赤
裸のままの白熱灯に、浅い水を泳ぐ金魚が浮かび上がる。なんてことのない小ぶりの和金ばかりだが、群れ集まればそれなりのものに見える。つ、と下の方から袖を引かれる。髪をゆるく結い、浴衣を纏った妻がしゃがみこんでいた。
「金魚すくい、やってもいいでしょ」
黙って小銭を渡す。嬉々として妻はポイを受け取るが、もともと不器用な
露天のおやじにおまけしてもらった一匹の金魚が、ビニールの巾着をたゆたう。安っぽい色の紐に指をからめて、踊るように妻は先へと進んでしまう。人波に流されて思うように追えない。
やっと人の群れを抜けるが、妻の姿はない。目前に広がるのはきらめく夜景ばかりだ。目を落とせば、足元は暗い断崖だった。地面のきわがぬらりと光った気がして、手を触れる。指先がべっとり濡れる。とぼしい光の中でもなぜか、それが血だと知れた。脚から力が抜ける。重力に引かれて落ちてゆく。
浮遊感と共に目を覚ます。あまりに見慣れた天井に、ほっとしつつも落胆する。寝台を抜け出て簡素な仏壇の扉を開ける。夢の中よりいくらか歳をとった妻が写真の中でふにゃりと笑っている。
「また会いにきてくれたのか。なぁ、どうせならもっと楽しい夢を見させてくれよ。それとも何か、言いたいことでもあるのか?」
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