第6話 街へ行こう
剥ぎ取りをしていると、アルカエアが降りてきて剥ぎ取りを手伝ってくれた。モンスターは倒して一定時間立つと、剥ぎ取りをしなくても死体が消えてしまう。死体が消えてしばらく経つと、モンスターがリポップする。だから倒した後ノンビリとその場に立っていることは危険なんだ。
俺は剥ぎ取りをせずに一気に小型恐竜を倒してしまったから、急いで剥ぎ取りをしないと死体が消えてしまうところだったんだけど、アルカエアが手伝ってくれたから問題なく死体から素材を回収できた。
「ありがとう。アル」
「言いたいことはいっぱいあるけど、上へ戻ろうか」
「ああ。すぐに次が出てきそうだし」
俺達は傾斜を登り、アルカエアが待っていたところまで戻る。ここなら、小型恐竜に襲われる心配もないからゆっくり腰を降ろすことだってできる。
「リュウ、さっき
アルカエアは俺にトレード申請を送って来た。プレイヤー間のアイテム受け渡しはトレード申請を行い、お互いに取引するアイテムを確認して承認しなければ受け渡しすることができないんだ。
トレード以外に他プレイヤーからアイテムを取得することは基本できない。例外はプレイヤーの死体だ。死体に残っているアイテムは武器も含めて自由に奪うことが可能なんだけど、プレイヤー同士のPVPはまだ実装されていない。
だから、現時点で他人からアイテムを奪うとしたらモンスターに倒されて死体になった後回収する手段しかないってわけだな。
おっと、アルカエアのトレード申請を承認すると、ウインドウが開き彼女から申請されたアイテムが表示される。
何々……
跳小竜の牙 二
跳小竜の鱗 三
あの小型恐竜の名前は跳小竜って言うのか、さっきは名前を確認してなかった。俺から出すアイテムはないからそのまま取引完了を行うと、俺のインベントリに跳小竜の牙と鱗が入る。
「ありがとう。アル」
「どういたしまして」
アルカエアは何でもないという風に肩を竦めると、俺を上目遣いで見つめてくる。どうしたんだろう?
「どうしたんだ? アル?」
「いや、やはり気持ち悪い……」
ハッキリと言うよなこいつは……鮮やかな青色がダメなのか? 俺はそこまで悪く無い色だと思うんだけどさ。
「んー。色がダメなのかな?」
何の色とは言わない。彼女だって分かっているだろうから。もちろん色とは触手の色のことだぜ。
しかし、アルカエアの表情はさらに渋くなり、ため息をつかれた。なんなんだよもう。
「ハア。色の問題じゃないんだよ。君はどこか感覚がズレてるよ。ああ、ズレてなかったらイソギニアなんて使わないか」
アルカエアは一人納得した様子でウンウン頷くと、元の表情に戻る。
な、なんか納得いかないんだけど、突っ込んでも仕方ない。いつか君にこれは美しいと言わせて見せる。虹色とかどうだ? あるのか知らないけど。
「アル、つきあっててくれてありがとう。イソギニアでやっていけそうだよ」
「……イソギニアは引退してもいいんだよ?」
「……そこまで嫌わなくても……なかなか強いと思うんだけど」
「確かに、悪くはないと思うよ。悪くはないんだけど……ああもう。この議論はよそうじゃないか」
「ああ。そうだな……」
アルカエアは相当イソギニアが嫌なようだけど、それでも俺につきあってくれているのだから感謝しないとなあ。
俺は今のところアルカエア以外知り合いはいないし、ぼっちに戻るのは嬉しいことじゃないし。
「これからどうするんだい? 戦闘のお試しは終わったんだろう。もっと狩猟を楽しむのかな?」
「んー。一度街に行ってみようと思うんだ」
俺が何気なしに言うと、アルカエアは少し固り絶句した後、なんとか口を動かす。
「え……君は街に行かず、そのまま森に行ったの?」
衝撃のためかアルカエアの口調が普段の男っぽい口調じゃなく女言葉が出てる。そんなに驚くことでも無いんじゃないかな?
だって、アクションRPGだぜ。まずは戦ってみたいって思わないのかな?
「ああ。ゲームスタートしてそのまま森に行ったんだよ。その後のことはアルも知ってる通りだよ」
触手紳士でゲームスタートしてすぐにハラスメントで名前変更、同性愛者の恐怖から容姿を変更……と最初はトラブル続きだったんだな……その後もイソギニア形態だと歩けないとか……
俺がこれまでの苦労を振り返っていると、アルカエアはため息をつき俺を誘う。
「じゃあ、始まりの街オリジンに行こうか」
「おー!」
俺は両手を振り上げ歩き出そうとすると、アルカエアから待ったがかかる。
「リュウ、ボクといる間だけでいいから、街に行く時には人間形態になってもらえるかな?」
「そうだな。街だと人間形態の方がいいよな。一分だけ待っててもらえるかな?」
「うん。もっとゆっくり行ってきていいから」
アルカエアはたぶん俺がトイレに行きたいとでも思ったんだろうな。ゲームをしていて少しだけ離籍ってのは良くある。トイレや飲み物、電話などなど。
VR空間でももちろん人間の生理欲求は起こる。
俺の場合は街だと戦闘が無いから、3DからVRに変更する時間のつもりで彼女に「一分」と言ったんだけどね。
人間形態に変身し、3DからVRに切り替えた俺は辺りをキョロキョロ見渡す。やはりVRは良いなあ。風の音、肌に感じる日差し。まるで異世界に来たかのような感覚に俺は酔いしれる。
うーん、VRって素晴らしい!
「もう大丈夫かい? じゃあ行こうか」
「おー!」
俺とアルカエアは荒野を後にして、草原へと移動し街へと向かう。
草原に入り、森と反対側に進むと大きな城壁が見えてきた。この辺りまで来ると石畳の道が敷かれていて、俺達は道を歩きさらに進んでいくと城壁中央にある大きな門まで到着する。
門には門番が左右に二人立ち、道行く人を見守っている。
「おお。すげえ。大きな門だなあ」
気持ちはすっかりお登りさんな俺は石造りの城壁を見上げ、続いて門に繋がる大きな鉄の扉をしげしげと見つめる。
「この門は夜になると扉が閉まるんだよ」
「夜間は出入りできないってことなのかな?」
「うん。メタモルフォーゼオンラインでは四時間が一日になってるんだよ。門に出入りできない時間はだいたい一時間だね」
「おお。プレイ時間が限られているから、ログアウトするときは外でした方がいいな」
「ずっと戦闘をしたいならそうだろうね。まあ、街は街でいろいろ出来ることがあって楽しいよ」
「それは楽しみだ!」
俺は門に再び目をやると、アルカエアと共に始まりの街「オリジン」への門をくぐる。
「おおおお!」
目に飛び込んできた街並みに俺は思わず歓声をあげる。中世ヨーロッパ風と思っていたが微妙に違うなこれは。
漆喰の壁に青いレンガ屋根の二階建ての建物が道の両脇に立ち、左右の建物はロープのようなもので繋がれていて、そこに旗のような黄色い布がひっかけてある。
風が吹くと布が揺れて俺の目を楽しませてくれる。
「中央広場に行こう。そこに街の施設は集中しているから」
アルカエアが俺を促す。
「えっと、他のエリアはどうなってるの?」
「今のところ、プレイヤー住居になるアパートがたくさんある感じだね。いずれ変わるのかも」
「おお。自室は欲しいな」
俺は自分の部屋を思い浮かべながら、中央広場へと向かって行く。
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