第3話

「なぁお前、出身はどこだ?」


イヴの外見は少し異常だった。色素が薄すぎる。

少し説明をしておくと、この宇宙の惑星は太陽に近い順に、ジャーマ、ナトゥラレサ、アグア、エスペランサと並んでいる。基本的には、太陽から遠いところほど生物の色素は薄くなる。だが、イヴはどこ出身にしたって色素が薄すぎるのだ。

「イヴ、どこで生まれたかはわかんない。でもおばあちゃんとおじいちゃんはアグア《ここ》で育ててくれたよ。」

イヴは魚を口いっぱいに頬張りながらそう答えた。エベルハルトは「食べ物を口いっぱいに頬張りながら喋るんじゃねぇ」と注意しながら思考を巡らせた。


イヴなんて名前は珍しいもんじゃねぇ。だが、あの透き通るような白い肌と髪、血のように赤い瞳を持っていてしかも名前がイヴとなると、少し夢物語のようなことを考えちまう。伝説の惑星「イヴ」。夢物語か現実かわからねぇが、「イヴ」のことを記した資料は数件見つかっている。俺も実物を目にしたことはあるが、そこには「惑星イヴの出身者は総じて異常な程に色素が薄い」と記されていて、イヴのようなアルビノや薄い水色の瞳や髪を持った人の写真が数枚載っていた。


こりゃぁ思わぬ拾い物をしたな。この女が亡星「イヴ」の出身者である可能性は極めて低いが、全てを失った今ならこんな馬鹿みてぇな可能性にかけてみてもいいかもしれねぇ。


「ねぇ、ハルトはどこ出身なの?」

さっき注意したにも関わらず、イヴは魚を口いっぱい頬張りながらエベルハルトに聞いた。

「俺はエスペランサ出身だ。」

だから物を食べながら喋るんじゃねぇ、と再び注意しながら答えた。

「ふーん、エスペランサってことはやっぱお金持ちなの?」

エスペランサは4つの星の中で最も商業が栄えた星で、様々な惑星の出身者が集まるビジネスの星だ。そのため、エスペランサ出身=金持ちという考えもあながち間違いではない。エスペランサは金がなければ住めない星なのだから。

「あぁ、まぁガキの頃に金で困った記憶はねぇな。」

このガキ、なんでこんなことを聞くんだと思ったが、口にするのも億劫な様子で、豪快に魚を食べるイヴとは反対に、串刺しの魚ですら上品に食べていた。

「やっぱりねー!イヴに食べ方の注意したり、食べ方がお上品だったりするから、いい教育受けてきたんだろうな~って。」

この女、馬鹿だが予想以上の鋭さを持っている。


「んー、お腹いっぱいになったら眠くなってきたねぇ。」

さっき少し賢い面を見せたかと思えば、馬鹿デカい魚をものの数分で平らげ、膨らんだ腹を撫でながら微睡み始めた。ちなみに、エベルハルトはその魚を食べあげられていない。

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