道中の僕ら
自慢ではないが、僕はパーティーの中で一番剣を扱うのが下手だ。正直、魔法使いの短剣にも、僧侶の持つスタッフ(杖)にも……そして、彼女の取り回すただの木の棒にすら、全く歯が立たないくらい。
彼女は、剣士として一緒に旅をしながら僕に剣の扱いを叩き込み続けてくれた、いわば僕の師匠でもある。
魔王の居場所を突き止めてたどり着くだけで、徒歩で三年。
その間中、
「はい、あと百回! ほら、素振りなんだからがんばって!」
「もう千回近く振ってるじゃないかー!!」
「鍛錬はひたすら繰り返すの。何千、何万と繰り返して、動きが条件反射になるまで! そういうわけで、あと千回!」
「ひー」
彼女のしごきが厳しかったのなんのって。
「あ、ほら魔物魔物! ちゃっちゃと倒しちゃおうよ! ほら、剣抜いて!」
「えーー!? ぼぼ僕が先頭!?」
剣に選ばれたのが、僕じゃなくて彼女ならよかったのに。
「ドラゴンが炎吐きそうになったら、そのまま突っ込んでね?」
「……」
旅の途中で、何度思ったことか。
目をつぶってドラゴンに突っ込んだら、当然狙いがそれてドラゴンと同じくらいのサイズの大岩を叩き割った。結果、その光景にドラゴンが怯んだところに彼女が止めを刺した。
「何で目を開けないで突っ込むの! ちゃんと標的見ないと駄目でしょ、見ないで剣振れるようになってないんだから! よく切れるんだよ、それ。うっかり自分を切ったらどうするの!」
「……はい」
後で、めちゃくちゃ怒られた。
別の戦いで、泥でできた魔物達に囲まれて。
「ほら、剣をしっかり握って! 滑って飛んで行っちゃったら丸腰になるんだからね!?」
「わ、わかって……わあっ!」
言った矢先に冷や汗と泥にまみれて滑った剣は宙を飛び、魔物達を楯にしていた魔道士の胸に突き刺さった。
結果として、他の魔物達はただの泥に戻った。
「だからしっかり握ってって言ったでしょ! 今回はたまたま運が良かったけれど、普通はあの時点で詰むからね。あなた、魔法も飛び道具も使えないんだから!」
「……はい」
やっぱり、めちゃくちゃ怒られた。
それでも、道中は他愛のない話もした。
村のみんな、どうしているかな、とか。
あの年の作物のできはとてもよかったね、とか。
この前立ち寄った宿、料金ぼったくりだったよねえ、とか。
丘の上で、座って黙って夕日を見たり、とか……。
「魔王倒したら、ピクニックに行こうよ! ほら、村からちょっと離れたあそこ」
「う、うん」
キラキラしている彼女の横顔を、相槌を打ちながら眺める。
「魔物もいなくなったら、きっと気持ちいいんだろうなー。ねえ、魔王倒したら、魔物もみんないなくなるのかな?」
彼女は事あるごとに、魔王を倒したらー、倒したらー、と勝てることを前提の話ばかりしていた。僕は、生きて帰れる気がしなかったので、いつも生返事。
びっくりするくらい楽観的で、前向きな彼女。
剣に選ばれなかったとき、悔しそうだった彼女。
剣の稽古では平気で人の背中に胸を押し付け、剣の柄を握る僕の手の上から、そうじゃなくてこうやって……と、容赦なく手を握ってくる彼女。
並んで座る時は、いつも微妙に距離を置く。
互いの手の距離は、こぶし二つ分くらい。わざわざ手を握りに行くには遠く、話すには差し支えのない距離。
そんな距離にどきどきするようになったのは、いつからだっただろう。
そもそも、僕は彼女に対して幼馴染以上の感情を持っていなかったし、僕に対する彼女もそうだったと思う。
いや、そう思うことにしていた。
『魔王を倒したら結婚しよう』
……なんて、それどんな死亡フラグだよ、って話で。
きっと、一方的な片思いだ。そうでなければ、錯覚だ。
だから、僕の考えや気持ちは胸にしまって、ただ黙って彼女の話を聞いた。
「それでね、魔王を倒したらね――」
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