「橙色」「坂道」「わからない」
「夕暮れの風は橙色をしているんだって、ずっと信じてたんだよ。わたし」
緩やかな上りが急な下り坂に転じる。街に沈む夕日がよく見えた。白杖を頼りにしていた頃ならば、海の底へ向かうような気分になっただろう。
義眼のセンサに触れた光は、ゼロとイチで構成されるデータとして脳へ送られる。世界のありようはひとつの答えとして像を結ぶ。わたしはこの一年で、ずいぶん色の名前を覚えた。
「あなたの言葉で知る風景が、好きだったなぁ。答え合わせするのが惜しいくらい」
絡めた指がわたしを引き寄せる。触れあうのは、くちびる。離れて、耳を温かな声がくすぐる。
「これは何色だと思う?」
「……そんなの、わからないよ」
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