「神様」「迷信」「楽園」「春」「橋の下」「おかしな山田くん」

 神様なんて迷信だわ、と彼女は言う。僕にとってはあなたが神なのに。


 常春の楽園はすべてが整っている。僕らが小舟を浮かべる川も、澄み通って金銀の魚を泳がせている。

 頭上には橋がある。僕には見えぬ透明な橋。行き交う者たちは、一歩を踏むごとに桜の花弁を足裏からほとばしらせる。僕らはその柔らかな雨を浴びている。


「ではあなたは誰なのです」


「ただの人間よ、おかしな山田くん」


 僕に山田という名を与えたのは彼女のはずだが、違うと言い張る。いわく、元から僕はその名を持っていたのだと。


「覚えていないのね。それとも本当に知らないの? わたしの逢いたいあなたではないの? わたしはいつも都合の良い夢を見て、ここだけがうまくいかない」


 彼女は水晶の雫を涙として泣いた。

 僕は彼女に触れられない。

 じきにこの世界は終わるだろう。

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