お守りのこと

 途中、色々なところに立ち寄った。どの町に行っても村に行っても僕は後ろに引っ込んでいたが、彼女は目をキラキラさせながらあちこち歩き回ったものだ。

 他の仲間と一緒に情報を集めるのは、いつも彼女。喋るのが苦手な僕は、宿に引きこもって留守番だ。

 ある日、彼女が息を切らせて部屋に駆け込んできた。

「……奇跡の祠?」

「そう! そこに行くと、冒険で絶対に必要な奇跡のお守りがもらえるんだって! 場所もわかっているから、行ってみようよ!」

 場所がわかっているとはいえ、徒歩と船で一ヶ月はかかるという。それでも行こう、魔王のいるところよりはきっと近いんだし……と彼女に押し切られた。

 無論、途中には魔物がうじゃうじゃと出てきたけれど、脱落者を出すことなく僕らは祠にたどり着いて……、祠の結界を取り囲んでいた魔物の群れとまた激戦を繰り広げる羽目になった。

 もう、何度目だろうこういう目に遭うの。

 彼女と仲間が何か情報を持ってくる、出向く、魔物が待ち構えている。もはや様式美だ。

 僕が半泣きでひたすら剣を振り回している間に、何とか彼女と仲間が敵を倒してくれた。

「ねえ、随分強くなったんじゃない?」

 彼女が、肩で息をしている僕に言った。

「え? 何?」

 正直、いつでもいっぱいいっぱいで戦いの途中から僕の記憶は飛んでいたりする。

「……まあ、いいけど……」

 後で聞いたら、魔物の半分は僕の剣で倒れたんだとか。

 多分、僕に自信を持たせるために誇張した話だったんだろうなあ。

 そうでなければ、まぐれ当たりだと思う。


 そんなわけで、祠に入った僕らはそこにいた神官から『奇跡のお守り』を授かった。

 ひとつは幸運、ひとつは蘇生。どちらも細かい宝石で飾られ、手のひらほどの大きさがある。

 蘇生っていったら、寺院でものすごくお金かけて、成功するかどうかわからないこともある奇跡だ。本当にお守りにそんな力があるのだろうか。

 むしろ、これを売って寺院での蘇生費用に充てたほうが確実なんじゃないだろか。そういう意味での『備え』としてのお守り、という意味なら割とすんなり納得できるのだけれど。

……そんな考えはとりあえず胸にしまい、僕は蘇生のお守りを彼女に差し出した。

「はい、目的のもの」

「え? あたしがもらっていいの?」

「うん、戦力の要だし、僕より死なないだろうから。使わずに済んだらあとでお金に変えられると思」

 殴られた。

「感動しそうになって腹立っちゃった!」

 ぷんすかしながら、それでも嬉しそうに彼女はお守りを首にかけた。

 もうひとつのお守りは、どういうわけだか満場一致で僕が持つことになった。

 今でも、それは僕の首にかかっている。

 彼女曰く、あまりに情けないから運のご加護だけはもらっておくといいよ! だそうで。

 そりゃ、情けないのは仕方ないよ。僕は本来勇者でも戦士でもない、ただの人なんだからさ。

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