるのだった。 

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