いつだって、僕らの距離は

ひょーじ

その時彼女は

 その差、彼女のこぶし二つ分。


「――!」

 多分、僕の声は悲鳴になっていなかったと思う。

 僕らの踏み込みの差は、わずかこぶし二つ分。

 彼女のほうが、ほんの少しだけ踏み込みが深かった。


 こぶし二つ分の差、とはいうが。

 人間の体表から心臓までは、大体こぶし一つ分くらいしかないと聞く。

 横なぎにされた刃が僕の鎧を掠めたということは、彼女の胸に切り込んだ刃の深さは……。


 その一瞬、僕は完全に硬直していたように思う。否、硬直していた。

 飛び散る血が、きらめく刃が、ひどくゆっくりに、残酷なまでにはっきりと見えて。

 彼女の胸元で、鎧ごと断ち切られたお守りの部品が、キラキラと砕けて。


「――!!」

 彼女は、声にならない声をあげ、そして。

 後ろによろけて、僕の手にすがり。


「――」


 僕の右手の剣に、手をかけ。


「――――!!!!」


 硬直していた僕を渾身の力で引きずり、そのまま魔王へと突っ込んだ。

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