「女」「カレー」「秘め事」200〜500字

 学食のカレーなんて、うらら先輩には相応しくない。わたしたちは色違いのトレイをくっつけて向かいあう。曇ったスプーンがプラスチックのお皿をこするたび、その安っぽさに苛立った。

 先輩の胸に宿るのは三年生をあらわす群青のリボン。涼しげな色は首筋の白さを際立てている。すらり、としたたたずまい。ちいさな頭部は外国のお人形みたい。つめたい黒の髪はポニーテールに結われて、墨を流したよりも艶やかな流れになる。

 瞳は真夜中のみずうみ。白磁のまぶたがまたたく。

「さやちゃん、秘密って、ある?」

「それは、隠したいことはないとは申せません……けれどなぜ、そんなことをお聞きになるのです」

「あのね……」

 先輩がふっと立ち上がって、わたしの頬に触れた。耳元に声が、花の香る吐息がこぼされて、心臓が止まってしまいそうだった。

「女になるには秘め事をしなくてはならないのですって。おもてざたにならない心のうちが、少女を女にするのですって」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る