村にて

 三日後。

「いやー、どうなることかと思ったわぁ」

「どうなるとかこうなるとかじゃないだろっ!?」

 僕らは、山を下った先の小さな村にいた。

「やだあ、怒鳴ることないじゃないー」

 質素なベッドに横になった彼女は、へらへらと笑いながらひらひらと手を振る。

 魔王が倒れるのとほぼ時を同じくして、徘徊していた魔物達は姿を消した。

 僕らがたどり着いて事情を話したときから村はずっとお祭りムードで、昼から今まで酔っ払いの歌声と笑い声、子供達のはしゃぐ声が絶えない。彼女が起き上がれるほど元気だったら、この部屋には否応なく村人達が祝福に押しかけてきたことだろう。というか、今も村長が必死に玄関先で応対しているのが聞こえてくる。お手数おかけします。

 王宮への使いの者を出す、と言ったら立候補者が多すぎて、それも騒ぎになっているようだ。いずれにせよ、そのうち王都にもこの知らせは届くことだろう。

(そうなったら、こんなにのんびり休ませてはもらえなくなるのかな?)

 それを思うと今から頭が痛い。正直、逃げたい。

「それにしても、見事に真っ二つだねー」

 さっぱりとした口調の彼女の枕元には、彼女が胸にかけていたお守りがある。一応、拾える部品は全部拾ってきたけれど、もう効力を発揮することもない。と、思う。

「その蘇生のお守り、頂き物だけれど多分すっごく高価だったんだよ? 使わずに済んだら、売って生活の足しにしようと思ってたのに……」

 僕は、そんな本音を言いつつがっくりとうなだれた。あぁ。安心したらなんだかもったいない。

「ちょっとー、まだそれ言う!? 珠のお肌に傷が残らなくて良かったとか、そういう感慨はどっこにもないわけ!?」

 彼女の抗議はぎゃんぎゃんと元気いっぱいだが、やはりまだ疲れているのか、体を起こそうとはしない。

「あの時生きてた時点で、感慨とか何とか言ってる場合じゃなかったよ!!」

 これまた、僕の本音。

 多分、お守りのおかげで彼女は助かったのだ。めでたしめでたし、だ。あの魔王の一撃は、どう見ても致命傷だったし。きっと、お守りがなかったら反撃も何もできないまま彼女も倒れていたに違いない。

 あの時、剣ごと力任せかつ物理的に振り回されて(あれ、きっと『火事場のなんとか』の超強烈版だ)、気がついたら魔王が切り伏せられていた……というのが、あの時の僕の立場。

 正直、何がなんだか今でもさっぱりわかっていない。

 わかっているのは、僕らは確実に魔王を倒したのだ、ということ。

 こうして、ベッド際とはいえ軽口を叩けるほどに彼女が元気だ、ということだ。


 ひとしきり騒いだ彼女は、長年剣を握って硬くなった指で、そっとお守りをなでて。

「やー、よく爆発しなかったよねぇこれ。ファイナルストライク、だっけ? アイテムが壊れる瞬間魔力が爆発するヤツ」

 あっけらかんと恐ろしいことを言う。

「いいい今になってそんなん言わないでくれよ! 胸元で爆発とか冗談きついっ! しかも蘇生レベルの魔力とかシャレにならないだろっ! というか、今爆発しないのかそれ!? しないよな!?」

 僕はといえば、今さらながら冷や汗だらだらだ。

 ただでさえ、ねずみが壁をガリゴリやるのに未だに飛び上がり、人前ではうまく喋れない僕。旅に出る前は、クワしか振ったことがなかった僕。

 旅立って一年経ち、二年経ち、魔王と対峙する直前になってもスライムに囲まれれば慌て、小型の火吹き鳥から逃げ回っていた、僕。きっと、よほど剣の才能がないのだと思う。戦いそのものに全く適性がないのかもしれない、と今でも思う。

 あの戦いで、仲間のうち二人は倒れ――とはいっても、幸運なことに彼らは寺院で蘇生待ちだ――傷が肌に残らないレベルだったということは多分、彼女もあの一撃で一瞬とはいえ死んだのだ。

 もし、このお守りの効力がなかったら、僕だけがあの場にたった一人残されていたら……と考えると、今でも背筋が凍る。確実に死んでいた自信しかない。

 正直、何で僕が村人から勇者様とか呼ばれるのか、今でもさっぱりわからない。

 どうして、剣が僕を選んだのか。

 どうして、あんなことから始まったのか――

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